第12話 家政コースは難しい?

 一時間目は経済学2だ。いつものようにフィリップスにエスコートされて、ラッセルと一緒に教室移動する。

「ペイシェンス様、一緒の授業ですね!」

 パーシバルは経済学1のテストで合格したみたいだ。

「ええ、パーシバル様は何科目テストを受けられたのですか?」

 パーシバルは、ふっと笑って答えなかったけど、そのせいで学生会に目をつけられたのかもしれない。

 経済学2もカインズ先生だ。

「ここには初めて見る学生もいるから、一応、説明しておこう。私はカインズ、経営と経済学を教えている。この授業でもレポートとテストで点数が決まる。他の経済や経営でも同じだが、先生によってはテストの方を重視する人もいるから、レポートに時間を掛けたくないと考えるなら変更してくれ」

 確かに単位を取るならテスト重視の先生の方が楽だよね。私は異世界の経済について知りたいし、この授業の方が楽しいし役に立つと思うから変わったりしないよ。

「カインズ先生、経営は学食の改善でしたね。では、経済も学食関係ですか?」

 相変わらずラッセルは積極的に質問するね。

「ラッセル君、春学期とは一捻り違う。経営と同じようなテーマだと簡単すぎるからね」

 教室が騒めく。皆、似たようなテーマだと推測していたようだ。

「まぁ、食品関係なのは同じかな? ローレンス王国の輸出食料品と輸入食料品を調査して、その問題点と改善策がレポートの課題だ」

 あっ、これはサティスフォードのバザールで見学したのも参考になりそう! 

「その資料は何処で調べれば良いのですか?」

 2年生の学生が質問している。

「そのくらいは自分で考えなさい。さて、一時間目はテストと決まっているんだ。受けない学生は出て行ってくれ」

 全員が席を立った。

「おや、やはり誰も受けないのか? 折角テストを作ったのに残念だな」

 カインズ先生の言葉に、ラッセルとパーシバルが同時に声を上げる。

「「なら、受けても良いですか?」」

 そうだよね! 折角なら受けたい。

「私は、授業も受けたいですが、テストに挑戦してみたいです」

 私とフィリップスも少し遅れて手を挙げた。

「おやおや、合格点を取れたら単位がもらえるのに、そちらは良いのか? まぁ、暇つぶしになるかな?」

 何と、他にも何人かがテストを受けた。まぁ、合格点は取れそうだけど、最後の大問はちょっと無理だったかもね!


 二時間目の世界史は、フィリップスはテストを受けずに出て行ったけど、私とパーシバルは修了証書用のテストを受けた。夏休みの猛勉強のお陰でほぼ満点だと思う。

「ペイシェンス様も上出来みたいですね!」

 朝は沈んでいたパーシバルだけど、2科目テストを受けてテンションが上がったようだ。

「ええ、でも経済学の最後の大問は自信がありません。もう少し勉強しなくてはいけませんわ」

 二人とも野心に火がついたよ!

「ええ、それにレポートには興味があります。経営の学食改善と輸出入食品の調査! 一緒に調査しましょう」

 パーシバルは騎士コースでも優秀だったんだろうけど、文官コースにも燃えているね!

「夏休みの最後にサティスフォードのバザールを見学したのです。ローレンス王国から輸出される食物と輸入される食物や香辛料がいっぱい並んでいましたわ」

 パーシバルは、ピンときたみたい。

「サティスフォードなら王都から日帰りできますね」

 二人で顔を見合わせて笑う! 

「朝早く出発すれば、夕方までには帰って来れますわ」

 まぁ、若い男子と二人っきりで外出させてくれるかは分からないけどね!

「輸出入に関する資料は、外務省にあると思います。資料の閲覧の許可を父に得ておきますが、カインズ先生は、そんな事をレポートに書いて欲しいのでは無いと思います。実地調査をしてみたいですね」

 バザールにはもう一回行きたいと思っていたんだ! 父親が許可してくれたら良いのだけど……

「私からグレンジャー子爵に許可を得ます!」

 こんな時、女の子は不自由なんだよ! パーシバルが付き添ってくれなきゃ、王都の外になんか行けない。ぶーぶーと内心で文句を言いながらも、期待で胸がいっぱいだった。


「ああ、木曜はマーガレット様とリュミエラ様は料理の時間なのですね」

 そう、昼食はパリス王子とパーシバルと私だ。二人のハンサムとチビの私! 

