第67話 体験コーナーの準備

 また木曜の音楽クラブをサボっちゃった。あれから、パーシバルと色々と話をしていたからだ。


 でも、マーガレット王女は、私が王宮に呼び出されたのを知っているから、叱らなかった。

 でも、何か変だと感じたのかも? あれこれ質問されて、誤魔化すのが大変だったよ。

 正式に親から許可を得るまでは、内緒にしておこうとパーシバルと決めたんだ。

 だから、マーガレット王女にも秘密だよ!


 金曜は、第一回目の錬金術クラブの体験コーナーだ。

 1時間目は空いているから、錬金術クラブに行こう!

「ご機嫌よう!」とカエサル部長に挨拶する。

「ペイシェンス? 何かあったのか?」

 ひぇぇ! 昨夜もマーガレット王女から「何かあったの?」とカマをかけられたんだ。そんなにわかりやすいのかな?

 自然とニマニマしちゃうんだ。表情を引き締めなきゃね!


「いえ、何も! 机や椅子を並べて、収穫祭の飾りの材料をセットして置いていきますね」

 それと、部屋もデコりたい。

「綺麗になれ!」

 先ずは掃除だよ! そして、カエサル部長と机と椅子を並べる。

「結局、ペイシェンスが一番多く集めたな。でも40人近くが来てくれるのだ!」

 でも、私が集めた25人は、入部してくれそうな学生は少なさそう。

 残りの参加者に期待しよう!

「少し、飾りの変形バージョンを作っても良いですか?」

 錬金術を試してみたい参加者用の珪砂が用意してある。

 許可を得たので、星形や収穫祭に相応しい麦や林檎や梨や木の実などの飾りを作る。


 それと、相談したい事があったんだよね。

「この飾りを収穫祭の音楽クラブとグリークラブの発表で使ってはいけませんか?」

 前世の舞台で階段には電飾がよく使われていたんだ。華やかになって良いよね?

 私が書いた舞台の図を見て、カエサル部長がハッと目を見開いた。

「これは素晴らしいよ! 見たことがない程の華やかな舞台装置になりそうだ」


 なのに少し悲しそう。なんだろう?

「ペイシェンスと一緒に錬金術クラブをできるのもあと一年も無いのだな。ロマノ大学では錬金術学科は取らないと言っていたが、気は変わらないのか?」

 秋学期になったら、中等科3年は大学受験や就職活動、女学生は社交界や結婚相手探しで忙しいからね。

 クラブには属しているけど、新部長が選ばれて、新体制に移行する。

「ええ、グース教授と魔導船を作る気にはなれませんもの。私は、生活を豊かにする道具を作りたいのです」

 フッと笑って、頷いた。

「そうだな! ペイシェンスにはエクセルシウス・ファブリカがある。そこで錬金術を続けてくれれば良い」

 ああ、それもどうなるか不安だよ。ゲイツ様が代表だから隠れ蓑になっているけど、パーシバルと婚約したら断られるかも?

「ええ、私はずっと錬金術は続けます」


 微妙なニュアンスの違いにカエサル部長は、何か言いかけたけど、そこにアーサーがやってきたので口を閉ざした。

「なかなか良い感じにできているじゃないか!」

 私の作ったオーナメントも飾っているから、華やいだ雰囲気だよ。

「ええ、それとこれを見てください」

 舞台の階段に灯りの飾りを付けた図を見て、アーサーも喜んでいる。

「錬金術クラブの宣伝になりそうだ!」

 ああ、そちらは考えて無かったけど、良いかも!

  

 私は2時間目は第二外国語だ。

 ああ、パーシバルと会える! どんな顔をしたら良いのかわからないよ。ニマニマしている顔を手でパンと叩いて、気を引き締める。


 でも、教室の雰囲気が暗い。あっ、カルディナ帝国で流行病が発生したのを知ったんだ。

「パーシバル様、もう皆様も知っているのですか?」

 大きな声は出し難い雰囲気だ。

「ええ、噂が流れています。こう言う事は、何処からでも流出してしまうものなのですね」

 王都に入るのに厳しい検疫がなされているのだ。気づくよね!


 リー先生が教室に入った時も、少し騒ついた。嫌な感じだよ。

「リー先生、カルディナ帝国で流行病が発生したと聞きましたが、本当でしょうか?」

 1人の学生が質問した。それって授業に関係ないじゃん!

「ええ、残念な事ですが事実です。帝都のタイアンでは死亡者が多数出ているとの事です」

 リー先生は、事実だと認めた。騒めきが大きくなる。

「リー先生、流行病の早い収束を私達も祈っています。授業を始めて下さい」

 パーシバルが代表して、この場を収めた。

「パーシバル、ありがとう」

 ここにいるのは、文官コースの特に外交官を志望している学生がほとんどだ。

 それでも、カルディナ帝国人に対して、少し構える雰囲気があった。

 授業を受けながら、カルディナ街が大丈夫なのか心配で堪らなかった。


「ペイシェンス様、きっと大人達も同じ事を考えて行動していますよ。私達は、自分でできる事をしましょう」

 上級食堂サロンまで一緒に歩きながら、話をする。

「そうですね! 今日は錬金術クラブの第一回目の体験コーナーです。沢山の学生が参加してくれるのが楽しみなの」

 でも、皆は参加してくれるのだろうか?

