第74話 中等科1年春学期の成績発表
次の日のホームルーム、相変わらずカスバート先生はやる気無し。男子学生で乗馬クラブのラッセルとかは体育で苦労しているみたい。連絡事項もプリントを配ってお終いだ。担任変えて欲しいよ。
「成績発表を見に行きましょう」
マーガレット王女に誘われたけど、クラスの全員が成績発表を見に行くよ。もうAクラスを落ちる心配をしている学生はいないけど、単位制だから秋学期の時間割とか考えなきゃいけないからね。
相変わらず個人情報は守られていない。私は薬草学1、2、3の結果を先にチェックする。やったぁ! 合格だ。つまり下級薬師の試験を受けられるね!
「ペイシェンス、薬草学と行政と法律の終了証書を取ったのね」
マーガレット王女も好成績だ。
「マーガレット様も美術と国語と魔法学と育児学の終了証書、おめでとうございます」
育児学の終了証書は多くの学生が取っていた。これは社交界デビューする令嬢が単位を取りやすくする科目だね。
「秋学期には古典と歴史とマナー3と魔法実技の終了証書を取るつもりよ」
マナー3は簡単に取れるだろう。魔法実技の制御はあと少しだから大丈夫じゃ無いかな?
「マーガレット様、凄く頑張っておられますね」
古典も歴史も好成績だ。家政数学はまぁまぁだね。
「ペイシェンスこそ、ほぼ満点じゃないの? あら、外交学1は合格ね。まぁ、経営学1も経済学1も地理1も合格じゃない」
あっ、本当だ。秋学期から外交学2、経営学2、経済学2、地理2を取らなきゃね。
「ペイシェンスも合格を貰ったのだな」
ラッセルに話しかけられて、掲示板を見直すと、ラッセルとフィリップスも同じ科目が合格だった。
「ペイシェンス嬢、世界史は終了証書用のテストを受けないと終了証書は貰えないみたいですよ。私は世界史はゆっくりと学びたいので受けませんけどね」
遺跡巡りが趣味のフィリップスは歴史ラブだからね。なんて話していたら、女学生のピンク色の視線を引き連れてパーシバルがやってきた。
「ペイシェンス様、素晴らしい成績ですね。一緒の授業が受けられないのは寂しいですが、追いついてみますよ」
わぁ、女学生の視線が痛い。マーガレット王女が嬉しそうに目で笑っている。自分の恋愛は諦めているのに恋バナ大好きだからだ。
「パーシバル様、本当に文官コースを取られるのですね」
パーシバルは騎士クラブの試合で優勝するぐらいなのに勿体ない気がする。
「ええ、一緒に外交官を目指しましょう。そう言えば、夏休みはノースコート領で過ごされると聞きました。私も隣のモラン領で過ごしますからお会いできますね」
きゃー、視線で殺されるなら死んでるね。バンバン突き刺さるよ。
「ええ、パーシバル様とは
親戚アピールしておくよ。何となく圧が減ったよ。親戚だからチビに声を掛けたんだと納得したみたいだ。やれやれ
パーシバルは去る時も格好良いね。後ろ姿を女学生の視線が追いかけているよ。
「ペイシェンスはパーシバル様と親戚なのか?」
ラッセルに聞かれたよ。珍しく様付けだ。
「ええ、再従兄弟になります」と簡単に答えておく。
「あの人は自分から女学生に声を掛けたりされないから驚いたよ」
まぁ、パーシバルなら自分から声を掛けなくても寄って来そうだよね。
マーガレット王女に断って、初等科の成績発表の方に移動する。
「サミュエルの成績は……良かった! 国語と魔法学と美術とダンスと魔法実技は合格ね! 後は古典と歴史と数学だけど、まぁまぁだわ」
上の下あたりの成績を取っている。これならAクラスを落ちることは無いと安心していたら、キース王子に捕まった。
「ペイシェンス、見たか? 古典と歴史を合格して、秋学期からは3年生なのだ」
サミュエルの成績が心配で初等科の成績掲示板の前に来ていたけど、キース王子の成績は見てなかった。
「おめでとうございます」とお祝いを言っておく。古典の合格は本当に良かった。土曜を2回も潰したんだからね。
うん、ラルフは実力発揮の成績だし、ヒューゴも頑張っている。キース王子が3年になるならとクラス全体が頑張った様だね。何人かは一緒に3年になるんだろうな。なんて呑気な事を考えていた私はルイーズの事を忘れていた。
「ペイシェンス様は外交官になられるのですか? 外国で病気になられなければ良いですけど」
真正面から負の感情をルイーズにぶつけられたよ。呪詛に近い言霊だ。光の魔法を賜った筈なのに闇の魔法の間違えじゃ無いかなってくらいの悪感情だ。
「まぁ、ご親切にありがとうございます。身体だけは頑丈にできていますから、ご心配頂かなくても結構です」
負の感情なんか、跳ね返しておく。キース王子の前だからルイーズはそれ以上の反撃はしないで引いた。やれやれだ。肩や身体をぱんぱんと叩いて言霊の穢れを落としておく。
「なんだあの無礼な言い方は!」
キース王子が怒っている。人目の多い所で困ったな。
「あっ、マーガレット様から夏の離宮にサミュエルと弟達を連れて遊びにいらっしゃいと誘われたのですが、宜しいのでしょうか?」
話を逸らしたら、キース王子は食いついた。
「おっ、サミュエルと一緒か! それは良いな。今年はリチャード兄上がいらっしゃらないから、マーカスしか遊び相手がいないのだ」
良かったご機嫌が治ったよ。ラルフとヒューゴもホッとしている。相変わらず学友は大変だね。
「ペイシェンス、美術と家政コースの展示を見に行くわよ」
マーガレット王女に誘われて、美術や裁縫や刺繍や織物などの展示を見に行く。マーガレット王女の絵にはブルーのリボンが付いていた。
「とても素敵な絵ですわ」
お世辞で無くて言える絵だった。まぁ、そうじゃ無いと終了証書は出ないんだよね。
「ええ、頑張ったもの。さて、刺繍はあちらね」
マーガレット王女の刺繍は丁寧に刺されてブルーのリボンが付いている。
「これなら刺繍は秋学期には刺繍2も合格できそうですね」
私のは絵画刺繍だ。勿論、ブルーのリボンもついているよ。人が前に集まっている。
「ペイシェンス、これは素晴らしいわ」
褒めて貰えたよ。うん、とっても大変だったんだ。今しているサティスフォード領の海の絵画刺繍を夏休み中に仕上げたいな。
あっ、カリグラフィー、私のにブルーのリボンが付いている。
「裁縫の展示は見たくない気分よ」
一応は縫えていたけど、本来のデザインとはかけ離れていたからマーガレット王女としては不本意なのだろう。
「でも、シンプルなデザインでもマーガレット様は綺麗でしたよ」
これは本当だ。私は装飾が多いデザインよりシンプルな方が好みだもん。フリフリは趣味じゃないんだ。
「やはりペイシェンスのドレスは素敵だわ。今度、あんな風なドレスを作って貰いたいわ」
無地のドレスの中で水玉模様のドレスは確かに目立っているね。もう少し背が高ければ、もっと見栄えがするのだけど。
織物は初心者4人の作品全部にブルーのリボンが付いていた。
「まぁ、合格だわ!」
ハンナが驚いていた。私もだよ。
「これだけ織れたら合格ですよ。秋学期からは織物2を取りなさい。染色も2を取らないと柄物は織れないわよ」
ダービー先生が笑っている。嬉しい! 織物2の展示を見たら柄物になっている。難しそうだけど、楽しみだよ。
ここでマーガレット王女は音楽クラブに向かうというので、少し離れる。私は職員室にマキアス先生に呼び出されているからね。
「やっと来たかい。回復薬代や薬草代がいらないのかと思っていたよ」
相変わらずの口調だけど、机から茶色い封筒を出して渡してくれた。
「これだけだよ。明細は中に入れてあるよ。さっさと受け取りに署名しな。マーベリックの爺様に見せないとお金をくれないからね」
明細を見て驚いた。だって34ロームになっていたんだもん。
「こんなに貰って良いのですか?」
ケケケとマキアス先生は魔女の様に笑う。
「要らないなら返しておくれ」
私は慌てて署名したよ。弟達と分けて11ロームずつだ。お土産も買いたいけど、魔石を買っても良いな。
「お前さん、下級薬師の試験は受けなくて良いのかい?」
おっと、お金を貰って忘れていたよ。お金に弱いのは私の欠点だね。
「受けたいです!」
私の勢いにマキアス先生は苦笑して、紙を一枚ペラッと渡した。
「下級薬師の試験は年に2回あるよ。まぁ、お前さんなら落ちはしないさ」
夏休み前と冬休み前に試験はある。今から間に合うかな?
「夏休み前の試験に申し込みは間に合いますか?」
ケケケと笑われた。
「間に合うけど、試験代を貰うよ。1ロームだ」
手を出されたので、貰ったお金の中から1ローム銀貨を渡す。
「お前さん、小遣いは貰ってないのかい?
明日は10時から試験だよ。実技と紙の試験があるから復習しておきな」
明日はメアリーに迎えに来てもらう予定だった。
「何時ごろに終わりますか? 家からの迎えが来るのです」
一瞬、意味が分からなかったようだ。
「ああ、お前さんは寮生なのか。
なら、昼前に迎えに来て貰えば良いね。さて、サミュエルを捕まえて伝言を頼もう。
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