第61話 門の浄化システム
水曜日、私の12歳の誕生日だ。
「お姉様、誕生日おめでとうございます」
ナシウスとヘンリーが祝福してくれる。嬉しい!
「そうか、ペイシェンスも12歳なのだな。これからは、少しずつ大人として扱われる場面も増えてくる。しっかりと精進しなさい」
来年は社交界デビューだし、伯母様方から貴族の常識を教えて貰わないといけない。
なのに、今日も王宮行きなんだ! 夕食には帰ってバースデーケーキを……あっ、ヘンリーは夕食はやはり駄目なのかしら?
「お父様、昼食を食べてから王宮に行こうと思うのですが、駄目でしょうか?」
全員が私の考えを理解したみたい。
「お姉様、王都に流行病を入れない為のお手伝いなのですよね。私は、一緒に祝えなくても、大丈夫です」
もうすぐ8歳の弟に気を使わせちゃったよ!
「そうですね。来週末に二人の誕生会をしましょう!」
去年もそうしたんだ。二人の誕生日の間の週末にね。
「ええ!」ヘンリーの笑顔が弾けているよ。
「でも、お嬢様……バースデーケーキを所望されていたのでは?」
メアリーの言葉でゲイツ様を忘れていたのを思い出す。
「それは、簡単なのを作って持って行きましょう」
台所で卵白を泡立てたり、生クリームを泡立てる。後は、エバに任せてお着替えだ。
「急に寒くなったわね」
メアリーに冬物のドレスを出してもらって着る。
去年より背が高くなったし、12歳になると脹脛より長めのスカートになる。
「早く、冬物のドレスも仕立てないといけませんわ」
お金が飛んでいくよ!
「ああ、ワイヤットに相談しなくては!」
お金で思い出した。チョコレートの手間賃が凄いんだ。
「ワイヤット、バーンズ商会からチョコレートを作る手間賃がとてもいっぱい振り込まれているのです。エバにもボーナスをあげるべきでは?」
ワイヤットに金額を告げると、一瞬だけ驚いた顔をした。
「エバはチョコレート作りを楽しんでいます。だから、特別にボーナスを出す必要はありません。ですが、苦労も掛けましたから、収穫祭のお小遣いをあげたらどうでしょう」
下男見習いとかは、ほぼ無給に近いけど、季節の節目ごとに服を与えられたり、お小遣いを貰う。
エバは、料理人として今は給金を貰っているけど、私が転生した当時は、多分、給金は滞っていたんじゃないかな?
「そうですね! 皆にも収穫祭のお小遣いをあげましょう!」
エバには多めにあげよう!
そして、私は工房でケーキを入れる箱を作る。前世でよくケーキ屋さんで貰った箱だよ。
ケーキが焼けたみたいだから、メアリーに台所で箱に入れてもらう。
丁度、王宮からの迎えの馬車が来た。私は、黒いマントを着た、怪しいちびっ子だ。
今朝も、ゲイツ様の部屋には上級王宮魔法使い達が集まって騒いでいる。
「このサーモグラフィースクリーンを各港に配置するべきです!」
まあ、それはその通りだよね!