 上級食堂サロンもいつもとは違う雰囲気だったのだ。

「あら、ペイシェンス! パーシバルと一緒の授業だったのね?」

 マーガレット王女は、雰囲気を明るくしようと、いつもより少しだけ大きな声で話している。

「ええ」とだけ応える。第二外国語の授業だなんて、言える雰囲気じゃないからね。

「今日の錬金術クラブの体験コーナー、とても楽しみにしているのです。綺麗な収穫祭の飾りも作れるし、あの綿菓子を自分で作って食べられるのですからね!」

 リュミエラ王女も、いつもより少しだけ声が大きい。

「私も参加すれば良かったと思っているのです」

 ああ、パリス王子が錬金術クラブに興味を持たない様に誘わなかったんだ。

「今回は女学生が多そうですわ」

 マーガレット王女は、私がパリス王子を誘わなかった理由を知っているのかな? フォロー助かるよ。

「人数が多くなるようなら、学生会に申請すれば、大教室や特別教室を貸し出しますよ」

 あっ、パーシバル! それは助かるよ!

「次回の体験コーナーで人数が集まるようなら頼むかもしれません」

 今回のはコードに灯のガラスを捩じ込むだけだから、普通の机と椅子で十分だけど、キックボードの組み立ては、錬金術教室とかの方が良さそうだ。

 

 こんな事務的な話をしていても、何か昨日までとは違う。

 地に足がついていない様な、フワフワとした気分だ。

 でも、パリス王子の発言で、着地したよ。

「この前から空の色が変わっていませんか?」

 あっ、ゲイツ様が掛けている防衛魔法に気づいたの?

「秋になったから、空が澄んでいるのでしょう。パリス様は詩人になれますわ」

 マーガレット王女は、知らないみたいだ。

「そうなのでしょうか? 私はロマノの秋は初めてなので、空が紫がかって見えるのが不思議なのです」

 えっ、そんなに色は付いてない気がするけど?

 皆も首を傾げているから、普通なんだと思う。やはりパリス王子は、クレメンス聖皇の甥だから、魔法能力が高いのかも?


「そろそろ、冬の魔物討伐の参加募集が始まりますが、パリス様は本当に参加されるのですか? 短くても5日は王都に帰って来られませんよ」

 パーシバル、私が空の異変に関わっていると思って話題を変えたの?

 これには、ゲイツ様しか関わっていないよ! あれっ? そうか、元の流行病が入らない様にする防衛魔法は私がサティスフォードで掛けたんだった。

 そこにパーシバルもいたから知っていて当然だね。

 気を使わせて、ごめんね!


「ええ、勿論! 魔物の討伐は貴族の義務ですから」

 パリス王子は、容姿の華麗さだけを見ていると、軟弱に思えるけど、意外と騎士っぽいね。

「そうですね! 私も参加しますから、一緒に行動しましょう」

 それは良いけど、怪我とかしないでね!

「ペイシェンス様はどうされるのですか?」 

 パーシバルの質問に、テーブル全員が驚いたよ。

「ペイシェンスは無理でしょう! それに、生活魔法では魔物討伐はできませんわ」

 マーガレット王女が、変な事を言わないで! っとパーシバルを睨みつける。

「でも、同行する様にとゲイツ様から言われたのでしょう?」

 それは、そうなんだよね。

「ゲイツ様は、自分の馬車に私と侍女を乗せてあげると言われたのです。私が乗馬が苦手なのはご存知ですから。魔物を騎士達が追い込んでくるから、それに一発目を放つ練習をすれば良いと……でも、攻撃魔法はこれから習うのに無理では無いかしら?」

 全員が参加なんか無理だと断言する。

「ペイシェンス様は攻撃魔法を習っていないのでしょう? それなのに実地で練習なんか無理ですよ!」

 パーシバルが怒っている。

「こちらでの魔物討伐は知らないが、ソニア王国では魔法使いも騎士に同行しているのだが? 乗馬が苦手、攻撃魔法も使えないなら、無理でしょう」

 パリス王子も、参加の意味が無いと却下している。

「王宮魔法師が無理強いするようなら、お父様に言ってあげますわ。乗馬が苦手なペイシェンスには無理です」

 マーガレット王女、その陛下も参加賛成なんだよ。

「ええっ、もしかしてお父様が言われたのですか?」

 私の表情で、全員が呆れた。

「ペイシェンスは王宮魔法師になるのですか?」

 パリス王子の一言で、マーガレット王女はあれこれ考え込んでしまった。

「本当に、お父様が参加する様に言われたの?」

 まぁ、反対はしていなかったよ。

「馬鹿な! 無理でしょう!」

 パリス王子が怒ってくれたよ。パーシバルは何か考え込んでいる。

 目で、後で相談しましょうと伝えてくる。それだけで、気分上昇しちゃう。

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