第98話 リチャード王子の懸念
他の人は解散したのに、私とパーシバルは、リチャード王子の部屋にドナドナされた。
メアリーは、控室だ。なぜなら、婚約者のパーシバルが一緒なので、リチャード王子は世間体を気にしなくて良いからね。
「まぁ、座ってくれ」
パーシバルの横に座って、何を聞かれるのかドキドキしている。
「ペイシェンス、パーシバル、婚約おめでとう」
えっ、そう言えばお祝いを言われてなかったかも?
「ありがとうございます」
でも、それで残された訳ではないよね。パーシバルに任せておこう。
「何の御用でしょうか?」
だよね! まだデートできる時間帯なんだよ。
「今日のマーガレットとパリス王子の様子を見て、少し気になったから、いつも一緒にいるペイシェンスとパーシバルに寮での様子を訊きたいと思ったのだ」
やはり、そこか! 私は、近頃お側を離れている時間が多いからなぁ。
「今日、見られた通りの感じです。パリス王子はかなり恋愛関係は強いですね」
だよね! 私は横で頷いているだけだよ。
「母上から注意されて、マーガレットもわかっていると思っていたのだが……」
その時は、少し距離を置こうと努力していたよ。
「パーシバルは、近時のソニア王国の情勢について父親から聞いているか?」
パーシバルは、首を横に振る。
「そうか……流行病がエステナ聖皇国とソニア王国で広がっているのは知っているな?」
それは、私はゲイツ様から聞いたよ。でも、パーシバルはあまり知らないみたい。
「ペイシェンスは、ゲイツ様から聞いたのか? モラン外務大臣は、パーシバルにも言っていないのだな。では、ここからの話は機密扱いだ」
えっ、それは聞きたくないかも?
「はい、わかりました」
私も頷くしかないよ。
「エステナ聖皇国でも流行病が広がったので、浄化や治療が得意な司祭をソニア王国から帰国させたのだ」
それは、酷い! ソニア王国を見捨てる結果になるのでは?
「シャルル陛下はお怒りになられたのでは?」
前からエステナ聖皇国の支配を嫌がっていたのに、そんな事をしたら、エステナ出身の王妃と本当に離婚しそう。
「まぁ、それは当然お怒りになったみたいだが、エステナ聖皇国も同人数の司祭を交代で派遣しているから、表立っては苦情を言い難い。それより問題なのは、愛人のカリーナ妃が流行病になり、公子にも感染したことだ」
えっ、でも若い人は重症化しないし、上級回復薬を初期に飲ませれば良いよね?
「流行病に罹ったのは仕方ないのだが、その理由が非難の的になっている。ロマノでは流行病は封じ込めたし、なるべく平常通りの生活をするのが求められている」
それは、理解できるよ。あまりに警戒しすぎては、経済は回らなくなる。
「だが、ソフィアには何百人もの流行病の患者がいるのに、カインズ公子の10歳の誕生日パーティーを盛大に開いて、大勢の貴族を招いたのだ。その挙句、招待客にも罹患者が多く出て、愚かな真似をしたカリーナ妃へ非難が集中している」
まぁ、自分が産んだカインズ公子を良い立場にしたいと考えたのかも。
パリス王子が留学でいない間に、貴族達をカインズ公子の派閥に入れようとしたのだろう。
「それと、流行病に罹ってからの対応も拙く、上級回復薬を強制的に買い占めたり、治療を求めてエステナ教会に圧を掛けたみたいだ」
回復薬を買い占めるのは良くないけど、治療を求めるのは、親なら当たり前に思うけど?
「カリーナ妃は、エステナ教会を甘く見ていたのですね」
駄目なの?
