第56話 お土産

 私が乗った馬車は王宮でゲイツ様とサリンジャーさんを下ろしてから、屋敷に向かった。

 屋敷にはラッセル達の馬車が止まっていた。一緒に出かけたから、父親に挨拶しているのかな?


「お姉様、ご無事で良かったです」

 ああ、ナシウス! 心配かけたみたいだ。

「ええ、帰りましたよ!」

 今日はキスしても良いみたい。ラッキー!

「お姉様、お帰りなさい!」

 ヘンリー、我慢してお留守番できて偉いね!

「お土産は小さな物しかないのです。ごめんなさいね」

 ヘンリーは「お姉様が帰ってこられて嬉しいです」なんて可愛い事を言うから、ぎゅっと抱きしめて、キスしちゃう。


「お嬢様、お客様がお待ちですよ」

 弟達といちゃついていたら、ワイヤットに叱られちゃった。

「お土産は後で渡します」

 応接室に行ったら、パーシバル、ラッセル、フィリップスが苦笑していた。

 玄関ホールのやりとりが聞こえていたみたい。

「お父様、ただいま戻りました」

 父親も心配していた様だ。ホッと息を吐いた。

「無事に戻ってきて良かった。サティスフォードの様子は、皆様から聞いている。今回は無事に流行病を抑え込めた様だな」

 そう、これからも入港する船の検疫を続けなくてはいけないのだ。 

 それに、ややこしそうな事情がありそうな美麗メイリン様一行や留学希望のアルーシュ王子も滞在している。

「ええ、サティスフォード子爵は、当分は王都に来られないかもしれませんわ」

 ラシーヌにも事情を話しに行こう。手紙だけでは心配だろうから。

 パーシバル達は、連れ出した私を父親に渡したので、各自の屋敷に帰った。


 子供部屋で、ナシウスとヘンリーにぽっぺんを渡す。

「これは何ですか?」

 ナシウスの灰色の目がまん丸だよ。可愛い!

「こうして、息を吹きかけて、口を離すと……ポッペン!」

 ああ、ヘンリーの青い目もまん丸だよ!

「さぁ、やってごらんなさい」

 二人にぽっぺんを差し出す。ナシウスは、ヘンリーの目の色と合わさせるつもりなのか、自分用には緑色の斑点があるぽっぺんを取った。

 こういう優しさがある子なんだよ! マジ、キスしたいけど、我慢しなきゃね。

「わぁ、私の目の色と同じ青ですね!」

 ヘンリーの素直なところも大好きだ。こちらは、まだキスを嫌がらないからキスしておく。

 二人が、少し緊張した顔で息を吹き込むと、ポッ……口を離すと……ペン! 気の抜ける音がした。

「わぁ、面白い!」

 ヘンリーは、ポッペン! ポッペン! ポッペン! と鳴らして、はしゃいでいる。

 ナシウスは、一度鳴らしては、不思議そうにぽっぺんを見つめては、また鳴らして観察している。

 兄弟でも性格が違う。そして、どちらも愛おしい。


 さて、お土産は渡したから、ラシーヌに手紙を書こう。自領で流行病が出たと聞いたら、心配だよね。

 そして、詳しい話が聞きたいのなら、訪ねていくと書いておく。

 ついでにアンジェラに半貴石をプレゼントしよう。サティスフォードにお泊まりさせて貰ったお礼だよ。

 半貴石の箱は工房に置いてある。メアリーは持って行った服の整理で忙しそうだから、手紙を届けて貰うまでに作っちゃおう!

 工房で箱からピンク系の半貴石を10個ぐらい取り出す。

「ビーズになれ!」

 うん、これぐらいなら魔力もあまり消耗しない。良い内職になりそう!

 メアリーが服を整理し終わったみたいだから、小さな箱にピンク系の半貴石を入れたのとラシーヌへの手紙を届けて貰う。


「そうだわ! 温室のチェックをしなければ」

 温室に行くと、上級薬草が順調に育っていた。

「お姉様、これで大丈夫ですか?」

 ナシウスが少し心配そうに私を見ている。

「ええ、とても上手く育っているわ! ナシウス、浄水をあげてくれたのね」

 いっぱい褒めておく。ナシウスはもっと自信を持った方が良いからね。

「私も手伝ったのです!」

 うん、ヘンリーは素直だね!

「よく、ナシウスのお手伝いができましたね!」

 キスしておこう!

「明日から、学園かしら?」

 日本だとインフルエンザとか流行すると休校になったけど? 

「えっ、お休みなのですか?」

 どうやら、こちらではそんな制度はないみたいだ。

「そうね、休んでいられないわ。マーガレット王女の側仕えなのですもの!」

 明日には学園に行こう! そう、本当に考えていたのに、行けなかった。


 王宮からの呼び出しも無かったので、本当のお土産にしようと予定してた物を作る。材料はサティスフォードで買っていたからね!

