第76話 婚約フィーバー
チョコレートバナナのカラースプレーは今後の課題にして、アーモンドスライス、ナッツの刻んだ物や、干果物を細かく刻んで、チョコの上から掛けた。
本当のチョコレートバナナは、バナナに割り箸を刺してチョコをかけた物だけど、こちらでは上品にしなくちゃいけないから駄目なんだ。
だから一口大に切ってから、チョコレートをかけて、その上にトッピングをする。
チョコレートの箱を活用して、綺麗に並べたら各家に届けて貰う。
「これは今日中にお召し上がり下さいと伝えてね」
キャリーに伝言を頼む。
昼からはラシーヌの所に行くから、手土産に持って行くよ。
久しぶりにアンジェラと会えるの楽しみだなんて、呑気な事を考えていた。
「ペイシェンス様! ご婚約おめでとうございます!」
屋敷に着いた途端、アンジェラに祝福されたよ。ラシーヌにもね!
伯母様方の情報ネットワーク、凄すぎて怖い。
「ありがとう、ラシーヌ様、アンジェラ」
アンジェラの目が聞きたくて仕方ないと語っているけど、その前にラシーヌと話さなきゃね。
「ペイシェンス様、パトリック様からの手紙で上級回復薬を500本も作って下さったと書いてありました。感謝いたしますわ。それにゲイツ様と検疫にご協力下さったみたいで、本当にありがとうございました」
あの時、私達が経済学2の課題の調査に行っていたのが、ラッキーだったのか、アンラッキーだったのかわからない。
でも、あれこれあってパーシバルと婚約したのだから、運命の
「サティスフォードの最初の対応は上手くいって、検疫をする前に上陸した乗組員と濃厚接触した人達の隔離もできました」
それは、ラシーヌも手紙で知っているみたいで頷く。
「流行病も心配ですが、女主人が不在なのに、バラク王国の王子やカルディナ帝国の体調を崩された貴婦人のお世話ができるのかが気にかかるのです」
ああ、そちらもあったね。
「私が王都に戻る時には、魔法使いと共に外務省の役人も着いていたので、そちらが応対しているでしょう」
ラシーヌは、アルーシュ王子はそれで良いと言う。
「カルディナ帝国の貴婦人はお綺麗でしたか?」
えええ! もしかして、サティスフォード子爵が浮気するのを心配しているの?
「ええ、とてもお綺麗な方でしたが、訳ありのご様子でした」
そこら辺は手紙にも詳しく書いて無かったみたい。
「お付きの
それと
「訳ありの影のある美人!」
奥方としては、不安だよね。
「やはり、サティスフォードに帰りますわ」
えっ、社交界シーズンなのに?
「アンジェラや子供達は王都に置いておきます。今年は来年のマーガレット王女の社交界デビューを待っているのか、デビュタントもパーティも少ないのです。それに、ここで心配しているよりマシですわ」
「でも、今は王都に入るのは検疫があって難しいのですよ」
出るのは容易だけど、入り難いんだよ。
「そのくらいはわかっています。母に孫の面倒はみてもらうわ」
まぁ、ほとんど子守と家庭教師が面倒を見るんだけど、保護者は必要だ。
ラシーヌは領地に帰る支度があるから、私は早々に屋敷を後にした。アンジェラと話したかったけど、今はそんな状況じゃない。
それに、パーシバルとの成り行きを説明するのも、未だ恥ずかしいんだ。
なんて考えていたけど、寮にはマーガレット王女がいる。
「ああ、ステディリングを外して行ったら駄目かしら?」
自分の化粧台の引き出しに置いてある、リリアナ伯母様から貰った小さな宝石箱に、婚約指輪をしまう。
ステディリングをして行ったら、絶対に大騒ぎになるよ!
やっぱり、大騒ぎになった。
「ペイシェンス、その指輪は!」
部屋に行った途端、マーガレット王女はステディリングに気づいた。
「パーシバル様と婚約しました」
こうなったら正直に言うしかない。
「まぁ、おめでとう! でも、いつの間にそんな事になったの?」
ゾフィーがお茶を淹れてくれたけど、飲む暇があるかな?