「シャルル陛下は、確かにエステナ聖皇国の支配から逃れようとしているが、教会との喧嘩は望んでおられない。そこを見誤ったのだ」
よく理解できない。
「あのう、エステナ聖皇国の聖皇がエステナ教のトップなのでしょう? 違いがわかりません」
グレンジャー家は信心深くないし、私も興味がなかったから詳しくないのだ。
「ペイシェンス、もっと勉強しなくてはいけないぞ。それは確かにその通りだが、エステナ教には何百人もの司祭、そして何千人もの修道士がいる。中には政治にどっぷりとハマってるクソ坊主もいるが、神に心を捧げ民に尽くしている司祭もいる」
まぁ、大きな組織だから、悪い人も良い人もいそう。
「カリーナ妃は、自分と公子の治療を、エステナ聖皇国からの帰国命令を無視して、貧しい患者の治療をしていたエルモンド司祭に強制したのだ」
あっ、それは拙そう。
「もしかして、エルモンド司祭は、拒否されたのですか?」
私の質問に、リチャード王子は苦笑した。
「いや、流石に拒否はしなかったさ。だが、一度、治療に向かったが、もう大丈夫だと判断されたのだ」
それなら、問題ないよね?
「カリーナ妃は、エルモンド司祭を帰さなかったのですね」
えっ、パーシバル? そんなことしたら問題になるじゃん!
「そうなのだ。下の公女や公子も罹るかもしれないから、離宮に滞在するようにと命じたのだが……まぁ、聖皇国からの帰国命令も無視するエルモンド司祭が、聞くわけない。これで、カリーナ妃が少し賢く振る舞い、寄進をして帰らせたら良かったのだが……監禁したのだ」
パーシバルが頭を抱えている。
「エルモンド司祭は、きっと民から尊敬され、慕われているのでしょうね。暴動でも起きましたか?」
リチャード王子が苦笑している。
「ああ、こんな好機をマルケス特使が見逃すわけないからな。それに、カリーナ妃の増長ぶりを嫌う貴族も多かったのだ」
そうなんだ、流行病の中で暴動なんて感染が拡大しそうだけど?
「ソフィアの流行病は広がる一方で、ローレンス王国からも上級回復薬を緊急援助する事になった。この件を頼みに来たベーリング大使から、パリス王子が王太子に決定したと伝えられたのだ」
うん?? 意味が繋がらない。
「つまり、マーガレット王女との縁談を正式に要請されたのですね?」
パーシバルは、やはり外交官的な考えがすぐにできるね。
「でも、カリーナ妃は、反対するのでは?」
リチャード王子が、クスリと笑った。
「母親が愚かなら、カインズ公子の出来も良くないみたいだ。これまでは幼くて離宮の中で育っていたので、表には出ていなかった。10歳の誕生日でお披露目して、愚かさが広まってしまったのだ」
あちゃー! パリス王子は出来が良いからね。比べられると拙いよ。
「シャルル陛下も、近頃はカリーナ妃の離宮に脚が遠のいているとの噂だから、焦ったのかもしれない。まぁ、別の愛人ができたとの噂もあるが……」
ええっ、そんな王家に嫁ぐのはやめた方が良さそうだけど?
「パリス王子が次代の王になるなら、マーガレットとの縁談が正式に持ち上がってくる。だから、ペイシェンスとパーシバルに残ってもらったのだ」
私は、どうしたら良いの?
「パリス王子は、マーガレット王女との結婚をどの程度真剣に望んでおられるのでしょう?」
パーシバルの質問に、リチャード王子は考えながら口を開く。
「かなり真剣に望んでいるだろう。だからといって、こちらがそれを受け入れる筋合いはない」
リチャード王子も、マーガレット王女がややこしい王家に嫁ぐのは苦労しそうだと考えているのかな?
「あのう、パリス王子は、国が流行病で困難な時期に留学していて良いのでしょうか?」
ちょっと引っかかったんだ。
「それは、彼方が考える事だ。私なら帰国して父上を少しでも助けると思うが、シャルル陛下は帰国しろとは言われないみたいだな」
王太子になると決まったみたいだけど、親子関係は拗れていそう。
結果として、よく注意しながら見守るという、これまで通りの対応になるみたい。
「ペイシェンス、リュミエラ様の世話もしてくれているみたいだな。寮生活を楽しんでいるのが会話していてよくわかる。ありがとう」
やっと、解放された! 未だ、デートできる時間だな! なんて思ったのに、廊下でシャーロット女官に捕まって、王妃様の部屋にドナドナだよ。
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