第58話 浄化魔法は光魔法? 生活魔法?

 私は魔法陣の書き方は初心者レベルだ。ゲイツ様の部屋に置いてある分厚い魔法陣の本を見ながら、うんうん唸る。

「ゲイツ様、浄化魔法は光魔法なのですよね? 私は生活魔法で浄化していますけど?」

 魔法陣を調べようにも、浄化魔法がどの魔法なのかもわからない。

「ペイシェンス様、いえ、ルルス! そんな普通の人が考えるような遣り方では、浄化の魔法陣なんか書けないと思います。そのくらいなら、もう誰かが考えていますよ」

 だよね! なら、無理なんじゃないの?

「ルルス、諦めてはいけません!」

 この部屋には、私とゲイツ様とメアリーしかいないのに、ニックネームで呼ぶ必要性があるのかな? 

「ペイシェンス様は、他の事など考えずに、浄化の魔法陣に集中して下さい」

 叱られちゃったよ。思考が読まれるのって、本当に厄介だ。


「浄化する時は、綺麗になれ! で全部済ませているから、私は生活魔法からのアプローチしかできませんわ」

 生活魔法で一番初めにしたのも掃除だったからね。

 うん? 何か、引っかかったよ。

「綺麗になれ! ってナシウスが地下通路に落ちた後に掛けたのです。埃っぽかったから……でも、捻挫も治ったのです。これは光魔法なのでしょうか?」

 ゲイツ様も興味を持ったようだ。

「私に『綺麗になれ!』と掛けて下さい」

 何回か掛けた事がある気がするけど、やってみよう。

「綺麗になれ!」

 ゲイツ様はサティスフォードから馬車で王宮に戻ったままだったから、スッキリしたみたいだ。

「怪我も病気もしていないから、旅の汚れが無くなってスッキリした気分になっただけですね。まだ、光魔法とは言えません」

 そう言ったまま考え込んでいる。

 やはり、私なんかの魔法陣素人には無理なんじゃないかな?

 

 ゲイツ様が真剣に考えている隙に、前世の検疫システムについて思い出す。

 空港とかには発熱している人を感知するサーモグラフィーモニターがあった。

 ここの門では、魔法使いが探知して、発熱している人を除いているけど、浄化もしなくてはいけないのだから、感知できる機械が有れば楽になるよね?

 分厚い魔法陣の本を捲って、温度を調べる魔法陣を見つけた。

 体温計とかでは測れない金属の溶解温度とかは、この魔法陣を使うみたい。

 やはりゲイツ様の持っている専門書には詳しく載っているね! この本、欲しいかも!

「この魔法陣を使って、発熱している人はモニターに赤く表示されるようにしたら良いのでは?」

 今度はモニター表示の魔法陣を探そうと、分厚い本を捲る。


「ペイシェンス様、何をされているのですか?」

 真剣に考えていたゲイツ様が、私の本を捲る音でこちらに意識を向けた。

「門に派遣される魔法使いは、流行病に感染して発熱している患者を隔離しなくてはいけないのですよね。浄化もしなくてはいけないから、発熱している人を一目で分かる機械を作れば良いと思ったのです」

 あっ、浄化の魔法陣を考えなきゃいけないのに、横道に逸れていると叱られるかな?

