第97話 コルドバ王国の大使館でお茶会

 マーガレット王女は、初ショッピングを楽しんで、パリス王子と馬車の中でも色々と話している。

 私とパーシバルは、どの程度、本気なのだろうと見守っているよ。

 コルドバ王国の大使館に着いた。庭の周りには背の高さを越える頑丈そうな壁があり、その上には鉄の柵が付いている。

 柵の先は尖っていて、忍び返しみたいに下に向いているのもある。

 やはり治外法権なのか、門の横には兵が在駐する小屋もあるし、門にも兵が警備していた。

 リュミエラ王女とリチャード王子、そしてマーガレット王女とパリス王子が一緒なので、フリーパスで門を通ったけどね。


「リチャード王子様、パリス王子様、マーガレット王女様、ようこそお越し下さいました」

 恰幅の良い大使自らの出迎えだよ。

「ジョレンテ大使、お招きありがとう」

 リチャード王子は、何回も来ているみたいで、ジョレンテ大使と親しく挨拶している。

「今日は、マーガレット様と一緒に参りました」

 パリス王子は、さりげなく仲良しアピールだね。

「ジョレンテ大使、こちらが私の側仕えのペイシェンスとその婚約者のパーシバルです。そして、護衛を兼ねてサリエス卿とユージーヌ卿も同行してくれましたの」

 マーガレット王女に紹介されて、私は少し膝を折って挨拶する。王族にするより浅い挨拶だよ。

「さぁ、皆様、どうかお入り下さい」

 ジョレンテ大使は、大使夫人をエスコートして、それぞれカップルで中に入る。

  

 サロンは、やはり少し南国風のインテリアで纏められていた。コルドバ王国は、ローレンス王国より暖かいし、南の大陸の影響が大きいみたい。

 私とパーシバルとサリエス卿とユージーヌ卿は、基本的に質問されるまでは黙っているよ。

 特に、私はまだ若いからね。

「まぁ、チョコレートを買って来られたのですね!」

 大使夫人の声が弾んでいるよ。

「ええ、バーンズ商会で、チョコレートファウンテンも買いましたわ。レシピもついていましたのよ」

 大使夫人は、今度のパーティで出そうと考えているみたい。だから、チョコレートファウンテンなんか売ったら、チョコレート不足は解消しないよ! 内心で愚痴る。今度の火曜は何樽になるかな? 

 香り高いお茶とプチケーキ、そして私が手土産にしたチョコレートが出た。

「これは、新作ね!」

 リュミエラ王女が目ざとく、さくらんぼのチョコを見つけた。

「どうぞ」と差し出されて、マーガレット王女とリュミエラ王女が先ず口にする。

「ううう……美味しいわ! 少しお酒の香りがするのが絶妙よ」

 他の人も食べたいだろうけど、さくらんぼのチョコは4個だけだ。

「私は良いですから、大使夫人、どうぞ」

 リチャード王子は、あまり甘い物は好きじゃないからね。

 パリス王子も、自分にも貰えそうだからと譲る。

「では、遠慮なく」

 これまで大使夫人は、リュミエラ王女から少しチョコレートを貰っただけだったからね。

「まぁ、とても美味しいですわ! 評判になる筈です。皆様もどうぞお召し上がり下さい」

 大使は、甘い物が好きみたいだね。食べてうっとりとしている。

「これからは、バーンズ商会でチョコレートを販売するから、いつでも食べられますね」

 パリス王子の言葉に、大使夫人は何度も頷いているよ。


 ひとしきり、チョコレートの話題で盛り上がったが、若い王女や王子は退屈だろうと大使夫妻は席を立った。

 えっ、これって合コン状態なの? まぁ、婚約していないのは、マーガレット王女とパリス王子だけだよ。

「そうだ、ペイシェンスが作曲した『再会の歌』を私とマーガレット様とリュミエラ様で歌いましょう。歌詞は簡単ですから、皆様もどうぞ」

 パリス王子の提案で『再会の歌』を歌う事になった。

 私は、ハノンの演奏だよ。アルバート部長の歌詞は、簡単で覚えやすい。

 マーガレット様とリュミエラ王女は、ソプラノだから、私は演奏しながらアルトのパートを歌う。

 パリス王子の声はよく伸びて良い声だ。

「皆様もどうぞ!」

 1番、2番、3番と歌ったら、リフレインの所は同じ歌詞なので、ほぼ覚えたと思う。

 リチャード王子もなかなか良い声だし、サリエス卿は低いバリトンだ。ユージーヌ卿はアルトだね。

 でも、パーシバルがこんなに歌が上手いとは知らなかったよ。惚れ直しちゃうかも?

