第6話 パーシバルはやっぱり目立つよ
ホームルームの後は各自の履修したクラスに移動するのだけど、マーガレット王女とリュミエラ王女とパリス王子はこの教室で必須科目の古典だ。
担任のケプナー先生がいなくなった途端、リュミエラ王女とパリス王子に学生達が集まった。
「リュミエラ王女様は、どのコースを選択されるのですか?」
そんな質問ではなく、本心はリチャード王子と婚約したのかが聞きたいのは透けて見える。
「パリス王子は、どのコースを選択されるのですか?」
こちらに集まった女学生の目はハートだ。そりゃ、絵に描いたような王子様だからね。
なんて、少し離れた場所で見ていたけど、私の周りにも男子学生が集まっている。
「ペイシェンス嬢、ノースコートではお世話になりました! 今週末はお待ちしております」
フィリップスは相変わらず嬢呼びだ。
「フィリップスだけ招待するだなんて、ペイシェンスは冷たい。カザリア帝国の遺跡調査に私も参加したかったよ」
ラッセルは冗談めかして笑っていたけど、アンドリューはぷんぷん怒っている。
「ベンジャミンとブライスを招待したのに、何故、魔法使いコースを選択している中で、私だけ除け者なのですか?」
ああ、面倒くさいね。それにノースコートは私の屋敷じゃ無いもの。
「それは、お前は錬金術クラブでは無いからだ! 魔法クラブのお前を呼ぶ必要はないだろ!」
ベンジャミンが私の代わりに答えてくれたよ。
「まぁ、フィリップスは元々ペイシェンスと仲が良かったし、歴史に興味があるから招待したのだろう。アンドリューは、初等科から歴史は苦手だと思っていたけどな」
ブライスって、男子学生には厳しいな。
「さぁ、ペイシェンス嬢、秋学期は国際法も履修するのですよね!」
サッと腕を差し出してくれたフィリップスにエスコートされて、国際法の教室へ向かう。
「ラッセルも国際法1を取るのか? 春学期に取っていたと思ったが……」
フィリップスは、ほぼ私と同じ文官コースの授業だけど、ラッセルは所々違う授業だった。
「言うなよ! 不合格だったのだ! ハンプトン先生は厳しいぞ!」
えええ、ラッセルは活発なタイプだけど、とても優秀だ。そのラッセルが不合格?
「ははは……どうせ、先生の説に真っ向から反対するレポートを書いたのだろう?」
ラッセルは肩を竦めているけど、少し不安になったよ。
「春学期は体育も不合格だったし、親に説教されるし最悪だ! まぁ、カスバート先生は辞められたから、他の先生なら修了証書を貰えるかもな!」
乗馬クラブのラッセルは、騎士クラブの顧問だったカスバート先生に低い評価をつけられていたからね。これで、音楽クラブと乗馬クラブ掛け持ちのサミュエル達四人組も合格を貰えるかも。
そんな話をしながら国際法の教室へ入ったら、パーシバルが座っていた。
「やはり、パーシバル様は文官コースを取られるのだな」
いつもは誰にも様つけをしないラッセルなのに、パーシバルは尊敬しているのかな?
「ペイシェンス様、一緒の授業ですね。宜しくお願いしておきます」
私は、フィリップスとラッセルをパーシバルに紹介する。
「秋学期から文官コースを取りますから、後輩になりますね。宜しくお願いします」
こんな後輩は持ちたく無いよ。どう見ても、余裕が感じられるんだ。
「ペイシェンス嬢とパーシバル様は親しそうに見えますが……」
フィリップスがこっそりと尋ねてきた。
「ええ、パーシバル様とは親戚ですから」と答えていると、厳しいと評判のハンプトン先生が教室に入ってきた。白髪とピンと尖った白髭で気難しそうな顔をしている。
「ここは国際法1のクラスです。私はマーシー・ハンプトン。そこにいるラッセル君は知っていると思うが、法律は守る為に存在します。抜け穴を見つける事にばかり熱意を持たないように!」
ラッセルは、にやにや笑っているけど、ハンプトン先生は融通が利かないタイプみたいだ。気をつけよう!
「ハンプトン先生、法律に抜け穴があるのは問題ではないでしょうか?」
えええ、パーシバルときたら初日からそんな事を言っていると不合格になるよ!
