第64話 青葉祭の準備は大変

 学園では桜の花を愛でている暇がない。音楽クラブと錬金術クラブの青葉祭の準備で大変だからだ。

「アルバートはグリークラブに関わり過ぎているわ」

 初めはグリークラブの発表を楽しみにしていたマーガレット王女ですら、文句を言いたくなる程の入れ上げようだ。たぶん、コーラスクラブが学生会に苦情を言ったのがアルバート部長には許せないのだろう。

 音楽クラブも新曲発表会をしなくてはいけないのだ。特に新入生の新曲チェックとか、もっと自分のクラブにも気を使って欲しいよ。私は、サミュエルや他の3人の新曲を聴いた。なかなか良い感じだけど、もう少しパンチが足りない気がする。そこをアルバート部長に指摘して欲しいんだ。

 学生会での講堂使用のタイムスケジュール決めは難航したようだ。結局、午前中1時間半、グリークラブ。午後2時間、演劇クラブ。

 そして音楽クラブは午前中に40分が1回、午後からは2回。なので、コーラスクラブは午前中2回、午後は1回だ。これは年毎に交代制みたい。

 グリークラブだけ少ないのは実績が無いクラブだからだが、ここまで決まるまでに大変だった。

「今年から投票制になる。学生には1枚ずつ、保護者には見学に来ると予約された方にも1枚投票券が配られる。その獲得数は来年の発表時間に反映されるのだ!」

 その上、こんな企画を新たにする事にしたのは、絶対にルーファス学生会長では無さそうだ。アルバート部長とマークス部長辺りがコーラスクラブに嫌がらせを考えたのだろう。前からコーラスクラブの発表会は人気が無かった。

「アルバートは足元に気をつけないと、音楽クラブが最下位になったら目も当てられないわ」

 マーガレット王女と2人で溜息をつく。

「コーラスクラブは女学生が多いから、男子学生に頼みそうですわ。そこをアルバート部長は考えてなさそうで心配です。実力だけで投じるばかりでは無いのに」

 グリークラブのミュージカルはなかなかの出来だ。踊りとか演技はまだまだだけど、練習を見ていても面白いもの。異世界にはテレビも映画もないからね。娯楽が少ないんだよ。陳腐に思えたハッピーエンドもミュージカル仕立てではありだな。

「そうよね。音楽に理解がある学生ばかりではありませんもの。1年生の新曲は手直しが必要よ」

 その通りと私は頷く。音楽のセンスはマーガレット王女に任せておけば良い。真面目な作曲なのだけど、慣れてないから固い感じなのだ。

 その中ではサミュエルのはまだマシだね。センス良いんだよ。意外とダニエルのが堅苦しくて古い感じだ。クラウスのはお花畑みたいになりそうな雑草だね。バルディシュのはアレンジすれば良い感じになりそう。

 火曜と木曜の音楽のクラブでは後輩指導に忙しい。アルバート部長にもして欲しいのに、グリークラブに行きっぱなしだ。

「マーガレット様とペイシェンスがいれば大丈夫だろう」なんて誉め殺しにされても困るよ。

 音楽クラブはマーガレット王女がかなりビシバシ1年生達を鍛えているし、私もちょこちょこアレンジを手伝っている。まぁ、投票でも最下位にはならないでしょう。多分ね!


 問題は錬金術クラブだ。いっぱい発表する作品はあるんだよ。洗濯機、ヘアアイロン、アイロン……これらは錬金術クラブっぽい発表だ。使えば便利さは分かると思うけど、さほど人を集めるとは思えない。

「自転車に乗って貰おう!」

 カエサル部長は張り切って2号機だけではなく3号機も作ったよ。段々と改造を重ねて乗りやすくなっている。錬金術クラブメンバーは全員が乗れるようになったよ。

 これは人を集められると思うんだ。男子って機械物好きだもん。

 問題はアイスクリームだよ。私は音楽クラブの発表とグリークラブの伴奏があるから午前中は講堂に詰めていないと駄目なんだ。

「アイスクリームメーカーをいっぱい作るか、冷凍庫を作ってアイスクリームを保存しておかなくてはいけませんわ」

 それも問題だが、試作は私がいるから大丈夫だけど、他のメンバーでアイスクリームを作れるかが大問題だ。

「一度、試作しなくてはいけませんわ。それと給仕の仕方も……無理そうですわね」

 このメンバーがアイスクリームを給仕している姿が想像できない。前世には執事カフェとかあったけど、全員がお仕えされる側だからね。

「うん、給仕は家の上級メイドに頼もう。ベンジャミンやアーサーやブライスもメイドに頼んでくれ」

 カエサル部長が私に頼まないのは、家のメイドが1人しかいないのを知っているのか、メアリーに迷惑を掛けたからか分からない。

「兎に角、このアイスクリームメーカーを試してみなければな。ペイシェンス、卵や牛乳や砂糖の分量を書いてくれ。そうか、器もスプーンもいるな」

 器は錬金術クラブにはガラスの素材があるから作る事になった。揃いの方が良いからね。スプーンも、家のは銀製で無くなったら大変だから、熱伝導の良い銅製にする。これも山ほど作るよ。あっ、アイスクリームをすくう道具も作らなきゃね。

「自転車の試乗券を作った方が良いですよ。時間制にして順番券を渡すのです。それを待つ間にアイスクリームを食べて貰えば良いのでは?」

 なるべく庭に面した教室を発表会の場所にして貰う。角部屋で庭に出易ければ一番良い。庭で自転車の試乗とアイスクリームの販売をする予定だ。教室を半分に仕切って、洗濯機などの発表とアイスクリームの盛り付け部屋にするつもり。

 私はちゃっちゃと大学や高校の文化祭を思い出しながら、スケッチを描く。

「ペイシェンス、絵が上手いな」ブライスが褒めてくれたよ。内職で鍛えているからね。

「教室の机や椅子では味気ないわ。こんなガーデンテーブルとガーデンチェアーが有れば、庭に置いても優雅なのに」

 ささっとガーデンテーブルとチェアーのデッサンをする。こんなの家に無いかな? 持って来てくれると良いなって下心もあった。

「これは鉄でできているのか?」

 カエサル部長がデッサンを見て首を傾げている。

「そうですよ。その上にペンキを塗って居ますけど……雨に濡れても良いからガーデンテーブルとチェアーなんです」

「夏のバーベキューとかに便利そうだな」

 ベンジャミンもデッサンを見て、感心している。無いのかな?

「よし、これも作ろう! きっと売れるぞ」

 なんだか作る物がいっぱいだよ。今は撥水加工もマントも研究する余裕は無さそうだ。


 金曜のアイスクリームメーカーの試作は大成功だった。でも、問題が大きくなりそう。

「こんなに美味しいデザートは初めてだ!」

「これなら人が呼べます」

 アーサーとブライスは食べてないものね。大興奮だよ。

「うむ、それは良いとして、どのくらいアイスクリームを作るのかが問題だなぁ。中庭に面している教室を貰えたから、半分は自転車に当てて、後はガーデンテーブルとチェアーを配置する予定だが……これも整理券が必要になるかもしれないな」

 予め多くのアイスクリームを作って冷凍庫に保存しておく事になった。つまり、冷凍庫も作る事になったのだ。凍らす魔法陣はアイスクリームメーカーの時に考えてある。箱を作って凍らす魔法陣と風の魔法陣をつければ良い筈だけど、そうは上手くいかない。

「冷凍庫は私達に任せてくれ。ペイシェンスはどの分量で作るのか、実際に色々と試して欲しい。この前みたいな苺の入ったアイスクリームも良いな」

 どっさりと卵と牛乳と生クリームと砂糖を渡された。卵は常温でも一晩ぐらい大丈夫だろうけど、牛乳と生クリームは困るな。

「小さな冷蔵庫が欲しいです!」

「お前、無茶言うなよ」ベンジャミンは吠えたけど、冷たい風が吹く小さな箱を作ってくれた。

「ベンジャミン様、凄いわ! 箱がなければ冷風機ね!」

 余計な事を言ったみたい。それから冷風機を作るのに熱中しだす。

 私はアイスクリームメーカーと牛乳と生クリームと卵が入った冷蔵庫と砂糖の大袋を持って寮に帰らなくては行けない。

「ペイシェンス、持つよ」

 やはりブライスは優しいね。それに今回はアーサーも手伝ってくれた。カエサル部長とベンジャミンは冷風機を作るのに夢中だ。

 寮に帰ってから、やる事リストを作る。こうしないと忘れちゃいそうな程忙しいのだ。

青葉祭のドレス。できている○

髪飾りを作る。紺の生地で作ろう×

新しい靴を買う。×

新曲を作る。○

1年生の新曲チェック。もう少しね△

グリークラブの伴奏。○

アイスクリームメーカー。○

器とスプーン。×

アイスクリームのレシピ。分量を計ろう△

ガーデンテーブルとチェアー。×

 週末はアイスクリームのレシピを完成させるのと、髪飾りを作る事。そして靴を買わなきゃね。

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