第108話 罠?
私は、パーシバルと一緒に、グレンジャー子爵家が、何故、あそこまで貧乏だったのか? そして、領地経営についても一緒に考えたいと思った。
ゲイツ様に調査は頼んだけど、これから一緒に暮らすのはパーシバルだもの。もし、4代前の失敗を引きずっているなら、グレンジャーの土地はやめておいた方が良いとか話し合いたかったのだ。
寮の下女に『話し合いたいので、土曜の夕方に家に来て頂けませんか?』と手紙を書いて渡す。
ちゃんと2人で考えた花押を書いたよ。
夕食の時に、パーシバルはいつも通りだったけど、その前に返事は貰った。でも、その手紙には花押は無かったけど、忘れたのかな?
『金曜の1時間目に秘密の東屋で』と書いてあったのだ。
夕食を終えて、マーガレット王女とリュミエラ王女が部屋に上がる。私も一緒に行こうとしたけど、やはり気になった。
約束したのに忘れたの?
「パーシバル様? 花押がありませんでしたわ」
少し腹が立っていたので、立ち上がる時にソッと呟く。
パッと手を掴まれた。
「ペイシェンス様、何の事でしょう?」
えっ、もしかして違う人の手紙なの?
「私の手紙に返事が来たのです。明日の1時間目に秘密の東屋で会おうと……でも、花押もなかったし……まさか!」
パーシバルは、私の背中に手を回してエスコートすると、別の席に座らせて、経緯を話させる。
「いっぱいお話ししたい事があって、パーシバル様の部屋に手紙を届けて貰いましたの。土曜の夕方なら教授達も帰られるから、家に来て貰いたいと思って。そしたら、この返事が届いたのです。花押がないから、子供っぽい約束だと思われたのかしらと、少し腹を立てていましたの」
返事を渡すと、パーシバルがすごく厳しい目をした。字は綺麗だし、よく似ている。
「どの下女に手紙を渡したのですか? そして、返事を持ってきた下女は?」
えっ、たまたま通りかかった下女だし、名前は知らないよ。
「茶色の髪で、目が青い下女ですわ。返事は、扉の下から部屋に入れてあったから、誰かはわかりません」
パーシバルは自分は手紙を受け取ってもいないし、返事も書いていないと言う。
「それに、秘密の東屋なんていいませんよ。2人の大切な場所を言い間違えたりしません」
きゃぁ! もしかしたら違う相手と逢引きする羽目になったのかも? でも、それより、大切な場所と言われた方が私には大事に思えちゃう。恋愛脳だよ。
「やはり、花押を考えておいて良かったです。その下女に質問したいですね」
でも、下女は多分、パーシバルの部屋の扉の下から手紙を入れただけだろう。誰かが、それを見つけて……まさか、キース王子? 違うと思いたい。
「キース王子は、そんな事はされないでしょうが……」
ラルフとヒューゴがしたのかも? それか、他の人?
「明日の1時間目に
悪い評判が立つと、パーシバルと結婚できなくなるかもしれないのだ。
「ええ、気をつけますわ」
パーシバルは、茶髪の青い目の下女を探して質問したけど、部屋に届けただけだと言った。
「返事は届けていませんよ」
誰かが他の下女に届けさせたのか? でも、誰も私の部屋に手紙を届けてはいなかった。少なくとも聞いた限りではね。
「女子寮の学生かもしれません」
でも、それは無理があるのでは?
「私がパーシバル様に書いた手紙は、男子寮で無くなったのでしょう? 女学生は男子寮には入れませんわ」
パーシバルは、少し考え込んでいる。
「地方出身で寮に入っている学生の中には、同じ地方の女学生と知り合いも多いです。それを届けて貰ったのかも? それにしても、秘密の東屋だなんて……手紙を書いたのは、学生ではないのか?」
私は知らなかったけど、
ラルフやヒューゴが人の手紙を取るような真似をしたとは考えたくない。
キース王子も普段通りになっていたもの!
