第73話 夏休みの計画

 日曜は午後から乗馬教師が来る。サミュエルも来たので、期末テストについて聞いてみる。大丈夫だとは思うけど、少し心配だったんだ。

「国語や魔法学は合格だと思う。古典、歴史、数学もまぁまぁできた。音楽は終了証書を貰ったし、魔法実技と美術とダンスは合格を貰った。体育も合格を貰った学生より良いと思うのだが、合格できなかった。多分、カスバート先生は乗馬クラブが嫌いなのだろう。クラスで1番運動神経が良いダニエルですら合格していない」

 大体は想像通りだけど、体育はねぇ。騎士クラブの顧問だったカスバート先生は、騒動で迷惑を被った乗馬クラブや魔法クラブを逆に恨んでいる様だ。あの先生は大問題だよ。なんて考えていたら、サミュエルから夏休みについて聞かれた。

「ペイシェンスは今年は夏の離宮に行かないのか?」

 何故、そんな事を聞くのかな? リリアナ伯母様に尋ねるように言われたのだろうか?

「今年は家で夏休みを過ごすつもりよ」と答えたら、パッと笑う。わっ、可愛いじゃん!

「なら、ナシウスとヘンリーも一緒にノースコート領に来ないか?」

 えっ、親戚の家に誘われたよ。家の畑仕事もしたいけど、弟達にロマノの外も見せてあげたい。悩むなぁ。

「でも、ヘンリーは7歳だから一緒に食事も出来ないし……」

 ナシウスは10歳だから良いけど、他所の家でヘンリーだけ別行動なのは可哀想だよ。

「私も10歳までロマノでは食事は別だったが、領地では夕食以外は一緒だった。ヘンリーも夕食の席にはつけないが、他は一緒で良いと母上も言われたのだ」

 なら家と同じだとも言える。ううん、どうしよう? なんて悩んでいたら、聞いていたのかヘンリーが自分で答える。

「お姉様、私は行きたいです!」

 目をキラキラさせているよ。お姉ちゃん、お願い攻撃に弱いの知っているな。

「お姉様、ヘンリーの面倒は私が見ますから、連れて行って下さい」

 ナシウス、初めから行くならヘンリーも一緒のつもりだよ。断るか、行くか悩んでいたんだ。夏休みは畑仕事や錬金術の研究をするつもりだったからね。

「お父様に相談してから返事をしますわ」

 こんな場合は便利な言葉だよねなんて、呑気にしていたら攻撃されたよ。

「ノースコート領には海もあるから、ナシウスやヘンリーに泳ぎ方を教えてやるよ」

 わっ、2人の目がキラキラしている。海を見たこと無いもんね。サミュエルも策士だ。私より弟達を堕とす方が簡単なの知っているんだ。

 あっ、ヘンリーが父親の篭っている書斎に向かって駆け出した。止めても無駄だよね。だって、私が弟達に海を見せてあげたいと思っているんだもの。

 父親も許可したので、今年の夏休みはノースコート伯爵領で過ごす事になった。なら乗馬なんかしている場合じゃないのに、サミュエルは許してくれない。温室や裏の畑の野菜を魔法で育てて、次の野菜を植えて出かけたいんだよ。

 まぁ、月曜に成績発表があったら夏休みだから、その後で良いか。あっ、ヘンリーの服も縫わなきゃいけない。ナシウスのは誕生日だから新しく縫ったけど、ヘンリーのは窮屈になっている。

 メアリーにノースコート領へ行く話をしたら、やはりヘンリーの服を縫わなくてはと慌てていた。末っ子はいつも後回しで可哀想だ。うん、前世では末っ子だったから姉のお古が回ってくるの嫌だったんだ。普段着は新しいのを買ってくれたけど、ピアノの発表会の服とかはお古だった。あっ、振袖もお古だったな。ヘンリーにもさらの服を縫ってあげよう!


 寮に着いたら、部屋の扉の下に薬草学のマキアス先生からの手紙が挟んであった。

「終業式の日に職員室にくるようにか……薬草のお金かな?」

 バーンズ商会のお金はワイヤットに受け取り拒否されているので貯めている。私とナシウスはロマノ大学の奨学金をご褒美として貰っているけど、ヘンリーは無いからそれにあてるつもりなんだ。王立学園を卒業して騎士団に入りたいと言うならそれで良いけど、ロマノ大学で学んでから入団したいと考えるかもしれないからね。

 だから薬草の代金は純粋なお小遣いにするつもりだ。ノースコート領に行くから弟達にもお小遣いを渡すよ。ペイシェンスもだけど、自分でお金を使った事がないからね。何かお土産を買うとか、良い機会だから弟達にも体験させたいんだ。

 そんな事を考えていたら、マーガレット王女が寮に来られた。ゾフィーに紅茶を淹れて貰って話すけど、お疲れの様だ。

「ペイシェンス、夏の離宮に来ない? 貴女から来たいと言えば、お母様も拒否はされないわ。女官は起こすのが下手なのよ」

 わぁ、かなり王妃様に絞られたのだな。朝、なかなか起きないのを厳しく叱られたようだ。

「申し訳ありません。今年の夏休みは親戚の家に弟達と行く事になったのです」

 マーガレット王女はがっかりした様子だけど、弟達との夏休みは楽しみなんだよね。サミュエルも乗馬をさせたがる以外は可愛いしね。

「その親戚って、もしかしてサミュエルなの? ノースコート伯爵領は夏の離宮の近くの筈よ」

 海があるとサミュエルも言っていたし、地図を思い出したら、夏の離宮の近くだよ。嫌な予感しかしないから答えたく無い。

「ええ、でも弟達も一緒ですから」

 やんわりとお断りしておく。マーガレット王女が微笑む。

「確か、上の弟はジェーンと同じ年で、下の弟はマーカスと同じ年だったわよね。お母様は私にジェーンのお手本になれと仰るけど、あのお転婆娘の世話なんかできないわ。弟達を連れて遊びにいらっしゃいよ」

 困った。ヘビに睨まれたカエルの気分だよ。でも、ジェーン王女は活発で本の虫のナシウスとは合わない気がするんだ。弟の為にも頑張るよ。あっ、良い事を思いついた。

「ナシウスは本の虫なのです。活発なジェーン王女の遊び相手には不向きですわ。従姪のアンジェラ・サティスフォードも同じ年で、乗馬訓練を熱心にしています」

 マーガレット王女は少し考えて頷く。

「そうね、では夏の離宮にサミュエルや弟達やアンジェラを連れて遊びにいらっしゃい。サミュエルとはキースも一緒に勉強したから喜ぶと思うわ。リチャード兄上がいらっしゃらないから、キースはジェーンとマーカスしか遊び相手がいないのよ。お母様に伝えておくわ」

 まぁ、これで馬術教師を派遣してくれているラシーヌには恩返しができた事になるかな? アンジェラは乗馬が好きでは無さそうだけど、音楽は好きだからマーガレット王女に引き合わせても良いと思っていたんだ。確か、サティスフォード領も夏の離宮の近くだった筈だよ。

 離宮に1回ぐらい遊びに行く程度だと思って、気楽に頷いた私は馬鹿だったよ。マーガレット王女の側仕えをして、王妃様に会うのにも慣れてしまっていた。大騒ぎになっちゃうのだけど、この時はそこまで考えが及んでいなかったんだよね。

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