第75話 話し合わなくてはね!
日曜も朝からオルゴール体操を弟達とする。
「今日は、午前中にパーシバル様が剣術の稽古をつけに来て下さるわ」
ナシウスもヘンリーも目を輝かせて頷いている。
「お姉様、パーシバル様と結婚されたら、お兄様になるのですね!」
ヘンリー、それはまだ先だよ。くすぐったい気分になる。
「パーシバル様が来られるまで、久しぶりにお勉強しましょう。来週からはカミュ先生が来られるけど、サボっていたら恥ずかしいわ」
ナシウスは、はっきり言って必要ないけど、このところハノンは練習を見てあげられなかったからね。
少し勉強させて、応接室で音楽とダンスの練習をしていたら、パーシバルがやってきた。
「おはようございます」と挨拶するだけでも、ドキドキしちゃう。
「おや、ダンスの練習ですか?」
そうだけど?
「では、ペイシェンス様、どうか私と踊って下さい」
えええ! 前にパーシバルと踊ったことはあるけど、弟達の前で踊るのは恥ずかしいよ。
「お姉様、私がハノンを弾きます」
ナシウスのハノンに合わせて、パーシバルと踊る。
「パーシバル様はリードが上手いですね」
運動神経の差かな?
「ペイシェンス様も軽やかなステップですよ」
一曲、踊って、弟達との剣術の稽古だ。
ナシウスはかなり風の魔法を剣に乗せる事ができるようになっている。
「そう言えば、ゲイツ様は飛んでいたのよね?」
風を使えば、早く移動できそう。ゲイツ様は弟達に魔法を教えてやると言われていたけど、今は流行病でそれどころではない。でも、この件もパーシバルと話し合わなくてはいけないな。
ヘンリーは、段々とスピードが上がっていく。
「ナシウスもヘンリーも驚くほど上達している」
パーシバルは、少し驚いて褒めている。
「お姉様に魔法の使い方を教えて頂いているうちに、風の魔法も上手く使えるようになった気がします」
確かにナシウスは、今では生活魔法で浄水も作れるし、植物の成長も促せる。
「そうなのか! 私もペイシェンス様に魔法を教えて貰おうかな」
なんて、パーシバル、本気じゃないよね?
弟達には、勉強の続きを子供部屋でさせて、私はパーシバルと応接室でお茶を飲みながら、話をする。
「実は、ゲイツ様にエクセルシウス・ファブリカという会社の代表を引き受けて貰っているのですが、パーシバル様と婚約したら拗ねて断られるかも?」
パーシバルにエクセルシウス・ファブリカを作った経緯を説明する。
「錬金術クラブの特許は、多分カエサル様が発明したと思われるでしょう。エクセルシウス・ファブリカは良い考えだと思います。流石、リチャード王子ですね」
私、個人の名前が出ているのは、湯たんぽと糸通しで、特許ではなく緩い商標登録だ。アイロンとヘアアイロンは、魔法陣はカエサルが考えたから、錬金術クラブで登録してある。
あっ、スライムクッションを忘れていた。
「湯たんぽも糸通しも良い道具ですが、これらをペイシェンス様が考えつかれたと知られても、問題はないと思います。スライムクッションには私も世話になっていますが、これは大丈夫ですよ。女の子が考えたと知られても良さそうです」
それは良いんだけど、他にも色々とあるんだよ。
「あのう、パーシバル様。問題になりそうな道具とそうでない道具の区別をつけなくてはいけないのはわかったのですが、どうも私の判断は世間と違うみたいなのです」
パーシバルは呆れたんじゃないかな?
