第105話 キース王子とオーディン王子とアルーシュ王子
パリス王子が急にカレン王女の留学を持ち出してきたので、こちらの雰囲気は重いけど、あちらはサンドイッチで盛り上がっている。
食欲だけで、他の問題はなさそう。
「ペイシェンス、これは何なのだ? オーディン様もアルーシュ様もわからないみたいだ」
キース王子も元気そうで何より! 席を立って、あちらのテーブルに行く。
「これは、ツナサンドです。ええっと、魚のコンフィですわ」
ゲッって顔をしたけど、美味しく食べた後でしょ!
「コンフィとは何だ?」
アルーシュ王子の質問に、調理方法を答える。
「魚を低温の油でゆっくりと加熱するのです。油にはローリエや胡椒やニンニクを入れて魚の臭みをとります」
ふむ、ふむと聞いていたアルーシュ王子がとんでもない発言をする。
「やはり、ペイシェンスは私の妻にならないか?」
ゲゲゲ、ここで言うのはやめて!
「アルーシュ様、ペイシェンスには婚約者がいるのです」
おっと、キース王子が助けてくれたよ。
「ふむ、なら仕方ないな。だが、まだ婚約だけだろう? 結婚までに気が変わったら、第一夫人にしてやる」
無理だから!
「アルーシュ王子、私の婚約者を口説かないで下さい」
私の側に来て、キッパリとパーシバルが抗議してくれた。
「ふうん、ペイシェンスは面食いなのか? 私もなかなかハンサムだと思っていたが、少し負けるかな?」
カラカラと笑うアルーシュ王子に「パーシバル様は完璧なのです!」と言い切った。
全員に爆笑されたよ。
「ペイシェンス様、それは惚れた欲目ですよ」
パーシバルも恥ずかしそうだ。
「えええ、本心なのに! 賢いし、優しいし、乗馬も上手いし、剣の腕も凄いです。それに、ダンスも上手いし、歌声も素敵だわ」
アルーシュ王子が、爆笑して、テーブルをバンバン叩いている。
「王立学園に留学して、こんなに笑えるとは思っていなかった。それにしても、パーシバルは幸せ者だな! 婚約者にこれほど褒められる男などそうそういない」
だって、パーシバルは本当に何でもできるもの!
「熱いわぁ! でも、ペイシェンス、婚約者を褒めすぎるのは、良くないわ。特に、パーシバルに失恋した女学生が大勢いるのですからね」
マーガレット王女に叱られちゃったよ。
「魚もこんな風に調理されたら食べられるな!」
偉そうなキース王子に戻っていて、少しホッとする。
「おっ、魚が嫌いなら、私が食べてやろう!」
オーディン王子が、ツナサンドを食べる。
「いや、私は食べられると言ったのだ!」
熾烈な争いがあちらではされているが、こちらは優雅にサンドイッチを食べ終わった。
「私は、やはり卵サンドイッチが一番好きですわ」
マーガレット王女に、パリス王子も同意している。
「カツサンドも美味しいですが、このふわっとした卵サンドの方が食べやすいです」
リュミエラ王女は、私と同じだ。
「あら、ポテトサラダサンドイッチが一番手がかかっていますし、美味しいと思います」
カレン王女の留学の件は、決まってからにしようと暗黙の了解で、触れないまま楽しそうな夕食を続けている。
「こちらはもう十分だわ。キース、まだ食べ足りないのではなくて?」
こちらは、女子3人と男子2人だからね! 女子は1種類ずつ食べたら、お腹いっぱいだよ。
「ええ、こちらはまだまだ食べられます」
ラルフとヒューゴがパーティーパックを取りに来た。
「あっ、ツナサンドだ!」
キース王子は、ツナサンドを気に入ったみたい。
「まぁ、魚を食べられるようになったのね!」
マーガレット王女も喜んでいるよ。1年半も見張ったのだからね。
兎も角、サンドイッチは完食され、デザートのチョコレートブラウニーは、残りの2ピースを巡って熾烈な争いになった。
エバが別の容器に7個ずつ入れていたのだ。
こちらは、マーガレット王女とリュミエラ王女が不戦勝だったが、あちらのテーブルでは3人の王子がにっこりと笑って譲らない。
「あれ? ザッシュ様は食べていないのでは?」
こちらは、5人、あちらは6人だよね?
「そうだ、ザッシュの分は私が貰おう!」
アルーシュ王子に1ピース取られた。キース王子が怒る。
「ペイシェンス、何故、こんなケチくさい数なのだ?」
それは、知らないよ!
「うちの料理人に聞いてください。11人分だから、少しずつ多く入れたのかも?」
足りないわけじゃないのに文句言わないでよ!
「仕方ない。オーディン様、どうぞ」
ああ、キース王子は、オーディン王子に譲っている。少し成長したのかな?
それを見ていたマーガレット王女が提案する。
「ペイシェンス、チョコレートの箱があるのでしょう?」
あるけど……あげても良いのかな? パーシバルの顔を見ると、笑って頷いている。
「キース王子、チョコレートブラウニーを譲って偉かったですね。このチョコレートをあげますわ」
ニコッと笑ったキース王子は、少しだけ大人になった感じだった。
なのに、チョコレートを分けてやらないとか止めて下さい!
