第2話 南にあるのにノースコート?

 朝早く起きて、簡単に朝食を済ませると、ノースコート伯爵家の馬車が迎えにきた。父親に「行ってまいります」と挨拶をして馬車に乗り込む。

「お姉様、このクッションもお姉様が作られたのですよね」

 そう、リリアナ伯母様にもスライムクッションをあげたんだよ。そうしたら、控えの馬車にもクッションを買ってくれたみたい。これでお尻が痛くならなくて良いね。

「ええ、そうなの。ヘンリー、ちゃんと座らないと危ないわよ」

 家から出るの教会以外は初めてだもんね。外に興味あるのは分かるけど、座らないと危険だよ。

「あっ、お店だ!」

「ヘンリー、店も開いてない。だから、ちゃんと座りなさい」

 ナシウスも注意したので、ヘンリーも座った。

 ロマノの南門でノースコート伯爵家の馬車と合流する。彼方は馬車3台だ。使用人達の馬車もある。それと馬に乗った護衛らしき人が数人いる。やはり、異世界で旅は危険なんだね。

「伯母様、ご機嫌よう」

 馬車から降りて挨拶する。ナシウスとヘンリーも挨拶するよ。

「母上、彼方の馬車に乗って良いですか?」

 サミュエルは、ナシウスとヘンリーと一緒に乗りたいみたい。母親と一緒では面白くないもんね。

「では、ペイシェンスはこちらの馬車にいらっしゃい」

 ええっ、それは肩が凝りそうだよ。それに弟達が初めて王都の外へ行くのを一緒に体験したいじゃん。

「私が召使い達の馬車に移動しましょう」

 メアリー、良いの? 目で確かめるけど、何回かノースコート伯爵家には行ったので、召使いの知り合いも多いみたいだ。

 召使いの馬車にメアリーが乗ったので、サミュエルは私達の馬車に乗り込んだ。

「良かった! 母上と父上と侍女と一緒に領地に行くなんて、凄く退屈だったんだ」

 まぁ、それは理解できるよ。それにナシウスとヘンリーも嬉しそうだから良いんだ。

「ねぇ、何故、王都ロマノの南にあるのにノースコートなの?」

 ヘンリーの質問だ。サミュエル、答えられるかな? ナシウスも首を傾げている。初等科の歴史はローレンス王国のだからね。これは世界史が関係しているんだ。

「ええ? 地名だから考えた事なかったよ」

 サミュエル、自分の領地なのにそれは駄目だよ。仕方ないな、正解を教えよう。

「それはカザリア帝国の首都から見ると北にあり、そこにコート、つまり行政府を置いたからよ。サミュエル、きっと遺跡があるはずよ。見た事ない?」

 サミュエルは「あっ、そういえばあるよ!」と叫んだ。

「見てみたいな!」

 ナシウスは歴史の本もよく読んでいるからね。研究熱心だね。フィリップスの歴史研究クラブも良さそうだ。廃部寸前だと愚痴っていたからナシウスに勧めておこうかな?

「そうだな、一緒に見に行こう!」

「私も連れて行って下さい」

 ヘンリーも興味を持ったようだ。夏休みを目いっぱい楽しみたいな。


 昼食の休憩は街道の途中の少し大きな町の宿屋でとった。初宿屋だけど、トイレは魔道具で清潔だったし、食事の味も良かった。まぁ、不潔で不味い宿屋でリリアナ伯母様が休憩なんかしないよね。かなりグレードは高いと思うんだけど、いくらなのかは分からなかった。

「サミュエル、そちらの馬車のままで良いのですか?」

 簡単な昼食を取った後も、少し休憩をする。馬も休まなくてはいけないみたい。

「ええ、ナシウスやヘンリーと楽しくしています」

 ここではヘンリーも同じテーブルにつかせて貰ったよ。1人だけ召使いと一緒なのは可哀想だから良かった。

「なら良いのですが、ペイシェンスは男の子達と一緒でも退屈ではありませんか?」

「いいえ、楽しんでいますわ」

 もしかしてリリアナ伯母様はノースコート伯爵と2人は退屈なのかもしれない。でも、私は弟達と離れたくないから無視しちゃう。ごめんね。

「お茶の時間までには着くと思いますわ」

 クッションがあるけど、やはりお尻は痛くなってきたので、後もう少しだと聞いてホッとする。街道は一応は石で舗装してはあるけど、やはりガタガタするからね。

「あっ、この匂いは……海なのかな?」

 微かな潮の香りにナシウスとヘンリーは興奮する。

「ああ、そろそろ海が見える筈だ」

 サミュエルは何回も領地と王都を往復した事があるから、知っていて当然だよね。

 ナシウスとヘンリーは馬車の窓から顔を出して見ている。

「あっ、あれが海なんだ!」

 ヘンリーは視力も強化しているのかな? 私もサミュエルも未だ見えないよ。

「あっ、見えた!」

 ナシウスにも見えたみたいだ。2人が嬉しそうに笑っている。良かった、ノースコート伯爵家の招待を受けて。

 弟達は海から目がはなせないようだけど、私とサミュエルはその2人を見ている方が楽しいよ。

「サミュエル、誘ってくださってありがとう」

 王都から出た事がない弟達には良い経験になる。

「いや、ペイシェンスには勉強を見て貰ったりしているから。それにナシウスとヘンリーが一緒の方が夏休みも楽しいし」

 遊び友達が一緒の方が楽しいのは本当だろうね。


 ノースコート領に入ると、小さな町や村が点在している。そして海が近づくにつれて港街が見え、小高い丘の上にはノースコート伯爵家らしき大きな館が建っていた。

「わぁ、あれがノースコート伯爵家の屋敷なの? お城みたいだね」

 ヘンリーが驚いているけど、確かにお城みたいだね。王都ロマノにある王宮とは違う、防衛拠点の意味合いを持つ館だ。

「ああ、やっと着いたな。あの崖の上に遺跡があるのだ」

 サミュエルに教えられた崖を見上げると、崩れてはいるが未だ防衛壁とかが一部残っているのが遠くからでも見えた。

「かなり大きな遺跡ね」

 私もカザリア帝国の遺跡は初めてなので、凄く興味がある。

「ああ、そう言えばそうだな。幼い頃からあったから、不思議に思わなかったよ」

 弟達は堀を渡る跳ね橋に目をまん丸にしている。私も中世ヨーロッパみたいだと興味深い。

「サミュエル、ノースコートは防衛拠点だったのね」

 今はローレンス王国はどの国とも戦争をしていないが、歴史で何度も戦争があったのは習った。ここは、南部のかなり大きな防衛拠点だったのだと分かる館の造りだ。

「父上はそうだと言っている。だから、私にも騎士コースを取って欲しいようだ」

 サミュエルは乗馬は上手いし、剣の稽古もよくやっているけど、騎士コースは向いて無さそうに感じる。でも、このノースコートを将来は継ぐんだよね。難しい問題だから、簡単に口は挟めない。

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