第57話 ルルス?
王宮からの呼び出しも、先ずは父親の許可を取る。この異世界では、親の権利は大きい。
父親が許さなかったら、行かなくて良いのかな? なんてブロックに少し未練があるから考えちゃうよ。
「ゲイツ様がペイシェンスを呼んでおられるのですか?」
普通は王宮魔法師が女学生を呼び出したりしないよね。不思議そうな顔をしている。
「ええ、そう書いてあります」
魔法省の役人も事情は知らされていないみたい。
「お呼びなら、仕方ないな」
まぁ、うちの父親は放任主義だし、ゲイツ様の幼い頃を知っているみたいだから、許可をだす。
「これを着て来て下さいとの事です」
差し出された箱には、魔法使いのマントが入っていた。
また大きい魔法使いのマントを着ないといけないの? と思ったけど、ジャストサイズだったよ。
メアリーの分もあるので、羽織って迎えの馬車に乗る。
「わっ、寒いわ!」
秋なのにいつまでも暖かったのに、夕方になって急に秋風が吹いている。
「お嬢様、マントをしっかり閉めてください」
羽織っただけのマントのボタンを全部とめる。
少し、暖かくなった気がするけど、急に寒くなるのは流行病の年と一緒な気がして、ゾクッとする。
王宮にはすぐに着いた。家は上級貴族街にあるからね。
左側の入り口から、ゲイツ様の部屋まで案内された。
いつもは、ゲイツ様とサリンジャーさんだけしかいない部屋なのに、今日は十数人が集まっている。
皆、黒い魔法使いのマントを羽織っている。きっと、上級王宮魔法使いなのだろう。
あっ、圧が強いよ! こんなチビが何をしに来たのか? って探る視線だ。
「皆さん、部屋から出て下さい。先程、言ったとおりに浄化魔法が使える者のリストアップと、門への派遣スケジュールを作っておいて下さい」
サリンジャーさんが、全員を追い出した。
「ああ、やっとペイシェンス様が来られましたね!」
こんなマントまで着せているのに、名前を呼んで良いのかな?
「ああ、それもそうですね。魔法省にも馬鹿な奴もいますから、ニックネームをつけましょう」
また考えがダダ漏れになっているよ。でも、あんなに大勢の人に名前を覚えられるのは遠慮したい。
ううん? ニックネームは何にしよかな?
「
それは、ちょっと恥ずかしいよ。
「ルルスなら呼びやすいのでは?」
サリンジャーさんが、
「ルルスで良いです!」
ふふふ……と笑ってゲイツ様が私を「ルルス!」と呼ぶ。
「ほら、返事をしなくてはいけませんよ」
ペイシェンスの時は何故か様付けなのに、呼び捨てだよ。それは良いんだけどね。元々、何故様付けなのか疑問だもん。
「はい!」と返事をしたら、嬉しそうに「ルルス!」とまた呼ぶ。
「ええ? 何故、返事をしないのですか?」
「用事もないのに何度も呼ばないで下さい」と怒ったけど、スルーだよ。
「練習ですよ。ペイシェンス様は少し反応が遅いから、練習しておかないとね。ルルスは私の部下なのだから、返事が遅いと不審に思われます」
横で、サリンジャーさんが大きな溜息をついた。
「ペイシェンス様を呼び出したのは、流行病を防ぐ防衛魔法を教えてもらう為でしょう!」
ビシッと叱ってくれたよ。
「サリンジャーも、ルルスと呼ばないと、皆に正体がバレますよ。それと、ペイシェンス様とは浄化魔法陣を考えようと思っているのです。これは、エクセルシウス・ファブリカでの二人の初仕事になりますね!」
えええ、魔法陣はまだ習い始めたばかりで、そんなの考えられるかな?
「ふふふ……、浄化の魔法陣など、どこにも有りませんよ。だから、一から考えるのです。他の魔法陣を習得している人より、ペイシェンス様の方がやり易いかもしれません」
あっ、もうペイシェンス様に戻っているよ!
「ああ、ルルスでしたね」
やれやれ、これは何のプレイなんだろう。上司と部下ごっこかな?
兎も角、呼び出された理由の流行病が中に入らない防衛魔法を掛ける。
「王宮に流行病が入りませんように!」
サティスフォードの屋敷より、王宮は何倍も広い。かなり魔力を持っていかれた。
「ふうん? なるほどね! 王宮をドームのように囲って、そこに浄化の膜を張っているのですね! やはり、ペイシェンス様は天才ですよ」
褒めてくれるのは嬉しいけど、ニックネームをつけたんじゃないの?
横で見ていたサリンジャーさんも、かなり魔法の腕は良いみたい。
私が掛けた防衛魔法を繁々と眺めている。
「ゲイツ様、王都全体に掛けるのは無理ではないでしょうか?」
ムッとした顔で「掛ける事はできますよ。ただ、ずっと掛けておくのは疲れそうですよね。チョコレートでも食べないと、やってられません」なんて言うんだよ!
確かに疲れにチョコレートは効きそうだけど、何か良い手がないものかしら?
