第27話 錬金術クラブの問題点
水曜はパーシバルと一緒の授業が多い。国際法と経営2だ。経営2は、皆で学食のアンケートと働いている人へのアンケート内容を持ち寄った。
「問題はカフェとペイシェンスの提案のメニューの改善案だな。今は一種類なのを二種類にするのは作る方が嫌がらないかな?」
今は基本的にシチューが多い。煮込む材料と味は変わるけど、同じ感じになる。私はシチューを大盛りにして、女学生達にはカフェ飯っぽいのを提供したら良いんじゃないかなと思ったんだ。野菜たっぷりのサンドイッチとスープ、それとか予め焼いておけるパイとサラダとかね。これは作る人へ先ず提案するつもり。
「カフェは、学食の三分の一を当てたらどうかしら? 今の学食の机を詰めたらスペースは十分だと思うの。季節の良い時期はオープンテラスにしても良いわ」
これは、全員からあれこれ文句がついた。
「今でも狭苦しいのに、席を詰めたら鬱陶しくなる」
「それに、同じ学食内なら、そちらも運動会系の男子学生が居座りそうだ」
パーシバルもラッセルとフィリップスの意見に頷いている。
「ええっと、ではカフェは別に作った方が良いのかしら?」
ラッセルは、食堂の横にある面談室を潰したら良いと提案する。
「面談室なんて使わないだろう。問題を起こした学生には親に手紙が届く。親の方が先生より怖い」
確かに異世界の親は厳しそうだ。それに廃嫡とか勘当とかの制度もあるみたいだから、親の権威は強い。女の子も言うことを聞かないと、下の階級に嫁に出されたりするみたい。うちの父親は放任主義で良かったかも。
「いや、寮生とかもいますから、全ての面談室を潰すのは問題です。でも、6室もいらないかもしれませんね。2部屋のこして、4部屋分をカフェにしてはどうでしょう」
パーシバルの折衷案が良さそう。
「学食方式で、カウンターでお茶とかジュースとかお菓子を自分で買って、トレーで席に運ぶなら、職員の負担も少ないのでは? これも職員のアンケートに加えましょう。あっ、食券を売っても良いかもしれません。全部同額にするか、お菓子は2枚とか? それならスムーズにお茶を販売できそうですわ」
あっ、少し捲し立てちゃった。男子に少し引かれちゃったかな? ラッセルが、カカカと笑って話を締める。
「ペイシェンスは発想力豊かだな。後は、アンケートの実施日だ」
異世界にもガリ板印刷があるんだ。笑っちゃうね! 学生会にクラブが借りに行くみたい。
「ええ、アンケートは作っておきますわ」
全員が刷るのは手伝ってくれるみたい。原稿は字が綺麗だからと私が書くことになったよ。フィリップスもパーシバルも綺麗な字だけど、ラッセルは癖のある金釘文字だね。
昼からは織物2だ。約束通りソフィアに極小ビーズを見本で持って行く。
「まぁ、綺麗だわ! でも、針が通るかしら?」
やはり手芸クラブだから、すぐに気づくよね。
「ええ、普通の針では通りませんの。この極細の針を使いますのよ」
バーンズ商会ではセットで売って貰わなきゃ!
「もう少し大きくても良いかも?」
ハンナは私と同じ意見だね。でも、ソフィアとリリーから猛反対された。
「小さいから綺麗なのよ!」
「とても緻密な模様にできそうだわ」
ハンナも肩を竦めて「確かにね!」と同意したよ。
「あっ、ペイシェンス様、今日は料理クラブの日なの。四時間目からなのだけど、大丈夫かしら? 放課後だけだと帰宅時間が遅くなるから、早くからクラブハウスは開けてあるの。どうしても四時間目の授業がある人は途中参加だけど……」
四時間目は空いているよ。錬金術クラブに行く予定だったけど、今日は料理クラブに行こう。それにマーガレット王女達はグリークラブの日だからね。
織物2では染色2で染めた糸を卓上織機にセットして、少し織って終わった。
「模様がずれないようにきちんと糸を押すのよ!」
ずれた柄は、一模様ずらしてからやり直すみたい。布の横で糸を繋ぐのだけど、これが多いと腕が悪いのが丸わかりになるとダービー先生に言われて、皆、真剣に織ったよ。
料理クラブの顧問はスペンサー先生だ。うちの音楽クラブと錬金術クラブの顧問は、クラブ活動の日にも来ないけど、スペンサー先生はちゃんとクラブハウスに来てる。
「ペイシェンス、新しいスイーツのレシピの開発はとても嬉しいわ! アイスクリームも錬金術クラブで発明したのでしょう」
スペンサー先生とルミナ部長に挨拶がわりにチョコレートの小箱をプレゼントする。
「これは、南の大陸から運ばれたカカオ豆で作ったチョコレートです。まだ作り方が安定しなくて、少しだけですけど」
今いるメンバーでプチお茶会だよ。
「まぁ、とても美味しいわ。カカオは飲んだ事があるけど、苦くてドロドロだったの」
スペンサー先生はカカオを飲んだ経験があるみたい。
「南の大陸では、滋養強壮剤として飲むと聞いたのだけど、不味くて二度と御免だと思っていたのに、これはとても美味しいわ」
チョコレートの評判は上上だ。
「それと、錬金術クラブのカエサル部長から、来年の青葉祭で一緒に新しいスイーツの販売をしないかと申し出があるのですが……」
新しいスイーツで「キャッ!」と声が上がる。女子はスイーツ好きだからね。
「勿論、協力したいと思いますわ。皆で決を取らなくてはいけませんけどね」
ルミナ部長は、4年のBクラスみたいで、時々、裁縫の時間とかで会った事がある。
「今日は、顔合わせだけのつもりでしたから、このレシピを置いていきます。ミルクレープというケーキのレシピです。ここではイチゴの薄切りを挟んでいますけど、生クリームだけでも良いし、季節のフルーツを色々と試してみて下さい」
クラブの費用は参加する日割みたい。凄く合理的で良いね!
