第11話 寮で朝食
木曜は、基本的に一時間目の経済学2しか履修しない予定だ。今日の二時間目で、世界史2は修了証書を貰うつもりなんだ。昼からは王宮に防衛魔法をゲイツ様に習いに行く為に空けているけど……へへへ、まだ手紙は書いていないから、来週からだね。つまり、午後は、音楽クラブまでは錬金術クラブ三昧だ!
むふふ……と押し殺しても笑いが込み上げてくる。だって、作りたいものが山ほどあるんだよ!
「ペイシェンス、何なの?」
マーガレット王女に注意されちゃったよ。気をつけよう!
近頃は、朝は一応は起きてくれている。だから、リュミエラ王女と二人分の髪の毛をセットしても余裕で朝食に間に合う。
「おはようございます」
ああ、朝からハンサム軍団だ。オーディン王子もよく見ると整った顔立ちなんだ。馬好きと食欲魔人のイメージが強いけどね。キース王子と仲良くなっているみたい。ラルフがお世話係だね!
パリス王子は、リュミエラ王女の付き添い設定はすっ飛ばしているね。マーガレット王女と仲良くトレーを持って並んでいる。リュミエラ王女は、そんな事に腹を立てたりしないで、一緒に並んでいる。やはり、リチャード王子のお妃になるだけあって、優れた方だね。
「ペイシェンス様、おはようございます」
あらっ、少しパーシバルのテンションが低い。何かあったのかな? テストを受けまくっているみたいだけど、落としたのかしら?
「パーシバル様、おはようございます。何か気がかりな事でも?」
こっそりと尋ねたよ。はぁと、溜息が返ってきた。グリークラブを案内した件で、大人連中から文句とか言われたのかな?
「私が文官コースに変わり、騎士クラブの部長にならないことが学生会に知られて、呼び出しの手紙が届いたのです。学生会なんて嫌ですよ。騎士クラブを辞めたくないのです」
ああ、それはパーシバルが落ち込むのも無理はないね。騎士クラブに愛情を持っているもの。
「学生会に入ると騎士クラブは辞めないといけませんの?」
学生会の規則は読んだけど、あの時は騎士クラブの廃部を撤回させる為にだったから、学生会のメンバーの選定とかはすっ飛ばしたんだよね。
「ええ、公正な立場でないといけませんからね。騎士クラブを辞めたくないのに……ルーファス学生会長にごり押しされそうで困っているのです」
まぁ、中等科2年で一番目立っているパーシバルが部長にならないなら、学生会に狙い撃ちされるよね。
それに中等科2年で同じように目立っているカエサルやアルバートは、錬金術と音楽に愛が深すぎて学生会には向かないもの。
「何とか断れませんの?」
パーシバルは、首を横に振る。
「あの呼び出しが来たら、ほぼ決定なのです。それに私の授業時間がスカスカなのも把握されていて、テストを受けすぎたかも……」
どうやら学生会からの呼び出しが寮に届いたみたいだ。
「放課後のコーラスクラブに私は行けませんから、ペイシェンス様にお願いしておきます」
それは良いんだよと言いたいけど、コーラスクラブに行くのは気が重い。音楽クラブと揉めたし、ルイーズがいるからね。
朝食の席では、マーガレット王女がリュミエラ王女に料理の授業の説明をしていた。
「スペンサー先生は厳しいの。調理した物を食べないといけないのよ。だから、今日は
リュミエラ王女は、少し不安そうだ。少しフォローしておこう。
「スペンサー先生は、スープとパンを出してくれますわ。だから、簡単なメインを作るだけです」
わっ、マーガレット王女の怒りに火をつけちゃった。
「ペイシェンスには簡単なんでしょうね! 私は木曜が憂鬱なのよ。何を作らされるか不安だわ。魚だったら、どうすれば良いのかしら?」
ああ、あの日は悲惨だったね。スペンサー先生もスープを作る暇もなかったようで、
パリス王子もパーシバルも賢いから口を挟まない。
「あのう、マーガレット様、私は一度、学食に行かないといけませんの。経営2の課題が学食の改善ですから。来週の月曜か火曜は、フィリップス様とラッセル様と学食に行く予定です」
許可を取らないと煩いからね。
「まぁ、変わった課題なのね。それにフィリップスが一緒なら良いでしょう」
やれやれ、学食に行くのも大変だよ。どうもマーガレット王女は、私がぼんやりしているから下級貴族の男子学生に誘惑されると思っているみたい。
「ペイシェンス様、私も何とか経営1と経済学1と外交学1は合格しそうです。国際法で一緒だったフィリップス君とラッセル君となら同行してもよろしいでしょうか?」