「そう言われるのは、何か考えておられるからですね」
工房に案内して、私が売り出そうと考えている道具の数々を見せる。
「これは、サンドイッチ用の入れ物。蓋ができる密封容器。透明な食べ物を包む物。それと、知育玩具。あっ、この回復薬を入れる瓶も割れ難いのですよ」
サティスフォードで大量の瓶を作るのを見ていたパーシバルに、瓶を床に落として見せる。
「危ない!」咄嗟に私を割れて飛び散るガラスから庇おうと自分の方に引き寄せる。
「割れていませんね?」
そうなんだよね。
「これを温室に使えば、割れ難いから良いと思うのです。未だ耐久検査はしていませんが」
パーシバルは、サティスフォード子爵が温室でメロンとスイカの栽培をしてみようと話していたのを思い出した。
「上手く使えば、温室栽培を増やせますね」
「ええ、今は貴族しか温室を持てませんが、安価で割れ難いガラスの代用品ができたら、もう少し気軽に利用できると思います」
パーシバルは腕を組んで考え込んでいる。
「この割れ難いガラスと透明な紙擬きは、かなり需要がありそうです。できればエクセルシウス・ファブリカで発表した方が良いと思います」
そうなんだけど、エクセルシウス・ファブリカが存続できるかわからないんだよね。
「ゲイツ様は、ペイシェンス様が婚約されたからと代表を辞める様な方には思えませんよ」
「だと、良いのですが……」
後の知育玩具は、パーシバルも一緒に遊んで楽しんだ。
「この偉人カルタ、格言カルタ、私の子供のうちに欲しかったです。それと、歴史カルタもね!」
これらは厚紙か薄い木で作ろうと初めは考えていたけど、ブロックと同じ素材の方が丈夫なんだよね。
ただ、絵を付けるのは生活魔法じゃないと無理かも? これは、バーンズ商会と要相談だ。
分数の知育玩具は、パーシバルは必要性を感じなかったみたい。すぐに理解できたんだね。
単語の積み木は、笑って2人で名前を綴ったり、愛のメッセージを作ったりして、いちゃいちゃしちゃった。
工房の机の上には、ブロックの設計図があった。珍しく、ちゃんとサイズを決めて作ったからね。
「これは、何ですか?」
ああ、変なボコボコがある塊だから、分からないかな?
「これは積み重ねて遊ぶ玩具です。そうだわ、ブロック、ナシウスに追加注文されたのです」
ついでだから、簡単に作っちゃおう!
「この塊は、積み木の代わりですか?」
「ふふふ……、ちょっと違うのですが、作って良いですか?」
パーシバルも見てみたいと言うので、手伝って貰う。
「この珪砂とスライム粉とネバネバを分量通りに入れて、灰色の絵の具を混ぜて『ブロックになれ!』」
容器いっぱいの灰色のブロックができた。
「ペイシェンス様? 錬金術とはこんな風な物なのですか?」
パーシバルは、風の魔法は使えるけど、錬金術は履修していないからね。
「少し、私のやり方は違うみたいですけど、錬金術の一種だとおもいますわ」
夏休み、グース教授が「錬金できているから錬金術だ」と言っていたからね。
パーシバルと一緒にできたブロックを子供部屋に持っていく。
「お姉様、ありがとうございます」
勉強をしていたナシウスに、ブロックで遊んで良いと言う。
「あれは? お城ですね!」
わっ、少年の目になっているパーシバル、かなり可愛い。
「ええ、ナシウスはお城を作っている最中なのです」
パーシバルはナシウスと一緒に城の基礎から作っているので、私はヘンリーの小屋をなんとか城らしく改築する。
「ペイシェンス様、もっとブロックが必要です」
言った後に、ハッと我に返って恥ずかしそうに笑う。
「ブロックはどうでしょう?」
パーシバルは、ブロックを見つめて笑う。
「これは、エクセルシウス・ファブリカ案件です。でも、早く売り出して貰いたいですね!」
大人っぽくしているけど、パーシバルも15歳だもんね!
「ええ、今度の木曜に王宮に行ったら、ゲイツ様と話し合いますわ。弟達に魔法の訓練をして下さると言われていた件もね」
子供部屋を後にして、応接室に戻って話し合う。メアリーは、あちこち付いて回らないといけないから、うんざりしているかも?