料理クラブで話は終わったから、錬金術クラブに向かう。ちょうど四時間目の終わりの鐘が鳴ったよ。
やはり授業中より、放課後の方がメンバーの集まりが良い。ミハイルとミシンの設計図を考える。まぁ、ほとんどミハイルが描いているんだけどね。私は思い出したのを提案するだけとも言えるね。
綿菓子機はベンジャミンが中心になってブライスと一緒に考えている。
カエサルとアーサーは熱気球の改善案だ。
「ペイシェンス、ちょっと来てくれないか?」
カエサルに呼ばれて、そちらのテーブルに行く。
「ペイシェンスは、この気球を染めたいと言っていたよな。試作機とは別に少なくとも3台は作りたいと思っているのだ。色分けをしたいのだが、巨大毒蛙の皮は染まるのだろうか?」
ああ、それは私も分からないよ。
「今度、染色の先生に聞いてみますわ。それと何色に染め易いかも質問しておきます」
後は、籠部分についてだ。
「できれば5人は乗せたい。1人はメンバーが操縦を兼ねて乗るから4人ずつになる」
それって、問題があるのでは?
「カエサル部長、下で綱の管理も必要ですし、乗る人の整理もしなくてはいけませんわ。3台にクラブメンバーが乗ったら、下には3人になってしまいます。それに、私はずっとはいれませんの。音楽クラブの発表の時は2人になってしまいますわ」
綿菓子の販売は料理クラブに協力を求めるとしても、下に3人では難しいよ。
「でも、きっと大勢が乗りたがるのは明らかだ。来年、新入生を勧誘して増やそう!」
確かに部員を増やさないと錬金術クラブはまた廃部の危機になっちゃう。カエサル部長とアーサーが卒業したら、ベンジャミン、ブライス、ミハイルと私! 4人だと廃部だよ。
「青葉祭の前に新規メンバーを集めないといけませんね」
でも、パリス王子は嫌だけどね! なんて思っていたら、全員から「ペイシェンス、パリス王子は勧誘するな!」と言われたよ。
「分かっています! でも、魔法使いコースのほとんどの学生は、王宮魔法使いになるのか薬師になるのが目的みたいで、錬金術に興味を持つ方が少ないですわ」
騎士コースの騒動の時にびっくりしたのだけど、文官コースの次に魔法使いコースを選択する男子学生が多かったのだ。資格が色々と取れるからね。キース王子の学年が騎士コースが多過ぎたんだよ。
「錬金術師の資格も食べるのに困らないのだけどなぁ。難しいと思い込んでいる学生が多いのかも?」
魔法陣の内職には助けられたよ。でも、それは私がコピー能力があるからかも?
「アイスクリームや綿菓子で女子も展示会場に集まってくれるけど、入部とかは増えそうにありませんね」
前世でも理系は女の子が少なかったな。
「錬金術は、こんなに楽しいのに!」
ベンジャミンが獅子丸になって吠えている。
「今年の自転車も大好評だった。なのに、入部してくれたのはミハイルだけだ」
カエサル部長も頭を抱え込んでいる。自分が卒業した後の錬金術クラブが心配なのだろう。
「なぁ、ペイシェンスの弟のナシウスは来年入学だろう? 錬金術クラブに入ってくれたら、5人は確保できる」
ベンジャミン、幽霊部員を増やしても解決にはならないよ。
「ナシウスは、歴史研究クラブと読書クラブに入ると決めていますわ。それに錬金術にはあまり興味が無さそうです」
全員からフィリップスへの悪態が上がる。
「青田買いだ!」「先に唾をつけたな!」「ペイシェンスの弟をゲットするなんて姑息だ!」
最後のは意味不明だけど、本人の好きなクラブを選んだら良いと思う。
「ああ、そうだ! この前のお土産のメロン、とても美味しかった。母がとても喜んでいたよ」
アーサーからお礼を言われて、ホッとした。試食しないでお土産にしたからね。それを聞きつけたベンジャミンが「チョコレートかメロンか悩む」なんて言うもんだから、カエサル部長に「図々しいぞ!」と叱られ、大爆笑だ。
気のおけない仲間との錬金術クラブは楽しいけど、新規メンバーの獲得もしないといけないのだ。複雑な気持ちだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます