第13話 久しぶりの錬金術クラブ

 お昼からは錬金術クラブだ。来週からは防衛術を習いに王宮行きかもね? ゲイツ様が書類仕事で忙しくて延期になると良いのだけど。

 そんな事を考えながら、私としては精一杯の早足で錬金術クラブに向かう。寮にはオルゴールを持って来ていないけど、毎朝の体操は続けているよ!

「おお、ペイシェンス! 久しぶりだな!」

 ベンジャミンが先に来ていたけど、文官コースは大丈夫なのかな?

「ご機嫌よう」と返事をしている間にも、カエサルと二人で「オルゴールの他の形はどういったものだ?」「ミシンとは?」「気球の改善は?」「チョコレートのカカオの粉砕が上手くいかない!」「新しいスイーツの機械は?」と質問が飛んでくる。

 ああ、この感じ! 錬金術クラブのノリだよ!

「そうだ、新しいマギウスのマントの刺繍は出来たのか?」

 先ずは一つずつだね。

「ええ、新しく刺繍し直したのを、週末までにはお屋敷に届けますわ。来週末にはサリエス卿が剣術指南に来られるから、テストを済ませていただければありがたいです」

 カエサルがパチンと指を鳴らした。

「それで、陛下に献上するマントは?」

 それは、まだなんだよ。

「来週、王宮に防衛魔法を習いに行きます。その時にゲイツ様から刺繍をするマントを預かる予定です」

 来週が、再来週になっても私的には良いけどね。

「そうか、そちらのマントも刺繍ができたら屋敷に届けて欲しい」

 テストをしてくれるのは、有難いよ。

「ええ、そうしますわ」

 これで、マギウスのマントについては終わったよ。次は、チョコレートの件だね! 金になる事から解決したい。

「カカオの豆を細かく細かくしないと、口溶けが悪くなります。それに、その時に摩擦熱が発生すると味が悪くなってしまうのです」

 カエサルが「摩擦熱! それで変な風味になったのか!」と叫んだ。

「ええ、それとかなり細かくしないといけませんわ」

「チョコレートとか言うスイーツを食べたいぞ!」

 ベンジャミンは、チョコレートを食べたいと騒いでいる。

「まだペイシェンスの生活魔法でしかチョコレートは作れないのだ。母上にチョコレートを食べたいと急かされて困っている。それとゲイツ様からカカオ豆が山ほど屋敷に届いて、父上も早く作れと言われるし……」

 ああ、ゲイツ様はせっかちだからね。

「少しだけなら、屋敷にカカオ豆を届けていただければ、チョコレートを作りますわ。土曜はフィリップス様のお宅に招待されていますけど、午前中に少しならできます」

 カエサルはホッとしたみたいだ。

「カカオ豆以外の材料も書いてくれたら、届けるよ。それと、材料の半分は自宅で使ってくれ! 手間賃だと思って欲しい」

 あっ、それは嬉しい! 料理クラブにちょこっとお邪魔する時に手土産にできるからね。あっ、駄洒落じゃないよ!

「これが考えているディスク型のオルゴールです。このディスクを変えたら、色々な曲が聴けます」

 持ってきた鞄から、ディスク型のオルゴールの図を出して見せる。

「ふむ、このディスクを交換するのか? なかなか面白そうだ!」

 カエサル部長は、すぐに賛成してくれたけど、ベンジャミンは難しい顔をしている。

「魔石を使わないオルゴールも良いが、誰かが回していないと音楽を楽しめないのはどうだろう? 体操の時は良いが、サロンで寛いでいる時に常に召使いが側で回しているのはなぁ」

 まぁ、そうだよね!

「では、二方式で使えるようにしては? 魔石を買える人は、それを使う。買えない人はハンドルを回す」

 ベンジャミンが「それだ!」と手を叩いて喜んだ。

「自分なら常に側に召使いがいたら、寛げないと思ったんだよ。魔石で動くなら、サロンや自分の部屋で音楽を聴きながら本を読んだりできる」

 貴族は魔石を買えるから、そちらだね!

