第26話 収穫祭の準備が始まったよ

 火曜の錬金術3は、キューブリック先生に修了証書をもらえた。

「ペイシェンス、マギウスのマント、素晴らしいよ!」とコソッと錬金術の実技テストの後で褒めて貰えたよ。

 外国語のデーン語もテストを受けて修了証書を貰えた。だから、火曜の午前中はまる空きなんだ。午後の裁縫も、夏物のドレスを2枚の仮縫までで修了証書なんだけど……リュミエラ王女がどのくらい裁縫ができないか次第だね。それにマーガレット王女がエリザベスと考えたドレスのデザインを見たけど、かなり手間がかかりそうなんだ。途中でもう少しシンプルなデザインに方向転換させなきゃ、収穫祭には間に合わないかも?

 裁縫の時間を他の時間にしたら、火曜はまるまる錬金術クラブに行けるんじゃないかな? マーガレット王女は毎日裁縫の時間を取っている。これ、異常な気がするんだけど? 他の女学生も多いみたいだし、ちょっと厳しすぎるのかも?

 今のスケジュール通り金曜の午後を全部錬金術クラブにするか? 金曜の4時間目に裁縫を移して、火曜日を一日中錬金術クラブにするか?

 マーガレット王女のスケジュール表と私のを睨めっこして悩む。金曜は、マーガレット王女だけ王宮に帰られたら、寮の夕食までたっぷり錬金術クラブに行ける。でも、火曜日丸々の方に誘惑されちゃうな。作業の途中で止めるの嫌なんだよね。

「それに秋学期は王妃様からの呼び出しが多くなりそうな予感がするわ。パリス王子はいつまで留学されるのかしら? オーディン王子は、ジェーン王女が入学される来年も留学していると思うけど……」

 火曜日の欠点は、音楽クラブだ。でも、それは金曜も同じかもしれない。収穫祭までクラブの活動日が増えるからね。よし、決めた! 火曜は放課後まで錬金術クラブに行こう! 放課後に音楽クラブに行く日が増えるのなら、授業中に行かなきゃね!

「かなり錬金術クラブに染まっている気がする」

 でも、物を作るのって楽しいんだよね。将来何をしようか悩む。

 外国へ行きたいから外交官にも惹かれるし、ロマノ大学では錬金術学科は取りたくない。グース教授は御免なんだ。

 それに、私は魔導船にロマンを感じるけど、実際に作ったら軍事利用されそうで怖い。

 生活を便利にしたり、役に立つグッズが作りたいだけなんだよね。でも、自動車は作りたいな。馬は苦手なんだよ!

 自動車だって軍事利用されるかもしれない。でも、そんな事を言っていたら文明なんか進まない。使う人次第だ。とは言え武器は作らないよ!

 この異世界には火薬が無い。あれって硝石、硫黄、炭粉が有れば作れるんだよね。よくラノベで作っていたから知っているんだ。でも、作らないけどね。

 ファイヤーボールだけでも十分怖いよ。その上、武器にも魔法を乗せて破壊力あるから必要ないよね! 先ずはミシン! それから来年の青葉祭用の綿飴機と熱気球を作ろう。

 

 昼からの裁縫の時間、キャメロン先生だけじゃなく、助手が二人ついた。だって収穫祭までに裏地付きのドレスを縫うのって大変だもんね。

「ペイシェンス、この中から青葉祭用のドレスの生地を選んでね」

 約束通り、青葉祭にふさわしい爽やかな色合いの生地が数枚あった。

「この薄いブルーとエメラルドグリーンにします」

 私はこれから背が伸びる予定なので、簡単なデザインと仮縫いまでで良いと言われている。今までなら一枚目のドレスで修了証書が貰えていたレベルだと先生に認められているからね。

 リュミエラ王女とマーガレット王女のドレスは、やっと型取りして裁断している途中だ。

「ペイシェンス、ここのダーツはこれで良いのかしら?」

 助手が二人いても、忙しそうで、なかなかチェックして貰えない。

「ええ、でも、ちゃんと印をつけておかないといけませんよ」

 マーガレット王女のチェックを済ませたら、リュミエラ王女の番だ。ううん、ダーツを書いていない。

「リュミエラ王女、この型紙に書いてあるダーツを布に書かないといけませんわ」

 やはり、かなり手間がかかりそう。キャメロン先生が「ペイシェンス、自分でさせないといけませんよ」なんて注意が飛ぶから、いちいち教えなくてはいけない。見本を見せよう!

