第12話 生活魔法って教えられるの?

 ラシーヌからアンジェラに生活魔法を教えてくれと言われたけど、頭の中には疑問がいっぱいだ。

「ラシーヌ様、アンジェラは生活魔法を賜っているのですか?」

 私も魔法がある異世界に来て1年と半年暮らしている。その間、成長期と共に魔力も拡大していて、その人が何の魔法を賜っているのか大まかにだけど感じ取れるようになった。アンジェラからは風の魔法が感じられるのだけど?

「アンジェラは風の魔法を賜りましたが、ほんの少しだけですが生活魔法も反応したのです」

 教会の能力判定のお盆みたいなので、風の石が光り、おまけに生活魔法も反応があったって事なのかな? 私は生活魔法の石しか光らなかったけど、そういえばベンジャミンは火の魔法だけど、少し土も使えるとか言っていたね。メインとサブって感じなのだろうかな? 

「生活魔法はどのくらい使えるのですか?」

 ラシーヌは首を横に振った。

「風の魔法の使い方は父親から習っていますが、生活魔法は誰も教えていないのです。寮で生活するなら必要だと思って、ペイシェンス様にお願いしているのです」

 ラシーヌも生活魔法では無いみたい。私の変な生活魔法で大丈夫なのかな?

「確かに寮で生活するなら生活魔法が使えた方が便利ですわ。教えるのは初めてなので上手くいくかは分かりませんが、やってみます」

 どうやらこれで乗馬教師派遣のお礼はできそうだから引き受けよう。それにアンジェラは可愛い従姪だからね。

「まぁ、それならアンジェラをここにお泊りさせたらどうかしら。午前中は勉強をしていますし、昼からは魔法の練習をしたり、乗馬や海水浴、そして男の子達が剣術訓練している間はペイシェンスに刺繍も習えば良いわ」

 リリアナ伯母様の言葉で応接室の隅に置いてある刺繍台にラシーヌの目が行く。

「まぁ、これはカザリア帝国の遺跡を刺繍しているの? 素敵な絵画刺繍になりそうね。私も教えて頂きたいぐらいだわ。王立学園に通っている時に刺繍も習ったけど、こんな難しいのはしなかったのよ」

 ラシーヌの頃の家政コースは社交界デビューする令嬢の為にかなり簡単になっていたんだろうね。刺繍は実技だから関係無さそうだけど、裁縫だって履修内容が変わって6着もドレスを縫わなくてはいけなくなったぐらいだもん。

「家政コースも今年からかなり難しくなっているのです」

 これから入学するアンジェラの親としては心配になるよね。

「まぁ、そうなのね。アンジェラを寮に入れたら、宿題を家庭教師に見てもらう事もできませんわ。やはり、予習をもっとさせておかなくては」

 乗馬訓練だけでも大変そうなのに可哀想だけど、ナシウスやヘンリーもかなり勉強しているから反対はできない。他の家でもさせているかもしれないものね。

「ペイシェンスは勉強を教えるのがとても上手なのよ」

 リリアナ伯母様、私は弟達に勉強を教えるのは好きだし、サミュエルに教えるのも嫌では無いけど、その話を広げないで欲しいな。私は生活魔法の使い方を一度か二度教えるぐらいの気持ちで引き受けたんだよ。勉強までは困るんだけど……だって弟達といっぱい遊びたいんだもの。

「まぁ、その通りですわ。ペイシェンス様は1年で初等科を飛び級した優等生ですもの」

 いや、勉強を教えるなんて言ってないんだけど。NOと言える女になるを今年の目標にするべきだったな。そうなんです。アンジェラの勉強も見る事になったんですよ。やれやれ

 毎日、サティスフォードから通うのは大変なので、週に3日ほどお泊まりしては、帰る事になった。

「アンジェラ、家族と離れて寂しくないかしら?」

 おっとりしたアンジェラが親戚の家に滞在するのは寂しいのではないかと心配になる。

「いいえ、侍女のミアがいますから。それにペイシェンス様と一緒の方が楽しいです。弟達は未だ幼いので」

 あのしっかりした侍女はミアというらしい。なんか可愛い名前だ。10歳になるまで、母親のラシーヌより一緒にいた時間は長いみたい。それにしてもアンジェラは、幼い弟達と離れるのは平気なんだね。私には理解不能だよ。