「ふむ、それが良いだろう!」

 こちらは、他のメンバーが揃ってから、ディスク型のオルゴールの制作に取り掛かる事にした。

「ミシンは、早く作りたいのです。裁縫の時間が大変そうですから。ミハイル様にこの資料を渡しておいてください」

 二人の視線が突き刺さる。

「ペイシェンス、錬金術クラブに来る時間が取れないのか?」

 ベンジャミンが先に質問した。

「秋学期は、どのようなスケジュールなんだ?」

 渋々、私のスケジュール表を見せる。

「なんだ? まだ家政コースを三時間も取っているのか? あっ、この錬金術3はきっと修了証書が貰える。キューブリック先生がマギウスのマントに感激していたからな。もう、教える事は無いと評価してくれるだろう。ここの外国語は修了証書が貰えるのではないか?」

 外国語と裁縫は、マーガレット王女と一緒だから取っている。合格はできそうなんだけどね。

「織物と染色は、私の趣味なんです。外国語と裁縫は……マーガレット王女とリュミエラ王女の付き添いの意味合いもありますわ」

 裁縫は仕方ないけど、リュミエラ王女が外国語を履修されるなら、修了証書を目指しても良いよね!

「やはりペイシェンスは無理しているんじゃないのか? 側仕えを辞めたらどうだ?」

 ベンジャミンに言葉で誘惑されちゃった。一年前なら、喜んで誘惑に従ったかもしれないけど、今は少し違うんだよね。

「ベンジャミン、無茶を言うな。王妃様が選んで決められたのだぞ。ペイシェンス、ベンジャミンの言うことは無視しろ。そんな事をしたら、社交界で干されるぞ!」

 ベンジャミンは「社交界なんて必要ないだろう!」なんて悪態をついている。

「ベンジャミン、文官コースを取らされたからと言って、ペイシェンスにまで悪影響を与えるような発言はやめろ。それに、たかだか経済学、経営、外交学、行政、法律、世界史、地理、外国語、領地管理だけじゃないか。ペイシェンスは、ほぼ修了証書を得ているのではないか?」

 たかだかにしては多いと思うよ。

「いえ、経済学、経営、外交学は修了証書を貰っていませんわ。それに国際法と第二外国語も秋学期からですし」

 カエサルは「ふん」と鼻で笑った。

「ペイシェンスが修了証書をとっていない科目は、それを取りたくないからだろう。ディベートやレポートの課題が楽しくて勉強しているのだ」

 うっ、その通りだよ! 

「そりゃ、私だって勉強不足なのは分かっているけど……これでは錬金術クラブに来る時間が無くなってしまう」

 ポイと内ポケットから出して、机の上に投げたスケジュール表は……ガラガラじゃん!

「私よりスカスカですわ!」

 文官コース以外は古典と薬草学と薬学だけだ。魔法使いコースの卒業単位は古典以外は全部足りている。

「この薬草学と薬学を諦めたらどうだ? 私はこれを辞めたら卒業になるから、取っているだけだ」

 カエサルは卒業単位は足りているみたい。錬金術クラブの為に残っているだけだね。

「いや、立派な魔法使いになるには薬草学と薬学は必須だ!」

 それなら頑張るしかないね! ベンジャミンの方が空いている時間は多いから、全く同情はしないよ。

「ペイシェンスは、好きで授業をとっているんだろう? 単位を取りにくい先生ばかり選んでいるじゃないか!」

 ああ、ベンジャミンが面白くないのわかったよ。

「ベンジャミン様は、簡単に単位が取れるけど面白くない授業ばかり取られているのですね。それでは退屈だし、勉強をするのも嫌になりますわ」

 ベンジャミンは、少し考えていたけど、スケジュール表を破り捨てた。

「そうか! なら、受けて楽しい授業を教えてくれ」

 私は春学期に音楽クラブのルパート先輩に教えてもらった先生を書いて渡した。

「でも、行政と法律は教科書どおりですから、暗記して秋学期末に修了証書を貰った方が良いですよ」

 ふむ、ふむとメモを見ていたベンジャミンが「ペイシェンス、ありがとう!」なんて、素直にお礼を言うから、ちょっと可愛いななんて思っちゃったよ。

「ああ、そうだ! パリス王子には注意した方が良いぞ。かなりローレンス王国の錬金術やロマノ大学の魔法学科に興味があるみたいだ。それに、クレメンス聖皇の甥だからな。ペイシェンスの特殊な魔力に目をつけられたら、厄介だと思う」

 ベンジャミンの忠告はありがたいけど、マーガレット王女の側仕えだから、パリス王子とも一緒にいる場面が多いんだよね。

「ペイシェンス、いざとなったら全てゲイツ様と私に丸投げしたら良い。パリス王子でも王宮魔法師のゲイツ様には手を出さないし、私も一応は公爵家の嫡男だから、引き抜きとか誘拐とかは考えないだろう」

 えええ、そんな事もあり得るの?