その上、リュミエラ王女まで質問に参加する。
ゾフィーを帰らせてからの質問攻撃は激しかった。
「パーシバル様とは、前から縁談があったのです」
これは本当だよ。
「再従兄弟だと聞きましたから、丁度良い縁組だと思う親戚がいたのね」
ふむふむとマーガレット王女が頷いて、先を促す。
「でも、パーシバル様はとても優れた容姿をされているから、横に並ぶと劣等感と、何故お前がと言う視線を感じるので、気後れしていたのです」
マーガレット王女に叱られた。
「ペイシェンスは、自己評価が低すぎるわ。確かに初めて会った頃は痩せすぎていたけど、今はとても可愛いのに! それに真面目で心が綺麗だし、賢くて、音楽の天才なのよ」
褒めて貰えると、くすぐったくなる。
「その通りよ! ペイシェンスはとても優れた令嬢だと思うわ」
リュミエラ王女まで褒めてくれる。
「パーシバル様は、一緒に外国に行こうと言われて、とても気持ちが動きました。私が外交官を目指していた理由は、外国に行って、その土地の文化や食べ物を知りたかったからです」
2人は変わった動機だと思ったのかもしれないが、そこは今の興味ではないみたい。
「それで、婚約する事になったの?」
ここからは、ややこしいので、そうしておきたい。
「ペイシェンス! 何か隠しているわね」
マーガレット王女の追求が激しいよ。
「私は外交官に向いていないと、大勢の人に言われました。考えが顔に出やすいとか、冷静に国の為になるか考えられないとか」
それは、駄目だと2人も頷く。
「外国に行きたいから外交官になりたいと思うのは子供っぽい夢だと思ったのです」
「それは、そうかもしれないけど、パーシバルと婚約するのと、外交官になるのを諦めるのとはどう関連するの?」
やはり手厳しい。
「外交官になれないと思ったら、悲しくなって泣いていたのです。それをパーシバル様が慰めてくださり、婚約することになって……」
かなり誤魔化した説明だけど、マーガレット王女はそのシチュエーションを妄想しているみたい。
「まぁ、ロマンチックな展開ね!」
リュミエラ王女まで妄想しているよ。
「泣いているペイシェンスを慰めるパーシバル! 絵になるわ」
そこからは、親の許可を取るのだけど、そちらはあまり興味が無いみたいで、すんなり終わった。
「ステディリング、良いわねぇ」
リュミエラ王女の視線がステディリングに集中する。
「リチャードお兄様も気を利かせば良いのに! 婚約発表が来年でも、ステディリングぐらい贈れば良いのよ」
国と国との話し合いがややこしいのだろう。でも、ステディリングの本来の意味合いには、そちらの方が近い気がする。
「今度、遠回しにおねだりしてみますわ」
あっ、私をダシに使いそう。
部屋での話は終わったけど、夕食の場でまた騒動になった。
「パーシバル? その指輪は?」
パリス王子が目ざとくステディリングに気づいた。
「ペイシェンス様と婚約したのです」
そんな中に、マーガレット王女とリュミエラ王女と一緒に食堂へ降りたものだから、パリス王子に祝福されたよ。
「パーシバル、ペイシェンス、婚約おめでとう!」
食堂にいた学生の視線が集まる。
「ありがとうございます」と答えるけど、ここで騒いで欲しくなかった。
いずれは知られるのだけど、視線が痛い。
「さぁ、ペイシェンス様、食事にしましょう」
何事も無かった顔のパーシバルが羨ましいよ。私は、顔が真っ赤になっている。
食事の席で、パリス王子がパーシバルに恋バナをねだっている。
「ペイシェンス様とは前々から縁談があったのです。父親同士が従兄弟ですからね」
さらりと説明して、それ以上のプライベートには突っ込ませない態度のパーシバルは強い。
やはり、私は外交官に向かないのかもと実感したよ。
明日の教室での騒ぎを考えると、頭が痛くなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます