第104話 サンドイッチ

 メアリーが荷物を片付けている間に、マーガレット王女の部屋に行く。

 今日は、メアリーに食堂にサンドイッチを配る時に手助けして欲しいから残って貰うのだ。

「ペイシェンス……お母様から注意されたの」 

 しおしおのマーガレット王女だ。私と話したいと思ったのか、ゾフィーはもう帰している。

「サンドイッチを用意してきましたが、お部屋でリュミエラ王女と3人で食べますか?」

 男子だけ、食堂で食べさせても良いのだ。

「いえ、ちゃんとパリス王子と向き合いたいと思うから、一緒に食べるわ。それに、約束を反故にしたと思われたくないの」

 私も甘いけど、マーガレット王女も甘いよ。だからパリス王子の魅力に負けてしまうのだ。


「考えてみたら、ソニア王国は流行病で大変な状況なのに、呑気に留学を続けてて良いのかしら? お兄様なら、即帰国されると思うわ。それさえ、私は気づいてもいなかったのね」

 まぁ、そうだけど、パリス王子は自国の事情など感じさせない態度を保っているからね。

 それとシャルル陛下は、アルフォンス陛下と違って、製塩所の功績をリチャード王子に譲って花を持たせたりする父親ではなさそう。

 むしろ、帰国するな! ぐらい命じそうな感じだよ。自国の危機に呑気に留学していると悪評を立てたい感じ。流行病に罹るのを気遣ってじゃない気がするよ。


「何を考えているか分からない王子様ですから、マーガレット様が気が付かれなくても仕方ありませんわ。でも、その方を信じて付いて行くのは、難しいですわね」

 マーガレット王女が大きな溜息をついた。

「そうなのよ。こうして、パリス様がいない所では、冷静に考えられるのだけど、一緒にいると思考が停止してしまうの。でも、それではソニア王国の王妃失格だと、お母様に叱られたわ」


 うっ、私もパーシバルと一緒だと思考停止しちゃうから、人の事は笑えないよ。

「それは仕方ないですが、問題は、その方を信頼できるかです。私もパーシバル様の考え方と違うのに今更気づいて驚く事も多いのです。それは、彼も一緒だと思います。でも、2人で話し合って着地点を決めていきたいと思っています。マーガレット様の場合は、より複雑ですわ。お互いに、後ろに国を背負っているのですから」

 マーガレット王女は、ハッとしたみたい。

「そうね、私はローレンス王国とソニア王国の間の問題すら知らないのだわ。家政コースの甘やかされた令嬢の知識だけでは、パリス様の悩みにも気づかないのは当たり前ね」

 政治的な背景だけでなく、あちらの王家の家族関係もややこしいけどね。

「ペイシェンス、裁縫を週に5時間もやっている場合では無いわ! 家政コースの単位を取って、少し文官コースの勉強もしなくては!」


 やる気は良いけど、マーガレット王女は縫うのが致命的に遅いのだ。ミシンを早く作らなきゃ!

「中等科2年生までには、布を縫う機械を作りたいです。でも、やはり手縫い部分も残ると思いますから、縫うスピードをあげないと、文官コースどころではありませんよ」

 縫うスピードをあげる道具? 何かあった筈!

私は使ってなかったけど、母親は何か布を引っ張って浴衣とかを縫ってくれていた。そうだ! くけ台だ!

 祖母のくけ台は、畳の上に座って使っていた。でも、母のはテーブルにつけて、挟んで布を引っ張っていた。

 こちらは、テーブルと椅子だから、母の方だね。火曜の錬金術デーで作って、試してみよう!