「これから一緒に勉強したり、遊んだりするのだからペイシェンスと呼び捨てで良いのよ」

 気楽にして欲しいと思って提案したのだけど、アンジェラは首を横に振る。

「いいえ、ペイシェンス様はマーガレット王女の側仕えとして立派に勤めておられますもの。それに学園に通い出したら、先輩ですから」

 まぁ、先輩を呼び捨てするのは拙いかもしれないね。この件は置いておこう。

「アンジェラは、風の魔法はお父様から習ったと聞きましたが、生活魔法は未だ習っていないのですね」

「ええ」と言いにくそうに答える。生活魔法はあまり評価が高くないし、私がそれしか使えないのを知っているのだろう。

「寮には侍女は連れていけません。掃除は下女がしてくれますが、自分で自分の事ができた方が快適に暮らせますよ。その為にラシーヌ様は生活魔法を習うようにと言われたのでしょう」

 アンジェラはこれまでミアに世話をされて育ってきたので、不自由な経験などは無いのかも。乗馬訓練を強要されるのが一番大変な経験なのかもしれない。そんなお嬢様に生活魔法を教えられるのかな?

「生活魔法の一番簡単なのは清潔です。これを覚えたら、とても便利ですよ」

 魔法実技でジェファーソン先生が皆にさせたのはこれだったから、私も真似をしてみる。

「先ずは私がやってみるから、見ていてね」

 そう言えば、私は魔法を教えて貰っていない。教会であのお盆に触った時のピリピリした感じを再現するようにして魔力を使っただけだ。これで良いのか分からないけど、見せてみるしか思いつかない。

「綺麗になれ!」

 自分に清潔の魔法を掛ける。毎日お風呂に入っているし、着替えているから汚くは無いけど、スッキリしたよ。

「ええっと、分かったかしら? アンジェラ、一度やってみて。スッキリすると思うの」

 アンジェラは少し考えて頷く。

「綺麗になれ!」

 あっ、微妙な効きだけどちゃんと生活魔法を使えている。

「できたわね。後はもう少しどう綺麗にするのかを考えて使えば良いわ。例えば、朝起きて髪に寝癖が付いている時に『綺麗になれ!』と唱える場合と、海水浴で服が潮っぽい時に『綺麗になれ!』は違うでしょ」

 アンジェラは「そうですね」と頷く。

「後は練習あるのみだわ」

 私は家にメイドがメアリーしかいなかったから、掃除しまくったし、壁紙とかも古びていたから変な生活魔法も使っちゃったんだよね。その時は異世界に来たばかりで、生活魔法で新品にするのが変だと知らなかったんだ。無知って怖いね!

 アンジェラはラシーヌと一旦は帰る事になったので、今日の生活魔法の授業は簡単に終わった。でも、これで良いのかよく分からないよ。

「ナシウスはお父様に風の魔法を習っているのよね。どんな風に教えて貰っているの?」

 アンジェラとラシーヌを見送って、屋敷に入る途中のナシウスを捕まえて質問した。

「何故、そんな事を尋ねられるのですか?」

 まぁ、今更だよね。泥縄だ。

「アンジェラに生活魔法を教える事になったのですが、上手く教えられるかわからなくて」

 ナシウスが灰色の目を見開いた。

「そうか、お姉様は誰にも習わずに生活魔法を使うようになられたのですね。だから、教え方が分からないと言われたのですか」

 それからナシウスに父親の教え方を話して貰った。

「そうですか、やはり魔法の使い方を見せて貰って、それを実際にやってみる遣り方で良いのですね」

 今日、アンジェラにやった遣り方で間違いじゃなかったんだ。ホッとしたよ。

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