「この歌は良いな! それに覚えやすい歌詞だから、全員で歌えるのが良い」

 リチャード王子にも褒められたよ。

「パーシバル、グリークラブに入らないか?」

 パリス王子に勧誘されているけど、学生会長だからね。クラブ活動できるぐらいなら、騎士クラブを続けたかった筈だよ。


「お兄様、ペイシェンスが作曲した『歓喜の歌』はもっと素晴らしいのよ。3人では迫力不足だけど、歌ってあげるわ」

 今回も私の演奏だ。確かに3人では、あの迫力はでないけど、なかなか立派な歌いっぷりだった。

「リュミエラ様、グリークラブで頑張って練習されているのですね」

 ああ、先ずは婚約者を褒めるなんて、リチャード王子も大人になったね。

「ペイシェンス様、楽譜と歌詞があるなら、私も歌いたい」

 おお、サリエス卿も乗り気だ。

「楽譜と歌詞ならありますわ」

 リュミエラ王女が鈴を鳴らして、持って来させる。

「これは、ソプラノパートですが、ここがバリトンパートです」

 ユージーヌ卿も声が伸びるタイプだから、アルトパートを見ながら歌って練習している。

 リチャード王子もリュミエラ王女にねだられて、サリエス卿とバリトンパートを一緒に歌う事になった。

「パーシバルも歌おう!」

 パリス王子は暗譜しているからと、パーシバルにテノールの楽譜を渡す。

 ちょっと練習してから、皆で歌う。

『ああ、日本の年末を思い出すよ』

 まともに歌えているのは、パリス王子とマーガレット王女とリュミエラ王女だけど、それぞれ良い声をしている。このごちゃっとした感じも年末の賑やかさを思い出させるね。

「ブラボー」

 いつの間にかサロンにジョレンテ大使夫妻がいて、拍手している。

 まぁ、賑やかだから、何事かと思ったのかもね。

「ローレンス王国の王立学園は素晴らしいですね。皆が音楽的素養をつけられるのですから」

 確かにね! 合格しないと卒業できないから、全員が最低限の音楽、美術、ダンスはできる。


 どうせ監視役がいるのならと、バーンズ商会で貰った『人生ゲーム』をする事になった。

 ジョレンテ大使が銀行役だ。人数が多いので、カップルごとに分かれてゲームをする。

 先ずは職業選択のルーレットは、女子が回す。レディファーストだよ。

「まぁ、商人になりましたわ。パリス様、頑張ってお金持ちになりましょうね!」

 二人で仲良く、黄色の馬車に人形を乗せている。

「騎士ですわ! リチャード様、あのドラゴンを倒せば勇者になれるみたいですよ」

 リュミエラ王女は、目ざとくドラゴンの絵を見つけたみたいだけど、倒せない場合もあるんだよ。

「騎士になりたかった。済まない、魔法使いだ!」

 ユージーヌ卿、これはゲームですからね。

「パーシバル様、官僚ですわ。大臣になって、年金で悠々自適な老後を過ごしましょう」

 何故か、全員に爆笑されたよ。


 商人マーガレット王女は強運で、一番に結婚して全員からお祝い金を貰ったり、大儲けのコマに止まるのだが、パリス王子が損をして、ぼちぼちの商人で終わった。

 騎士リュミエラ王女は、ドラゴンに攻撃されて、治療費が嵩んで破産してしまった。

 魔法使いユージーヌ卿は、賢者になったのに、ドラゴンと戦って負けた騎士の馬車を羨ましそうに見ている。

 官僚の私は、地方に飛ばされて、子供の養育費で貧乏暮らしだ。

「ユージーヌ卿の一人勝ちですね!」

 破産したリチャード王子が褒めても、賢者より勇者が良かったみたい。

「このゲームはよくできていますね。どの職業でも成功も失敗もありますし、計算も練習できます」

 大使は感心していたよ。


 そろそろお暇する時間だ。帰りは、リチャード王子とマーガレット王女が、サリエス卿とユージーヌ卿と乗り、私とパーシバルがパリス王子と乗った。

「あのゲームは楽しかったですね。私は損ばかりして、マーガレット様の脚を引っ張ってしまいましたが」

 くすくすとパリス王子は笑う。相変わらず、何を考えているのか、理解しにくい王子だ。

 ローレンス王国は、流行病を封じ込めるのに成功したけど、ソニア王国は広がったと聞いたけど、どうなっているのかな? 全く気にしていない風に見えるけど? 

 それと、マーガレット王女とどのくらい本気で結婚したいと思っているのか、わからない。これも、後でパーシバルに聞いておこう。

 

 王宮に着いたら、ここで解散の筈だ。私は、メアリーからチョコレートの箱を受け取って、マーガレット王女とユージーヌ卿とパリス王子に渡した。

「ペイシェンス、パーシバル、少し残ってくれ」

 なのに、私とパーシバルは、リチャード王子に捕まっちゃったよ。

 えっ、リチャード王子にチョコレート用意して無かったからじゃないよね? 甘い物が好きじゃないから、持ってこなかったんだけど?

 パリス王子は、マーガレット王女に見送られてソニア王国の馬車で帰るし、サリエス卿もユージーヌ卿と仲良く帰ったのにさぁ! 

 私もパーシバルとデートしたいのに。

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