「相変わらずペイシェンスは、自分の値打ちに無頓着だな。パーシバルを寮に入れたのは、なにも外国からの王族の世話係をさせるだけではないだろう。貴重な人材を他国に取られないようにする為だ」

 あっ、そう言えば……頬が赤くなるよ。パーシバルが私の騎士ナイトだと言って手にキスをしたのを思い出しちゃうじゃない!

「あっ、何かあったのか?」

 ベンジャミンが騒いでいるけど、それどころではない。

「パリス王子は錬金術クラブにも興味を持たれているのです。何度か話題にされていましたけど……マーガレット王女やパーシバル様が話題を変えられたのだわ! それは、やはり拙いのですよね?」

 マーガレット王女は「錬金術クラブは変人の集まりですわ」といつもと同じ様にディスられただけだけど、パーシバルは「今日はグリークラブの見学ですね」と自然と話題を変えていた気がする。

「パリス王子が錬金術クラブに入られたら困るな。ペイシェンスの才能に気付かれてしまう。何とかならないか?」

 私も、パリス王子が錬金術クラブに入られたら、気を使うし、わちゃわちゃできる場所が無くなるから嫌だと思っていたけど、他国に連れ去られるとかまでは考えていなかった。

「パリス王子が音楽クラブに入るのは決まっています。今日の放課後はリュミエラ王女がコーラスクラブの見学に行かれますから、それに付き添われますわ。グリークラブかコーラスクラブのどちらかか両方にリュミエラ王女が入部されたら、パリス王子も入られると思うのですが……」

 リュミエラ王女がグリークラブに入ったら、パリス王子も入部しやすいだろうけど、コーラスクラブだと女学生ばかりだから難しいかもね?

「前に、ペイシェンスはコーラスクラブと音楽クラブは揉めたと言っていなかったか? それにコーラスクラブは女学生ばかりの気がするけど?」

 えっ、ベンジャミンにそんな事を愚痴ったかな? ルイーズとの事は言わなかったけど、音楽クラブと揉めたぐらいは言ったのかも?

「パリス王子が錬金術クラブに入らない様にするには、音楽クラブ、グリークラブ、コーラスクラブ、全部に入ったら良いのだけどな!」

 カエサル部長、それは無理でしょう!

「音楽系クラブのコンプか! それなら錬金術クラブに来る暇は無いな。グリークラブはほぼ毎日練習だそうだし」

 ベンジャミンは、ケタケタと笑うけど、グリークラブにリュミエラ王女とパリス王子が入ったら、マーガレット王女も入りそうなんだよ。二人が急接近しちゃう!

 リュミエラ王女がコーラスクラブに入り、マーガレット王女も一緒にクラブ活動されたら安心だと思っていたんだ。パリス王子が錬金術クラブに入るなんて考えてもいなかったからね。

「まぁ、こればかりは考えても仕方ないな。パリス王子の考え方次第だ。マーガレット王女と親密になるのを重要視するか、錬金術に対する興味を取るかだな。さぁ、ペイシェンスの貴重な時間を無駄話で潰してはいけない」

 それからは、熱気球の改善案や綿飴機について話し合った。

「あのう、来年の青葉祭では料理クラブと協力しませんか? 綿飴の販売を任せても良いし、去年のアイスクリームも評判が良いから、料理クラブに譲っても良いと思っているのです」

 カエサル部長とベンジャミンも綿菓子機の製造については興味があるけど、それの販売よりは熱気球に集中したいので「料理クラブとの協力はペイシェンスに任せる!」と簡単に許可してくれた。

 月曜の染色の授業で、ハンナに一押ししておこう! それと、料理クラブの台所を借りる許可も欲しいな!

「ペイシェンス、もしかして料理クラブに入る気なのか?」

 ベンジャミンは勘が鋭いね。

「いえ、もう手一杯ですわ。音楽クラブを辞められたら、料理クラブに入りたいですけど」

 そんな事を言ったら、カエサル部長とベンジャミンの両方から「音楽クラブを辞めたら、錬金術クラブにもっと来い!」と言われたよ! やれやれ!

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