パーシバルは凄い勢いでテストを受けて合格を取っているみたい。
「ええ、多分、大丈夫だと思いますわ」
ラッセルは、パーシバルを尊敬しているみたいだから、拒否はしないと思う。それにフィリップスは優しいから大丈夫。
「今日の二時間目は世界史ですね。ペイシェンス様も修了証書用のテストに挑戦されますか?」
うん、そのつもりで夏休み中に猛勉強したんだからね。
「ええ!」
マーガレット王女が呆れているよ。
「パーシバルとペイシェンスは二人ともテストで合格をいっぱい取るつもりなのね。リュミエラ様も国語、古典、魔法学、音楽、ダンスはもう修了証書を取られたし、多分、美術もでしょう。習字2と刺繍2も一緒に受けられそうよね」
リュミエラ王女は、本当に猛勉強して来ているね。
「パリス様も国語、数学、古典、魔法学、ダンス、音楽の修了証書を取られたのですよね」
マーガレット王女の声が弾んでいる。
「いえ、魔法使いコースの選択授業に苦労しそうです。国で一般科目はかなり勉強してきたつもりですが、やはり魔法使いコースは手強いですね」
目の前の優雅な王子様が魔法使いコースで、どれだけ浮いているか、想像したら頭がクラクラしてくるよ。
「誰か、魔法使いコースの学生を紹介していただけませんでしょうか?」
同じクラスに魔法使いコースの学生は三人いる。
「ベンジャミン様、ブライス様、アンドリュー様がいらっしゃいますわ」
マーガレット王女の片眉が少し上がる。魔法使いコースの学生は変人のイメージがあるからだ。
「パリス様、ブライスがその中ではまだまともですわ」
まぁ、ベンジャミンは文官コースと古典に手こずっているみたいだし、機嫌が悪そうだ。それに、人の世話をするより、世話をされる立場に慣れている感じだよね。
アンドリューは、無いな。そんな面倒くさい人を他国の王子の世話係に推薦したら国際問題になりそうだよ。マーガレット王女の人選はなかなか良いんじゃないかな?
「ブライスですか? どの学生か分からないな?」
うっ、そりゃ、ベンジャミンほど印象は強くないよね。でも、ブライスはスッと人の手助けをしてくれる良い人なんだよ!
「私もブライス様が良いと思いますわ。とても親切な方ですから」
ブライスには迷惑かもしれないけど、不機嫌なベンジャミンや傍迷惑なアンドリューは無理だからお願いしておこう!
「ペイシェンスは、ブライスと仲が良いのですか?」
不思議そうな顔をして尋ねられた。
「ええ、ブライス様にはいつも優しくて助けて頂いています」
カザリア帝国の遺跡調査でも、フィリップスとブライスには助けられたよ。
「ああ、ブライスも錬金術クラブのメンバーなのですね!」
パリス王子は、錬金術クラブに興味があるみたいだけど、ちょっと困るな。あそこは、自由にわちゃわちゃできる場所なんだ。
パーシバルが話題を変えてくれて、ホッとしたよ。
「今日の放課後は、リュミエラ様のコーラスクラブの見学ですね。パリス様は今日から音楽クラブに入られるのですか? 私は学生会から呼び出されているのでご一緒できませんが、ペイシェンス様に頼んでおきます」
そうか、パーシバルはルイーズとの件は知らないんだね。まぁ、マーガレット王女とリュミエラ王女の付き添いだから、後ろに控えておこう。
「まぁ、もしかしてパーシバルは次期学生会長なのかしら?」
マーガレット王女のはしゃいだ声に、パーシバルが沈んだ声で「そうでなければ良いのですが」と答えた。
「パーシバルは優れているし、学生会長に相応しいと思うのだが? 嫌そうに聞こえる」
パリス王子に質問されて、パーシバルは肩を竦める。
「騎士クラブを辞めないといけないのが嫌なのです」
なるほどね! とマーガレット王女が頷く。
「パーシバルは今年の騎士クラブの試合で優勝していましたものね。学生会に入るとクラブは辞めないといけないの?」
パーシバルが「ええ、それが規則です」と簡単に答えた。この話題はやめたいみたい。
「マーガレット様、リュミエラ様は素敵な生地を選べましたか?」
二人はそれぞれが選んだ生地の話になった。どんなデザインにするかも夢中で話し合っているけど、難しいのは無理だと思うよ。
「ペイシェンス様、ありがとう」
パーシバルにそっと囁かれて、私は頬が赤くならないようにするのに必死だった。ああ、朝食から刺激が強いよ!
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