「ペイシェンス様、それは画期的な考えです」

 私がメモした温度を測る魔法陣を繁々と眺める。

「これで体温は分かるとしても、いちいち魔法陣を掛けるのは面倒ですよ」

 あっ、サーモグラフィーを理解していない。

「こういったモニターにその人達の体温を色で示すのです。平熱は緑、微熱はオレンジ、高熱は赤に表示されれば、門の兵士達でも検疫ができますわ」

 図に書いて、モニターを説明する。

「これは! とても画期的な発明です」

 私から魔法陣の専門書を取り上げて、温度を色表示する魔法陣を書いた。

「後はモニターとやらにこれを映し出せば良いのですが……」

 異世界にはテレビも映画も無いからね。モニターの説明は難しい。

「あのう、薄いスクリーンに人の影を映して、それに体温の色を表せば良いのですが……無理でしょうか?」


 ハッとした顔をして、猛烈な勢いで魔法陣を書き始める。

 こんな時、ゲイツ様って本当に天才だと思うよ。

「これで、人の体温は色に表されると思いますが、この魔法陣を書く素材は薄くて丈夫な物が良さそうです。それと、魔法を通し易い方が、色を表示し易いでしょう」

 ガラスはあまり魔法を通さないんだよね。

「巨大毒蜘蛛の糸は魔法を通し易いのです。それでスクリーンを編んだら良いのでは?」

 半透明の薄い白色だけど、人の影ぐらいは映しそう。

 ゲイツ様は、ベルを鳴らしてサリンジャーさんを呼ぶ。


「サリンジャー、巨大毒蜘蛛の糸が必要なのだ」

 こんな夜に、無理じゃないの? と思ったけど、魔法省の倉庫には凡ゆる錬金術素材が用意されているみたい。

 箱にいっぱいの巨大毒蜘蛛の糸が持ってこられた。

「さぁ、ペイシェンス様、スクリーンを編んで下さい」

 織り機もないのに無茶言うよね! でも、生活魔法なら、なんとかなるでしょう。

「人の大きさより少し大きなスクリーンになれ!」

 巨大毒蜘蛛の糸が縦横に編み込まれて、成人男性より大きな長方形のスクリーンができた。

「ふむ、やはりペイシェンス様は、私の後継者に相応しいですね。これなら魔法を通し易そうです」

 半透明な白いスクリーンにゲイツ様が考えたサーモグラフィーの魔法陣を書く。

 そして、サリンジャーさんが気を効かして持ってきた魔石と繋げると……緑色の人影が浮かび上がった。


「「平熱ですね!」」

 二人で喜んでいるけど、サリンジャーさんは首を傾げている。

「サリンジャー、これを門に設置すれば、熱がある者を普通の兵士でも隔離できるのだ。平熱は緑、微熱はオレンジ、高熱は赤い影が映る」

 ゲイツ様の言葉を理解したサリンジャーは興奮する。

「そんな事ができたら、検疫が凄く楽になります!」

 スクリーン1枚では、王都の門には少ないから、10枚作ったよ。


「ああ、でもちゃんと熱のある人は赤になるかしら?」

 作った後で心配になったけど、ゲイツ様はムッとしている。

「私が魔法陣を書いたのですよ! 間違ったりしていません!」

 まぁ、試してみれば分かるよね? サリンジャーさんは、そのサーモグラフィーを上級王宮魔法使い達に渡して、治療院で試して来いと命じた。

 もう夜だけど、治療院は開いているのかな?


 ペイシェンスに転生してから、私は早寝、早起きだ。

 それに、少しの間だけど王宮に防衛魔法を掛けたり、スクリーンを10枚も織り機無しで作ったりして、魔力をかなり使った。

 眠いよ!

「ああ、ペイシェンス様! もう少し頑張れませんか? 駄目みたいですね」

 こんな時は考えが丸わかりなのも役に立つね。

「今日は、ここまでにしましょう」

「えっ? 今日は?」

 明日は学園に行くつもりだよ。

「学園より、流行病を止める方が大事です!」

 それは、その通りなのだけど、いっぱいいる王宮魔法使い達とやって欲しい。

「今日のサーモグラフィースクリーンも、ペイシェンス様がいなければ、作れませんでした。明日も迎えの馬車を回しますから、浄化の魔法陣を一緒に考えましょう」

 かなり眠くなっている。反論する気持ちになれない。

「ペイシェンス様のサンドイッチの差し入れがあれば、作業も進みそうです」

 こちらが引くと、ぐぃぐぃ押し込まれる。

「それは……まぁ、良いですわ」

 ゲイツ様の後ろで、サリンジャーさんが頭を下げている。

 やる気になっているゲイツ様の為に、サンドイッチの差し入れをしよう。サリンジャーさんにもね!


 メアリーと一緒に馬車で家に帰る。旅の疲れもあって、バタンキューだったよ。

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