「ペイシェンス様は、私が考えていたよりもずっと錬金術師として活躍されていますね」
そうなんだけど、目立つのは駄目なんだ。
「思いついた物を作っているのですが、どれは駄目なのかの判断が難しくて。今まではカエサル部長がブレーキを掛けてくれていましたが、再来年には卒業されるし、ベンジャミン様と私では暴走しそうですわ」
パーシバルは、くすくす笑って聞いていたが、きっぱりと言い切った。
「やはり、ゲイツ様と話し合って、エクセルシウス・ファブリカの代表を続けて貰うのが重要だと思います」
やっぱりね!
「チョコレートで買収しようかしら? あああ、チョコレートバナナを作る様に言われていたのだわ!」
すっかり忘れていたよ。
「ラッセルも欲しがっていましたね」
そちらも忘れていた!
「エバに作って貰って、各家に届けますわ」
チョコレートバナナに欲しいのは、カラースプレーだけど、できるかな? できなければ、ナッツを細かく刻んだのを振りかけても良いな。
「ペイシェンス様、また何か思いついたのですね」
パーシバルに笑われたけど、料理関係は良いみたい。
「新しいレシピを考えるのは、女主人としても大切だと思います。それに、美味しい物は私も大好きですから」
これは、メアリーを説得できる材料になるね! だって、婚約者のパーシバルが許可しているんだもの。
「カルディナ街で購入した調味料を使ってみたいのです」
「それは楽しみですね。是非、試食の時はお呼び下さい」
メアリー! 聞いたでしょ!
むふふふ……と笑いが込み上げてくる。
「ペイシェンス様?」
おおっといけない! パーシバルに気味悪く思われちゃう。
「いえ、何を作ろうか? 前に読んだ料理を思い出していたのです」
ああ、鍋も良いな! 1人鍋作ろうと思っていたんだ。
「ペイシェンス様、自重という言葉が必要ですね」
あっ、そうなんだよ!
「でも、今考えたのは大した道具ではありませんわ。食卓で、1人ずつスープを温めて具材を煮て食べたら、これから寒くなるから暖かいかなと思っただけですもの。もう、卓上の錬金釜はあるので、それの応用だけですわ」
言い訳をしたら、パーシバルに呆れられたよ。
「これからは、何か思いついたら、実行に移す前に、私と話し合うと約束して下さい」
こちらの世界でも指切りがあるんだね! 小指と小指を絡めて約束する。
その後で、工房でブロックを作ったのだけど、パーシバルときたら、色々なパーツを欲しがるから、ついつい夢中になって、肝心な話し合いは忘れちゃったよ。
でも、そのお陰で、城には物見台や塔も作れる様になった。
ついでにヘンリーの大きいサイズのブロックも追加で作っておく。今のままでは小屋から家になった程度だからね。
「あの土台を高台にしたら、攻めにくくなりそうです」
ジオラマになりそうな勢いだよ。
「パーシバル様、これは玩具ですよ」
私が笑うと、パーシバルは少し恥ずかしそうに笑う。可愛い!
「でも、面白いですね! ナシウスが、追加のブロックを欲しがったのが理解できますよ」
お昼まで、子供部屋でブロックの城作りをして遊んだ。
デートらしくはないけど、とても楽しかったし、立派なお城になったよ。
「お姉様、私もお兄様みたいなお城にしたいです」
あっ、ヘンリー! そうだよね!
「ヘンリーの追加のブロックで、大きなお城を作りましょう」
大きなタイプのブロックだから、大雑把な形しかできないけど、皆で組み立てたら大きさはナシウスの城よりサイズは大きくなった。
「わぁ! 大きなお城です!」
ナシウスは、そんな事に腹を立てたりしないで「良いお城だね」と褒めている。
「ペイシェンス様の弟達は、とても可愛いですね」
パーシバル、その通りなんだよ! うちの弟達はマジ天使なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます