第三章 中等科1年の夏休み

第1話 夏休みの準備は大変だ

 夏休みをノースコート伯爵領で弟達と過ごす。そこまでは、ヘンリーの服とか縫わなきゃいけないなと思っていただけなのだけど、何だか話が大きくなった。

 マーガレット王女が夏の離宮に遊びにいらっしゃいと気軽に言われただけなのに、リリアナ伯母様やラシーヌと話し合わなくてはいけなくなったのだ。

 それと弟達の服を縫わなくてはいけないと思っていたが、私の服も去年のは小さくなっていた。成長したのは嬉しいけど、お直ししなくてはいけないのは困る。

「リリアナ伯母様の所はパスしたいわ。だって領地に行けば、いくらでも話せるのに……でも、きっと駄目でしょうね」

 キース王子との勉強会でも張り切っていたから、夏の離宮へサミュエルが遊びに行くのも大騒ぎしそうだね。海水浴用の古着とかあるかな? まぁ、領地は海の近くだから泳いだりしてそうだよね。

 そちらは簡単に済ませるとして、ラシーヌは寝耳に水かもしれないな。まぁ、ジェーン王女とアンジェラはあまり趣味が合いそうには思えないけど、一度ぐらいは顔を合わせたらラシーヌも諦めがつくかもしれない。本当はマーガレット王女の音楽クラブの方がアンジェラには向いていそうなんだよね。

 ここら辺の貴族の考えは私には理解不能だから、母親のラシーヌに任せるしか無いんだよね。ただ、私自身が乗馬が苦手だから、強要されているアンジェラが気の毒に感じるんだよ。音楽は楽譜を渡した時に嬉しそうに笑ったから好きだと知っているし、まぁ、ここは従姪に一肌脱いだつもりだけど、どうなるかは分からない。

 色々と準備は大変だけど、先ずは弟達と過ごそう!

「ナシウス、ヘンリー、裏の畑の作物を収穫するわよ」

 マシューと一緒に植えてあるキャベツやにんじん、芋類、豆類を収穫する。

 温室のトマトも収穫したし、さくらんぼも未だ黄色いのを後押ししておく。

「さくらんぼは明日辺りには採れそうね!」

「さくらんぼを食べた事無いので楽しみです」

 ナシウスとペイシェンスはかろうじて普通の貴族の生活を覚えているが、ヘンリーはもの心ついた時から貧乏暮らしだ。

「さくらんぼを採るの手伝って貰うわ」

 苺と違ってさくらんぼは木の上の部分は梯子に乗らないと手が届かない。来年からは枝を下に引っ張って育てなくてはいけないかも?

「任せて下さい!」

 うん、運動神経が良いとは言えないペイシェンスだから、梯子は危険だから身体強化持ちのヘンリーに任せるよ。


 午前中は弟達と過ごしたけど、リリアナ伯母様からお迎えの馬車が来た。メアリーを連れて屋敷に行く。親戚の家なんだし、メアリー必要なく無い? この侍女システム、本当に面倒だよね。メアリーときたら、屋敷でヘンリーのシャツを縫うつもりなのか荷物が多いよ。

「ペイシェンス、サミュエルからも聞いたけど、あまり要領を得なくて。夏の離宮に遊びに行くとか手紙に書いてあったけど……どういう事なのかしら?」

 そのまんまだけど、何が知りたいのかな?

「今年はゆっくりと夏休みを過ごしなさいと王妃様が仰って、夏の離宮には同行しない事になったのです。でも、マーガレット王女が活発なジェーン王女と一緒なのは大変だから、弟達やサミュエルやアンジェラを連れて遊びにいらっしゃいと言われたのです。1回か2回、夏の離宮に遊びに行くだけですわ」

 伯母様は「本当に夏の離宮に行くのね!」と興奮している。

「ええ、でも子ども達がジェーン王女と遊びに行くだけですから。きっと乗馬したり、海水浴をするだけですわ」

 要するにジェーン王女の遊び相手だ。マーガレット王女は泳げるし、乗馬もできるが、さほど好きでは無い。だから、その相手を呼んで、その間は音楽に浸るつもりだなんて言えないけどね。姉妹なのに性格が違うね。マーカス王子もキース王子と違っておっとりしているし、個性豊かだよ。

「では、夏の離宮で着替える必要があるかもしれないのね。気の利いた従僕を付き添わせなくては」

 男の子にも従僕が必要なの? まぁ、それはリリアナ伯母様に任せよう。サミュエルも着替えるぐらいは自分でできそうだけどね。

「アンジェラを推してくれたのはペイシェンスね。ありがとう。アマリアお姉様が喜ばれるわ」

 私的には乗馬教師のお礼と、ジェーン王女とは合わないと諦めて欲しいからなんだけどね。それは口にしないよ。

「ナシウスは男の子だし、ジェーン王女の遊び相手にはなりませんから」

 きっとサミュエルとナシウスとヘンリーは、キース王子の遊び相手になるね。キース王子は意外と面倒見が良いから、それは心配していないんだ。私はできたらマーガレット王女と音楽が良いな。

「領地には1週間後に出発なの。その日の朝早く発つから、馬車を回します」

 良かった。馬車をどうするか悩んでいたんだ。サミュエルが夏の離宮に呼ばれてご機嫌なリリアナ伯母様は、思ったより短時間で解放してくれた。あれこれ準備に忙しいのだろう。

 何だか連絡してあったようで、ノースコート伯爵家からサティスフォード子爵家へと向かう。

「ペイシェンス、本当にアンジェラを夏の離宮へ連れて行ってくれるの?」

 わぁ、ラシーヌはテンションMAXだよ。

「ええ、でもジェーン王女の遊び相手としてだから、1回か2回ですわ」

 ちょっとだけ冷静になって貰わないと、学友に選ばれなかった時にショックが大きそうだ。

「それでも凄いわ!」

 駄目だ! 他の令嬢より一歩進んだと興奮している。

「一度、アンジェラも王宮に呼ばれて、ジェーン王女とお会いしたのです。来年は王立学園ですから、何人かずつ顔合わせをされているの」

 ああ、そうやって学友を決めるんだね。マーガレット王女は、そこでキャサリン達を選んだんだ。今回もジェーン王女が自分で決めるのかな?

「そうなのですね」と穏便な答えをしておく。

 あっ、聞いておかなきゃいけないんだ。

「アンジェラ様は10歳になっているのでしょうか?」

 これ、異世界では大事なんだよね。

「ええ、あの子は春生まれですから、問題はありませんわ」

 10歳になってなかったら、子守にマーカス王子と一緒に面倒を見て貰うことになる。うちのヘンリーはこちら組だ。

「離宮では乗馬や水泳で遊ぶと思います。なので、古い服を持って行ったほうが良いかもしれません」

 こちらは侍女も付いて来るんだろうね。言わなくても分かるよ。

 ラシーヌも準備に忙しいのか、短時間で家に帰してくれた。やれやれ!

 それからは裏庭に新しい作物を植えたり、温室にも植えたり、学園から切ってきた薔薇を育てたり、さくらんぼを採ったりもしたけど、殆どの時間はメアリーと縫い物だ。もう一人、下女が欲しいよ。

 メアリーはノースコート領について来るし、今回は弟達も一緒だから何とかはなるだろうけど、エバに負担がかかるんじゃ無いかな? マシューはエバの甥だから手伝ったりしてくれるだろうけど、やはりもう1人欲しいなんて事を考えながら服を縫う。

「ヘンリーとナシウスの服はこれで十分だわ。後はメアリー、貴女の服も新しいのが必要よ」

 とんでもないと断るけど、ワイヤットに布は買って貰っている。下着用の白い生地もたっぷりね。夏用の生地でメアリーの服を縫う。急いでいるから生活魔法を使うよ。ちゃちゃちゃと縫うけど、縫い目は揃っているし早い。ただ、生活魔法でも糸を変えたりしなくてはいけないんだよ。ミシンが有れば早いのにね。ついでにエバのも縫ったよ。男の人のは後回しになっちゃったね。ごめんね!

 後は、荷物作りだ。私のも去年のドレスをサイズなおしたよ。うん、私もかなり背が高くなっているんだけど、ナシウスに追い抜かれそうなんだよ。ナシウスときたら、まるで筍みたいに寝て起きたら背が伸びているんだよ。私はボチボチしか成長していない。メアリーに聞いたけど、母親の背も低かったみたい。その上、スレンダーだったようだ。残念だね。憧れのボンキュッボンは諦めよう。

 服の他に勉強道具や刺繍の道具も持って行くよ。夏休み中に絵画刺繍を仕上げたいからね。

 弟達は剣や防具も衣装櫃に入れていた。サミュエルと剣の稽古をするみたいだ。勉強道具も持って行かせるよ。私は秋学期には地理と世界史は終了証書を貰うつもりだから一緒に勉強するつもりだ。来年の春学期までに多くの授業を終えておきたいからね。どのくらい社交界で時間が潰れるか分からないけど、錬金術でやりたい事が多いし、放課後が使えないなら授業免除を利用するしかない。

「荷物が多くなり過ぎたかしら?」

 衣装櫃が3個、それに勉強や刺繍の道具を入れた木箱。

「馬車の荷台に乗せるから大丈夫ですよ。それより、朝が早いので寝て下さい」

 夏の離宮より少し遠いから、前よりも朝早いんだよね。それと途中の休憩も貴族の館では無くて、宿屋でするみたい。私は異世界の宿屋は初めてなので楽しみなんだ。

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