「これは夏物のドレスですけど、ダーツは同じです」

 かなり今のサイズよりも大き目の型紙を布の上に置いて、チャコでサササと型を取って、ダーツの位置をヘラで記す。その後で、型紙を取り除いてから、チャコでダーツを書く。私だけだったらヘラのカタだけでも良いんだけどね。

「まぁ、こうやってダーツを書くのね!」

 リュミエラ王女は、裁縫は初めてだけど、勘は良さそうだ。

 その間に、一枚目のドレスの裁断を済ませる。ちょっと前身頃にタックをつけるつもりだ。

「まぁ、ペイシェンス! もう裁断が終わったの?」

 キャメロン先生が見回りに来て、驚いていた。

「やはり、修了証書が相応しいと思うのよ」

 もう少し、マーガレット王女とリュミエラ王女の世話をしてからの方が私の精神的安定にも良さそうだ。

「キャメロン先生、収穫祭用のドレスの首周りと裾にこのビーズで飾りをつけても良いでしょうか?」

 キャメロン先生に家から持ってきた極小ビーズを見せる。

「まぁ、素敵だわ! こんな細かな飾りを縫うのは時間がかかりそうだけど、ペイシェンスならできそうね」

 許可が貰えたので、簡単な下書きを描く。裾には蔦模様で、所々に葉っぱや花をちょこっとビーズ刺繍する。

「首周りはどうしようかしら?」

 なんて独り言を呟いていたら、お洒落なエリザベスがやってきた。

「まぁ、ペイシェンス様、この飾りはとても素敵ですわ」

 やはり目をつけるのが早いね!

「何処で購入されたのですか?」なんて聞いてくる。

「バーンズ商会で売り出される予定ですわ」と宣伝しておこう。

「裾と首周りだけでなく、全体に模様の様に刺繍しても素敵だと思いますわ」

 この前、秋のドレスを作ってもらったのだけど、それにポツポツと極小ビーズを散りばめても良いかもね!

「ええ、やはりエリザベス様はセンスが良いですわね。こちらの青葉祭用のエメラルドグリーンのドレスには前身頃にタックを取るつもりですから、飾りはいらないかしら?」

 私のザッと書いた青葉祭用のデザイン画を見て、エリザベスは少し訂正を加える。

「このタックを目立たせると素敵だわ。だから、タックに沿ってこの飾りを縫ったら良いと思うの。スカートの裾も直線的にしても良いかもね」

 あっ、モダンな感じになるね!

「エリザベス様、ありがとうございます」

 エメラルドグリーンのドレスのデザインはできた。

 薄いブルーのは、かなりスカート丈も長くする。中等科3年の青葉祭で着る予定のドレスだからね。こちらは、銀に薄くブルーのガラスをコーティングした極小ビーズを裾につける。上に行くにつれて少なくつけていくつもり。重たくなりすぎない様に間隔を取らないとね。

 こちらは前身頃にタックはつけない。でも、スカートは8枚接ぎだからかなりボリュームが出そう。背が高い方が似合うから、夜は早く寝なきゃね!

 夏物のドレスの裁断をして、マーガレット王女とリュミエラ王女の裁断された生地に縫う順番をチャコで描いて、授業終了!