「王立学園は厳しいですね! ああ、ブライスに相談したら、とても親切に説明して貰えました。やはり、薬学と薬草学のマキアス先生は厳しいと忠告されましたよ!」

 薬草学は、春学期の反対で、先に座学だ。教科書を読ませるだけの授業では、難しさが実感できていないだろうね。

「パリス王子、薬草学の教科書通りではテストで合格できません。それぞれの薬草の特徴や、組み合わせてはいけない薬草などを調べないと不合格になりますわ」

 パリス王子は珍しく感情をあらわにして「魔女先生め!」と罵声をあげた。

「何か変だとは感じていたのです。薬学でも教科書には最低限の事しか書いてないし、一度しか注意事項は言わないのに、薬草学は教科書を学生に読ませるだけですからね!」

 パーシバルは、変な先生ですねと笑っている。

「おや、パーシバルは朝と違って機嫌が良くなっているね?」

 パリス王子にサティスフォード行きがバレたら、何か拙いよね。

「ええ、テストを受けまくって、テンションがあがりました。それに経済学と経営のレポートが面白そうなので、文官コースもなかなか良いなと思えるようになったのです」

 パリス王子は、騎士コースから文官コースに転科するのは大変だろうねと話題が変わった。

「体育は、何とか修了証書が貰えたよ。後、貰えそうなのは美術かな?」

 一般科目はほぼ修了証書を得ているようだね。なんて話しながら昼食をとっていたら、マーガレット王女とリュミエラ王女がやってきた。また魚だったのかな?

「マーガレット様、どうされたのですか?」

 席についたマーガレット王女に、パーシバルが質問している。

「今日はステーキで簡単だとホッとしたの。でも、コンロの調子が悪かったのか炭になっちゃった。で、スペンサー先生が上級食堂サロンへ行って良いと言われたの」

 給仕の差し出したメニューをマーガレット王女とリュミエラ王女はサッと見て「鳥の蒸し物を」と注文する。

 上級食堂サロンには他にも何人かの女学生が来ていた。コンロの調子が悪かった女学生だけみたいだね。

「折角、マーガレット様が学友のエリザベスを紹介してくださったのに、コンロの調子が悪くて失敗でしたわ」

 ええっと、料理ができる方はエリザベスじゃなかったよね。マーガレット王女は、自分に料理ができるアビゲイルを確保したまんまなんだ! まぁ、これは仕方ないのかな? 自分の学友はリュミエラ王女が見つけなきゃね!

 マーガレット王女が手招きするので、顔を寄せる。

「ねぇ、ペイシェンスはもうほぼ6枚のドレスが出来上がりそうなのよね? でも、少し遅らせて貰えないかしら? リュミエラ王女は刺繍は上手いみたいだけど、裁縫はさっぱりみたいなの。ダーツの意味も知らないわ」

 裁縫は火曜の三時間目に入れているけど、先生から私は成長期なので仮縫いまでで良いと許可されているのだ。生地がなかった夏物2枚以外は終わっているんだよね。

「エリザベス様に頼めませんか?」

 エリザベスは、裁縫はまぁまぁできるし、服装のセンスは良い。火曜と金曜の午後は錬金術クラブに行く予定なんだ。裁縫の修了証書が貰えたら、音楽クラブに行くまでの午後全部が空く。

「エリザベスは自分のドレスで精一杯だわ」

 お洒落なエリザベスは、他人の面倒まではみれないのか。でも、夏物のドレスも仮縫いまで終わったら、キャメロン先生は修了証書を出しちゃうよね?

「あっ、生地は無地ばかりですわね! 裾に刺繍をすると提案してみますわ」

 どれほどリュミエラ王女の裁縫が駄目なのか分からないけど、マーガレット王女も心配だから、秋学期の途中までは刺繍をしながら二人のフォローをしよう。それに、少し考えていることがあるから実験したいんだよね! 裁縫のキャメロン先生が気に入ってくれたら、一気に売上アップしそう! 父親の晩餐会にもお金がかかりそうだから、バーンズ商会にはバンバン売って欲しいんだ。欲と義理の二本立てだね。

「私は、王立学園に留学すると決まってから、かなり勉強してきましたの。でも、家政コースは簡単だとばかり思っていました。マーガレット様が裁縫を毎日取っていらっしゃる意味がよくわかりましたわ」

 リュミエラ王女の不安そうな顔を初めて見たよ。これは、裁縫の時間にはフォローが必要そうだね!

「リュミエラ様、今度の火曜の裁縫の授業にはペイシェンスがいますわ。どうやって縫えば良いのか、チャコで順番を書いてくれますから、それまでは型紙を書いておきましょう!」

 二人とも、変なところで裁断するより、型紙作りに専念していて欲しい。それか、キャメロン先生を捕まえて、チェックしてもらってから裁断して欲しいよ。

「まぁ、それほどペイシェンスは裁縫ができるのですね!」

 リュミエラ王女もホッとしたようだ。やれやれ! 秋学期中、掛からなきゃ良いんだけど……あっ、それか火曜は音楽クラブをパスしても良いとか言ってくれないかな? 駄目だよね!

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