「量産体制に入らなくてはいけないのに、このスクリーンの素材すら教えて下さらないとは!」
一番年寄りの上級王宮魔法使いが、ゲイツ様に噛み付いている。
「ガランス、教えた所で、作れないから一緒だろう」
ああ、傲慢なゲイツ様になっている。
「さぁ、門の浄化スケジュールをキチンと守って下さい!」
サリンジャーさんが、全員を追い出したけど、私が着く前に、サッサとして欲しかった。
皆の詮索する視線が鬱陶しい。
「ああ、ペイシェンス様! お誕生日おめでとうございます!」
なんて言いつつも、メアリーが持っているケーキの箱に視線が行く。
「バースデーケーキですね!」
早速、食べようとするけど、サリンジャーさんに止められる。
「ペイシェンス様もずっと学園を休むわけにはいきません。だから、今日は門の浄化システムを作って、できれば流行病の防衛魔法陣を考えて下さい」
そうだ! 金曜には体験コーナーがあるんだよ。
「木曜は、元々、こちらに来る日ではありませんか? あっ、チョコレートですね!」
どうせ、サリンジャーさんに渡すのだから、ゲイツ様にもここで渡す。
メアリーがずっと私に付き添っているから、キャリーの負担が重くなっている。なので屋敷に届けさせるのを省略したんだ。
「食べるのは後にして下さい!」
メッと叱られているけど、新作のマンゴーチョコを一粒口に入れたよ。
「ああ、これは美味しいですよね! ペイシェンス様のチョコレートは格別です」
バーンズ商会もチョコレートを販売しようと頑張っているけど、まだ口溶けが悪いみたい。
チョコチップクッキーとかチョコレートケーキの材料とかなら、使えるかな?
「ああ、また美味しい物の事を考えていますね。私を誘惑して楽しいのですか?」
ゲイツ様が騒いでいるけど、私は無視して門の浄化システムを考える。
精神の防衛魔法を掛けているのに、顔で考えている事がバレるのは困るな。
「ゲイツ様!」
ほら、サリンジャーさんに叱られたよ。
門を通る人を浄化したい。これは流行病の時だけでなく、必要な人が多いよ。
グレンジャー家は貧乏だけど、やはり庶民とは違う。
魔石が買えない時も、お湯をメアリーが運んできて、身体を拭いていた。
王都のバーンズ商会に買い物に来ている人達は身綺麗だったけど、バザールや門に並んでいる人の中には近寄りたく無い雰囲気が漂っている人もいる。
でも、常に浄化を掛けるのは、魔石の消耗が大きそう。
「やはりエアカーテンよ! 先ずは埃とかを飛ばしてから、浄化すれば節約できるわ」
ぶつぶつ言っていたら、ゲイツ様がこちらを見ている。
「何か思いついたのですか?」
私の拙いエアカーテンの魔法陣を見て、首を傾げている。
「これは風を飛ばす装置ですね。四角い囲いの中に人を入れて上、左、右から風を吹き付けるのですか? 埃は飛ぶでしょうが、浄化はできませんよ」
もう、まだ途中だよ!
「いえ、常にこのエアカーテンは設置しておくのです。塵や埃を取り除くだけでも清潔になりますわ。そして、第二のゲートで浄化の魔法陣を掛けるのです。これは、流行病の時だけ稼働させます」
ふむふむとゲイツ様とサリンジャーさんも頷いている。
「先ずは、サーモグラフィースクリーンで発熱している人、そしてその同行者を隔離する。そして、エアカーテンで塵や埃を落として、次のゲートで浄化する」
なかなか良い案だと自分では思うよ!
「ペイシェンス様、これで行きましょう! でも、このエアカーテンは酷い魔法陣ですね。魔石の消耗が大きいですよ」
サラサラと大幅になおされた。
「まだまだ勉強しなくてはいけませんね!」
うっ、その通りだから堪えるよ。
そこから、エアカーテン、浄化の魔法陣ゲートの設計図を2人で書く。ほとんどゲイツ様が書いたんだけどね。
大体の設計図を書いたら、後は錬金術部門に任せるのかなと思っていた。
「さて、ルルス。錬金術室に行きましょう! 流石にゲートをこの部屋では作れませんからね」
あっ、いっぱいの錬金術師達と会うのは少し気が引ける。
困った顔で、ゲイツ様も気づいたみたい。
「サリンジャー、錬金術室にいる錬金術師達を、少し早いけど食事に行かせなさい」
ええ? 良いのかな?
「錬金術の途中の人は、止めたくないのでは?」
私なら、嫌だな。でも、ゲイツ様もサリンジャーさんも気にしない。
「あの人達は年がら年中、錬金術をしているのだから、偶には休んだら良いのですよ」
勝手な言い草だけど、私的にも都合が良い。
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