「やはり、ペイシェンスがいると安心できるわ。助手が増えたけど、間違えている学生が多すぎて、なかなかまわって来ないのよ」

 マーガレット王女に金曜の裁縫の時間に変更すると言ったら、簡単に許可が出た。

「週に一回、ペイシェンスが一緒なだけでも大丈夫だわ」

 これは、秋学期中、裁縫の修了証書を貰わない方が良いかも? 次回で、エメラルドグリーンの仮縫いは終わりそう。次の次で薄いブルーのドレスの仮縫いをして、後は今年の収穫祭用のドレスにビーズ刺繍をして仕上げよう。

『赤は今着たら子どもっぽくなりすぎそうだから、3年生に置いておくつもり。濃い青か濃い緑のどちらにしようかな?』

 マーガレット王女は濃い赤、リュミエラ王女は濃い青の生地を選んでいる。青が被らない様に濃い緑を今年は着ることにする。エメラルドグリーンのドレスは直線的なビーズ刺繍にするから、こちらはボツにした蔦模様にしよう。ビーズで蔦を刺繍して、所々葉っぱを銀糸で刺繍しても良いかもね。


 火曜の放課後は音楽クラブだ。今日からパリス王子が一緒だよ。リュミエラ王女の付き添いなら、グリークラブに行くのが本当じゃないかな?

 リュミエラ王女はグリークラブだけど、一人で大丈夫かな?

 優雅にマーガレット王女をエスコートしているパリス王子の本音がわからない。後ろからついて行くだけで良いのかしら?

「収穫祭の合奏曲の各パートの楽譜ができた。まだ訂正する部分も出るかもしれないが、パート毎に分かれて練習してくれ」

 アルバート部長、仕事早いよ! 私はサミュエルとパリス王子と女学生二人とでリュートだ。ダニエルとクライスと男子学生がフルー。笛全般をフルーと呼んでいるけど、大きいのや小さいのがあるよ。ハノンも大きさによって名前が本当は違うけど、全部ハノンで通っている。異世界はここら辺がアバウトだね。ルパートは打楽器全部。

「マーガレット様はハノンです。今年はコーラスパートの指揮もしないといけませんからね」

 週末に楽譜を書いたアルバート部長には感心するよ。

「ペイシェンス、もっと練習しないとな。自分の曲なのに下手すぎる」

 うっ、サミュエルは初見で弾けるんだよね。

「はい!」と反省。夏休み中にリュートの練習をするつもりだったのに、遺跡調査で、馬にばかり乗っていた気がするよ。

 パリス王子も何回か弾いたら上手くできる。私は、サミュエルにビシバシ指導されている。頑張るよ!

「ちょっとペイシェンス良いか? 歌詞を作ったのだが、これで良いだろうか?」

 音楽的なセンスは、アルバート部長は信頼できる。歌詞も神を讃えながら、人生の歓びを歌い上げていて、元の第九によく似ているよ。

「ええ、とても素敵な歌詞ですわ」

 その上、各声のパートの簡単な楽譜まで書いている。

「グリークラブに渡す前に、少しだけ聴いておきたい。マーガレット様はハノンで伴奏して下さい」

 私と女学生はソプラノとアルト、男子学生はテノールとバリトンに分かれて、簡単なコーラスを歌う。

「これは、なかなか盛り上がる曲だな」

 パリス王子は、歌もかなり上手い。グリークラブでも目立つだろう。

「細かな調整はマークス部長がするだろう」

 アルバート部長も満足そうだ。でも、やはり収穫祭までは放課後は殆ど練習日になるみたい。

「私とパリス王子はグリークラブとの掛け持ちですから、火曜と木曜は必ず来ますが、他の日は来られないかも」

 サミュエル達も乗馬クラブとの掛け持ちだ。

「私は毎日クラブハウスを開けているから、各自練習に来てくれ。合奏の練習は火曜と木曜にするので、全員集合だ! 後半はグリークラブとの練習もある」 

 ううう、錬金術クラブ、行けるかな?

「アルバート部長、楽譜を売り出す書類にサインをしてきました」

 クラブ終わりに書類を渡す。

「ああ、ありがとう」

 アルバート部長の音楽への愛は本物なのだけど、私は前世の天才作曲家のパクリだからね。やはり釣り合わないよ。

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