結局、犯人はわからないままだった。バレているだろうけど、パーシバルは金曜の1時間目に見張っていたのだが、やはり誰も来なかったのだ。
私は、寮の食堂で待っていたのだけど、ここでも話せるけど、本来は開いていない時間だから居心地は良くない。
「ペイシェンス様、私と一緒じゃない時は、マーガレット王女の側を離れないようにして下さい」
そうは言っても、ほとんどマーガレット王女と同じ授業はないし、錬金術クラブは一緒じゃないのだ。
「錬金術クラブには私が送り迎えします」
えええっ、それって良いの? パーシバルは学生会長で忙しいのではないの?
「逢引きでも問題ですが、誘拐とかも考えられるのですよ!」
パーシバルは、凄く警戒している。
「そうなのかしら?」
驚いた私の肩に手を置いて、約束させられた。
「本当にペイシェンス様は危機回避能力が無いというか、おっとりしすぎています。お願いですから、私と一緒に錬金術クラブには行きましょう!」
一緒にいれるのは嬉しいけど、大袈裟すぎない?
でも、約束したよ!
「どうしても私が無理な時は、錬金術クラブメンバーに寮まで送って貰って下さい」
まぁ、これまでも遅くなったら送ってくれていたけど……不安になってきた。
それに、グレンジャー家が何故あそこまで貧乏だったのかも謎だ。
「パーシバル様、少しお恥ずかしい話なのですが……」と事情を話す。
「それは、おかしいです! 法衣貴族としての年金があるのに……確かに縁談を持ち込んだモンテラシード伯爵夫人から、自領の飢饉の援助をして貰ったから、持参金は少ないかもしれないと両親は聞いたそうですが……」
まぁ、あの時なら持参金は、ほぼ無しだよね。
「ゲイツ様も、母の形見のティアラを売りに出すほど困窮するのは、変だと言われたのです。私は、子どもだったし、そんなものかと思っていたのですが……」
王妃様にお礼を言っていた時に、パーシバルもいたので、ティアラの件は知っていた。
「私は、ケープコット伯爵家との絶縁が原因でティアラを売却されたのだと勘違いしていました。まさか、生活に困窮して売却したとは思いもよりませんでした」
えっ、そう感じたの? 母親の形見なのに?
ああでも、確かにケープコット伯爵家の刻印がされているけどね。
「確かに、ケープコット伯爵家の紋章が刻まれていますが、私はお母様の形見だから大切に使わせて貰いたいと考えています」
パーシバルもそれが良いと頷く。
「私は、グレンジャーの土地が遠浅なら、それを生かした活用方法があるのではないかと考えています。それと、ライナ川の底に溜まった土砂を取り除く方法もあると思うのです」
これについて、2人で話し合いたいと思ったのだ。
「それは、無理だから4代前の子爵が手放されたのでは?」
父親も反対している感じだった。
「ただ、前とは違い領地が繋がるなら、管理しやすい利点はありますが、莫大な資金を投入するのは、慎重にした方が良いです」
それは、私も考えるよ。貧乏は御免だからね!
「ええ、勿論です。それに、調べたり、勉強しなくてはいけない事がいっぱいありますわ」
ああ、それと……言いにくくて、言っていなかった事があるのだ。
左手を差し出すと、そこには腕時計と金の腕輪が嵌っている。
「これは、時計ですか? 変わっていますね?」
パーシバルは腕時計は、変わっているけど便利だと感心したみたい。
「実は、この腕時計はゲイツ様がサティスフォードまで持ってきて、誕生日プレゼントとして贈って下さったのです」
パーシバルも、サティスフォードにいたから、ゲイツ様が来たのは知っているけど、何故、あの時に来たのかはハッキリとは知らなかったみたい。
「ふうん、妬けますね!」
もう、パーシバルに失恋した女学生の方が多いよ!
「それと、この金の腕輪は拘束できる魔導具なのです」
誰に貰ったのか言わなくても分かったみたい。
「本当に、ゲイツ様はペイシェンス様と結婚したかったのですね」
そんな意地悪言わないでよ!
「私が好きなのはパーシバル様ですわ!」
なんて、いちゃいちゃして良い場所じゃないんだよ。
寮の小母ちゃん達が、掃除を始めている。
「土曜の夕方には、屋敷に伺います」
それを約束して、2時間目の第二外国語の教室に2人で向かう。
ただの悪ふざけなのか、悪質な悪戯なのか、それとも深刻に考えなくてはいけない罠だったのか? 私には判断できない。
でも、こうしてパーシバルと一緒だと安心なのは確かだ。
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