「これは、美味しいな!」
オーディン王子から遠ざけたチョコレートの箱から、アルーシュ王子がちゃっかりと、しかも新作のさくらんぼのチョコを摘んで食べている。
「もう、勝手に取らないで下さい!」
あちらのテーブルは、賑やかだね。
「そろそろ、部屋に戻りましょう」
マーガレット王女とリュミエラ王女も席を立ったので、私も慌ててサンドイッチの箱やデザートの箱を片付ける。
「カップとお皿は返しておきます」
パーシバルとラルフ達に任せて、私はマーガレット王女の部屋に行く。
そこにはリュミエラ王女もいて、2人でパリス王子の本音は何処にあるのか話し合っていた。
「カレン様が寂しいのは、本当だと思いますわ。シャルル陛下は、パリス様やカレン様に冷たいとお母様も怒っていらっしゃったから」
コルドバ王国の王妃レオノーラ様は、シャルル陛下の妹だから、事情は詳しいみたい。
「パリス様は、やはりカレン様とキースを縁付けたいのかしら? 私とは無理だと思われたのね」
落胆と安堵? どちらが大きいのだろう。
「マーガレット様、私はローレンス王国に来て、王立学園で学べて幸せですわ。それに、アルフォンス陛下とビクトリア王妃様は、とても素敵なご夫婦ですもの」
リュミエラ王女の言葉を、マーガレット王女は受け止めて、よく考えてみると言われたので、今夜は解散だ。
短時間で話し合いが終わったので、私は食堂に下りる。
パーシバルとラルフとヒューゴに片付けを任せてしまったからね。
呆れた事に、寮の夕食をキース王子達は食べていた。
「サンドイッチが足りませんでしたか?」
パーシバルやパリス王子は、食べていないけど、少な過ぎたのかと心配になった。
「いえ、十分でしたよ。それにとても美味しかったです」
まぁ、12歳の成長期の食欲魔人には、足りなかったのかもね。
もう片付けは終わっているみたいなので、部屋に戻ろうとしたが、アルーシュ王子に捕まった。
「先程、パーシバルとパリス王子から中等科の説明を受けたのだ。学期の途中からなので、修了証書は取れないそうだ。期末テストで纏めて取るしかない」
凄い自信だね!
「一応、全科目、受けてはみるが、テストで合格しそうな授業はパスして、魔法使いコースに専念したい」
ふうん、ならパリス王子と一緒の授業だね!
「でも、王立学園は、音楽や美術やダンスも必須ですよ」
剣術や馬術は問題なさそうだよね? 一応、注意しておく。
「こちらの音楽は知らないが、楽器なら演奏できる。ダンスは……これからだな!」
運動神経は良さそうだから、なんとかなるかもね?
「それより、王立学園の中等科は、冬の魔物討伐に参加できると聞いた。私もザッシュも参加したい」
これは、パーシバルに任せるよ。
「アルーシュ王子、今年の冬は厳しそうなので、1週間は戻れませんよ」
そんな事を言っていると、キース王子とオーディン王子が、ぎゃんぎゃん騒ぎ出す。
「なぜ、アルーシュ王子は参加できるのだ!」
オーディン王子は、デーン王国では討伐に参加していたと息巻く。
まぁ、ベンジャミンも領地では討伐に駆り出されていたみたいだから、あり得るよね。
「王立学園の中等科になれば、参加できます。オーディン様もキース様も、来年まで腕を磨いておいて下さい」
青葉祭の騎士クラブの優勝者に言われると、キース王子もぐうの音も出ない。
「なかなかパーシバルは、腕が立つみたいだな。ペイシェンスが惚れたのは、顔だけではないようだ」
アルーシュ王子、またそんな話をぶり返さないで下さい。
「パリス様、アルーシュ王子は魔法使いコースだそうですから、教室とかお願いします」
パリス王子は、パーシバルの要請を肩を竦めて、了解した。
「本当なら、ペイシェンスの方が相応しいと思うけど、何故か家政コースと文官コースを選択しているからね」
まだ魔力が多いと言いたいみたい。
「えっ、ペイシェンスは魔法使いコースでは無いのか? パーシバルは、嫁は家にいて、料理や裁縫をさせたいタイプだったのか? 私なら自由にさせてやるぞ」
アルーシュ王子も、ややこしいことを言わないでよ!
「パーシバル様は、とても理解があるから、心配して下さらなくても大丈夫です!」
あっかんべーしたい気分だけど、ペイシェンスのマナーが私を縛る。
「ふうん? バラク王国の後宮に入ったら、籠の鳥だと思っていましたが、違うのですね?」
パリス王子は、興味深々みたい。
「それは、誤解だな! 勿論、後宮で優雅な生活をしたい夫人もいるだろうが、やりたいことを各自している」
ふうん? 少しだけ私も興味があるよ。それと、南の大陸の魔法にもね!
でも、食堂もそろそろ終わりだから、部屋に戻る。
「パーシバル様、ごきげんよう」
お休みのキスもできないのは、寂しいけど、月曜の2時間目に会えるのが楽しみだよ。
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