「ああ、ペイシェンス様! それを考えましょう!」
また考えがダダ漏れだよ。
「ずっと掛けていたら、ゲイツ様だって疲れてしまいますわ。だから、何か魔法陣と魔石を利用できたら良いと思うのです」
サリンジャーさんが、頭を抱えている。
「門に浄化する魔法陣もこれから考えなくてはいけないのに、王都に流行病が入らなくする魔法陣まで無理ですよ!」
そうだよね! ちょっと思い付いただけなんだもの。忘れて!
「いや、それがペイシェンス様の画期的な発想なのです。普通の魔法陣を学んだ魔法使いには思いつきません。ペイシェンス様はどの程度の魔法陣を学習されているのですか?」
うっ、と詰まるよ。ゲイツ様もだけど、きっとサリンジャーさんもロマノ大学で魔法陣も習得済みなのだろう。
「魔法陣2は合格しましたわ。魔法陣3を勉強し始めたばかりです」
恥ずかしくて言いにくかったけど、嘘をついてもバレるからね。
「では、基礎はわかっているのですね! これまで、光の神聖魔法陣があるとエステナ聖皇国は公言していますが、実際に見た者はいません。もしかしたらエステナ神は知っていたのかもしれませんがね」
それは生活魔法も同じだよ。魔法陣の教科書にも載っていなかった。
光の魔法陣は、大学とか教会は知っていて、秘密にしているのかと思っていた。
「長い暗黒の戦国時代に失われたのは、文明や技術ばかりではなく、魔法や魔法陣もかなり衰退したのです」
魔法を使える人は、エステナ教会のお陰で増えたけど、長い戦乱の世で失われた物も大きい。
「さて、そろそろお腹が空いてきましたね。ここの夜食は、本当に簡単な食事で、ペイシェンス様と食べた食事ほどのご馳走ではありません。でも、一緒に食べましょう」
なんか酷い言い草だけど、お腹は空いている。王宮に掛けた防衛魔法が原因かも?
「ああ、防衛魔法は解いて良いですよ。掛け方は分かりましたから」
なら、帰って良いんじゃない? それが呼び出しの理由だよね?
「これから、浄化の魔法陣を考えなくてはいけませんし、それに私だって王都に防衛魔法を掛け続けるのは疲れますよ。だから、そちらも考えましょう!」
えええ? それは、ゲイツ様とさっき部屋に居た上級王宮魔法使い達で考えたら良いんじゃないの?
「あの人達では無理ですよ。これは、新しい考え方と遣り方でないと作り上げられないと感じます」
そうか、普通に考えてできる物ならば、とっくに作られているよね?
「えっ、と言うことは、とても難しいのでは?」
今更、気がついたよ。
サリンジャーさんが夕食の準備を女官に伝えた。何だか王宮で夕食を取るの、慣れている気がする。
「ああ、たまに仕事で遅くなると、こうして夕食を食べるのです」
それって身体に良くないよね。
女官が運んできた夕食は、簡単なサンドイッチとお茶だった。
「いつもこんな風なのですか?」
私はサリンジャーさんに尋ねる。
「心配なさらないで下さい。ゲイツ様が時間外まで残られるのは珍しいですから」
ああ、そうだよね! なら大丈夫でしょう。
メアリーにも夕食が出たので、私とゲイツ様とサリンジャーさんも食べる。
「ああ、ごく普通のサンドイッチもペイシェンス様と食べると美味しいですね」
まぁ、エバの作るサンドイッチは、マヨネーズを使ったりしているからね。でも、夜食のサンドイッチのハムは分厚いし、豪華だよ。
「やはり、ペイシェンス様のサンドイッチを食べてみたいです。今度の木曜の授業に持って来て貰えませんか? 卵なら届けます」
言われた瞬間に「卵は高いんだよ!」と脳内で文句を付けたのもバレている。
「この非常事態なのに防衛魔法の授業をする暇があるのですか?」
サリンジャーさんは、横で頷いているけど、ゲイツ様は拗ねている。
「だって、ペイシェンス様は私が思考を読むから嫌われるではないですか。早く精神攻撃の防衛魔法を身につけて欲しいです」
それは、本当に早く身につけたいけど……良いのかな?
「さぁ、ルルス! 浄化の魔法陣を考えましょう。サリンジャー、門の浄化メンバーの指導をお願いします」
えっ、そちらは丸投げで良いの?
「いえ、それはゲイツ様の仕事ですよ」
抵抗しているけど、ゲイツ様の我儘は止まらない。
「私は王都に流行病が入らない防衛魔法を掛けているのです。他のストレスは御免です。それに、サリンジャーの方が上級王宮魔法使いの扱いは慣れています。何か文句を言う奴がいたら、私がガツンといってやりますよ」
いつ、防衛魔法を掛けたの? 私にはわからなかったけど、サリンジャーさんは気がついているみたい。
「今回は仕方ありません」
サリンジャーさんを見ていると、中間管理職の悲哀を感じるよ。
サリンジャーさんが、上級王宮魔法使いに指示を出す為に退席してから、私とゲイツ様は浄化魔法陣を考えた。
考えたけど、なかなか難しすぎるよ!
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