「うん? 見知らぬ学生だな?」
この学園でパーシバルを知らない人がいるとは驚いたよ。
「騎士コースから転科したパーシバル・モランです。抜け穴を悪用されない様にしなくてはいけないとは思われませんか?」
ハンプトン先生の真っ白な髪が真っ赤になった顔に映えるね。ピンと尖った白髭がプルプル震えている。なんて、他のことを考えて、逃げ出したくなるのを必死で堪えていたけど……「ガハハハハ……」と爆笑しだした。
「モラン外務大臣の息子か! よし、秋学期の中間レポートは国際法の穴と対策だ! そこの小生意気で中途半端なレポートを書いたラッセル君、今度はちゃんとした対策も考えて書きなさい。さもないとまた不合格だぞ」
どうなることかとヒヤヒヤしたけど、教科書を配布した後の授業内容の説明は、事例を挙げながら具体的で面白かった。
「ここ十数年はローレンス王国は幸いな事に戦争は起こっていないが、対策を怠ってはいけない。特に、王立学園で学ぶ学生は、国民を護る意識を常に持ち続ける義務がある。それは、騎士として戦うだけでなく、文官として戦争を回避する手段を考えたり、自国の民の利益を護る事も重要なのだ。だから、国際法の穴にばかり注目していないで、それに対処する方法を考えなさい」
確かに、王立学園は税金で運用されているし、貴族は全員が学ぶ事を義務づけられている。それについて、ちょっと考えさせられたよ。
前世は平和な日本で庶民だったから、国民を護る立場の貴族だって事をあまり真剣に受け止めていなかったんだ。
「では、ハンプトン先生も今の国際法は穴が多いと認められるのですね!」
ああ、ラッセル! また不合格になるよ!
「今の国際法が制定された歴史をラッセル君は今度の授業までにレポートを書いて提出しなさい。さぁ、これから国際法1のテストを受けて、国際法2に進むか、修了証書が欲しい者だけ残りなさい。他の学生は、自由にして良い」
私は春学期に国際法は取っていなかったし、ハンプトン先生の授業は楽しそうだから、テストは受けないで教室を出て行く。フィリップスとパーシバルとラッセルも一緒に出る。
「ラッセル様は、テストを受けたら国際法2に進めるのではないですか?」
春学期、不合格だったのはテストの点が悪かったからだとは思えない。生意気なレポートで落とされたんじゃない?
「いや、ここで逃げる訳にはいかない。それに、国際法ができた歴史については、不勉強だったのも確かだからな」
負けず嫌いだね。
「ラッセル君でしたね。私も、そこら辺の事情は詳しく無いのです。3時間目は空いているのですが、一緒に図書館で調べませんか?」
パーシバルも負けず嫌いだ。それと、騎士だけでなく文官としてローレンス王国を護ると聞いて燃えたのかも?
二人が図書館で調べる約束をしているのを、フィリップスが羨ましそうに見ている。
「フィリップス様も一緒に調べられたら良いのに」と提案したけど「その時間は護身術なのです」とがっくり肩を落としている。
「また一緒に勉強する機会もありますよ」
一応、慰めておくよ。次の時間は経営2だ。
「私は経営と経済学をなんとか合格して、一緒に学びたいと思っています」
そう言うと、パーシバルは教室に入らずに立ち去ったけど、女学生は私以外いないのに、視線が跡を追っている。後ろ姿も凛としてて格好良いんだよね!
「はぁ、なんだか男として全て負けている感じがするなぁ」
ラッセルが大きな溜息をついた。そうか、男子から見てもパーシバルは素敵なんだね。
「まぁ、パーシバル様は特別だから仕方ないさ!
それより乗馬クラブにオーディン王子が入られるとか聞いたが、本当か?」
そこからは、留学している他国の王族の話になった。他の男子学生もリュミエラ王女の美貌にメロメロみたい。勿論、マーガレット王女の美しさも褒め称えている学生も多いよ。
「パリス王子は、すこしパーシバル様に似た雰囲気があるな」
ラッセルの言葉で、パーシバルの事もあれこれ話題になったよ。青葉祭の騎士クラブの試合の優勝者なのに、文官コースに転入したんだから大騒ぎだよ。
やはり、パーシバルは何処にいても目立つね!
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