 ふふふ……前世のブロックだよ。積み木でも良いけど、ナシウスは10歳、ヘンリーも8歳になるんだもん。

 私は、ブロックで中学生ぐらいまで遊んでいた。いや、正直に言うと高校生になっても時々押し入れから出して遊んでいたよ。

 兄の誕生日祝いは、毎年ブロックだった。私も時々、新作のシリーズのブロックを貰ったから、大きなコンテナいっぱいにブロックがあったんだ。

 兄は宇宙シリーズがお気に入り。私はお城シリーズ。姉はちょこっとだけ家のシリーズにハマった。

 そのおかげで、ロケットや月面着陸車や跳ね橋や窓のサッシやドアなど、色んなパーツがあって、部屋の床いっぱいに、妙に近代的な城を建てたりしていたんだ。

 私のお城シリーズだけでは小さなのしか作れなかったからね。

「ここはお城が実際にある世界だもの! お城シリーズを作るよ!」

 見本は、カザリア帝国の遺跡とノースコート伯爵の館だ。

 ザッとスケッチして、まずは土台のポチポチがついた緑の板を作る。

 ナシウスのは細かいポチポチ、ヘンリーのは大きいポチポチにする。

 ノースコート伯爵の館もカザリア帝国の遺跡も同じ灰色の石材で造られていた。地元で取れる石なのだろう。

 大きなブロックと小さなブロックは組み合わせられる様にしたい。

 二人で遊んでも楽しいからね!

 ここは私としては珍しく真面目に図を書いた。

「確か、大きなブロックに小さなブロックが2つハマるのよね」

 もっと小さなブロックもあったけど、今回は大きなブロックと小さなブロックの二種を作る。

 灰色の石っぽい大きなブロックをいっぱい作る。

 小さいブロックを大きなブロックに嵌めてみる。

「うん、ピッタリ!」

 でも灰色一色だと、コンクリートみたい。

「黒の筋があるから、黒のブロックも作りましょう。屋根は茶色でも良いかも?」

 木のパーツも作るし、窓のパーツもいっぱい作る。それに跳ね橋もね!

「そして、旗も作らなきゃ!」

 旗を立てるポールを止めるブロックは、極小サイズのブロックを小のブロックに嵌め込める様にした。

「ふふふ、ナシウスのは青にN! ヘンリーのは青にH!」

 おお、大事な物を作り忘れたよ。

「これがナシウス! こちらがヘンリー!」

 小さな人形は、脚をブロックに嵌め込んで立つことができる。

 ナシウスは茶色の髪と灰色の目。ヘンリーは金髪に青い目。

「可愛い!」人形でも可愛いね!

 どんどんハマって、ベッドや椅子やテーブルも作る。

 ナシウスの手には本が持てるようにする。ヘンリーの手には剣だよ。

 少し不本意だけど、馬も作った。馬に人形が座れる凹みも作ったよ。

 馬を入れる柵も作れるようにパーツを作る。餌箱や水の樽もね!

 跳ね橋のパーツと堀を表す水色の薄いブロックも作った。

 最後にお片付けできるように、大きな蓋つきのバケツを作ってお終いだ。

 かなり大きなバケツに、二人のブロックを入れる。基礎のポチポチをバケツ沿いに立ててしまうのが基本だよ。


「これは、ヘンリーの誕生日のお祝いにするべきなのかしら?」

 初めはちょこっとだけのつもりが、結構、本格的なブロックのセットになった。

「いいえ、誕生日のプレゼントは別に用意しましょう!」

 だって、前世のブロックはかなり高価だったけど、これは珪素とスライム粉とネバネバと絵の具だけだからね。お安いよ!

 

 子供部屋で二人にブロックのバケツを渡す。ナシウスのにはバケツには大きくN! ヘンリーのにはH! と白で書いてある。バケツの色は明るい赤と黄色にしたよ。

「わぁ、なんでしょう!」

 二人の目がまん丸になる!  

「これでお城を作るのよ!」

 おお、ナシウスも中を見て興奮しているよ。これって楽しいよね!

「お姉様、ありがとうございます!」

 ヘンリーなんか自分の人形を見つけて、嬉しくて飛び回っている。

「お姉様、大好き!」

 キスしてくれたよ。ハッピー! 

「今日は夕食まで、三人でブロックの大きなお城を作って遊びましょう」


 なんて思っていたのに、王宮からの呼び出しだ! ガッカリだよ。

 まぁ、ブロック遊びと流行病の封じ込めでは、どちらが大事かは明らかだけどね。

「お姉様、頑張って下さい!」

 ああ、お姉ちゃん、流行病が王都に入るのを阻止するよ!

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