 リュミエラ王女も到着されたから、メアリーに籠を持ってもらって、食堂に下りる。

「ああ、マーガレット様、リュミエラ様、こちらがバラク王国のアルーシュ王子とザッシュ様です」

 パリス王子やオーディン王子やキース王子には紹介済みみたい。

「ようこそ、王立学園へ」

 マーガレット王女が代表して歓迎の挨拶をする。

「マーガレット様、こちらの風習に疎いから、宜しくご指導お願いします」

 あらら、あの傲慢な態度のアルーシュ王子の割には、低姿勢だね。アクセサリーは指輪だけだし、制服姿は決まっている。姿勢が良いからかもね。

「ええ、こちらはコルドバ王国のリュミエラ王女です」

 和やかな自己紹介の場が終わったから、メアリーに2テーブルにサンドイッチをセットして貰う。

「紅茶は、食堂で出して貰えます」

 パーシバルがおばちゃんにチップと茶器を渡して紅茶は出して貰えるみたい。

 マーガレット王女とリュミエラ王女の特別室から茶器を持ってこようと考えていたけど、大変そうだからメアリーに残って貰っていたのだ。

「メアリー、もう良いわ」

 こちらは、マーガレット王女、リュミエラ王女、パリス王子、アルーシュ王子とザッシュ、それに私とパーシバル。

 もう一つのテーブルには、キース王子、オーディン王子、ラルフとヒューゴ。

 人数のバランスが良くない。

「私は、あちらのテーブルで食べよう!」

 意外と、アルーシュ王子は気が利くね。キース王子と同じテーブルは避けたかったんだ。

「キース王子やオーディン王子とも仲良くなりたいからな。ザッシュも行こう!」

 で、こちらは問題のパリス王子とマーガレット王女が一緒なのだ。


 サンドイッチの箱は、前に作ったのとは違うタイプだよ。パーティーパックだ。

 大きくて平たいパック3個ずつだよ。

「まぁ、美味しそうね!」

 マーガレット王女が喜んでいる。良かった!

「一口大だから食べやすそうね」

 そうなんだよね! 王子様達は大丈夫だろうけど、一口大にしたんだ。色々な味を食べたいからね。

「お茶をどうぞ!」

 ああ、パーシバルがお茶を運んできてくれた。本当に気が利くよ!


 あちらのテーブルでは、ラルフとヒューゴがお世話をしている。ちらりと見たキース王子は、オーディン王子とアルーシュ王子と話している。

 うん、元気になったみたい。ホッとしたよ。

「これは美味しいな!」

 成長期ばかりの男子が揃うと、食欲全開だね!

「ペイシェンスが持ってきたのか? やはり、料理が上手いな!」

 ちょっと、アルーシュ王子、変な事を言い出さないでよ!


 隣のテーブルの会話も気になるけど、こちらもマーガレット王女とパリス王子が仲良く食べているのをチェックしなきゃいけないのだ。

「ペイシェンス、この卵サンドイッチは、とても美味しいわ」

 ふふふ……マヨネーズ、美味しいですよね!

「やはり、凄腕の料理人ですね! どのサンドイッチも美味しいです」

 パリス王子、エバは譲らないわよ。

「この丸いのは? 初めてですね」

 一口ハンバーガーを食べたパーシバルが褒めてくれた。

「ふふふ……この前の昼食に出したハンバーグを挟んだ物ですのよ」

 それにツナサンドも美味しいね!

「やはり、魚のコンフィも美味しいです」

 つい、2人でいちゃいちゃしちゃう。


「ふうん、パーシバルはよくペイシェンスの料理を食べているみたいだね」

 パリス王子は、やはり美食の都、ソフィア出身だから、エバを引き抜かれないように注意しなきゃね。

「そうだ! 今度、妹のカレンも留学するから、ペイシェンスには料理を教えてもらおう!」

 えええ! パーシバルも知らなかったみたい。平静な顔をしているけど、少しだけ目が鋭くなっている。

「まぁ、私も知りませんでしたわ」

 マーガレット王女もリュミエラ王女も知らなかったようだね。

「ソフィアでは流行病で外も歩けないのです。カレンから、学友も王宮に来られないので、一人っきりで寂しいと手紙が届きました」

 それって、外務省は知らないんじゃないの?

「カレンの世話は、兄の私の義務ですからね。それに、私だけ王立学園で楽しい日々を送っているのは、気が引けます」

 上辺の言葉だけ聞くと、妹想いの良いお兄ちゃんみたいだけど、なら、帰国して側に居たら良いと思う。

「まぁ、それは決定なのでしょうか?」

 ローレンス王国としては、嫌だとは言えないから、リュミエラ王女が気を利かせて質問する。

「いえ、でも父上は反対されませんし、バラク王国のアルーシュ王子とザッシュも事後承諾だったみたいですよね。カレンは10歳だから、来年から入学にしたら、ジェーン王女と仲良く学習できるでしょう」

 あああ、やはり曲者王子だ! バラク王国の件を認めたのだから、こちらも認めろと言いたいみたい。

 アルーシュ王子とザッシュが憎いよ!

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