第65話 アイスクリームのレシピ

 土曜日、メアリーと馬車まで重い荷物を運んだよ。途中までだけどね。ジョージは女子寮には来れないけど、メアリーが馬車まで走って行って寮の食堂に呼んだんだ。

「お嬢様、これは何でしょう?」

 馬車に乗るなりメアリーに質問された。

「青葉祭でアイスクリームを売るの。でも、今まではきっちりと分量を計っていなかったの。それでは同じ味にならないから、レシピを作らないといけないのよ」

 メアリーはアイスクリームと聞いて目を輝かせる。バーンズ公爵家で食べたんだね。

「それは重要ですね」嬉しそうだよ。

「ええ、でもキッチリと計らなきゃいけないの」

 その上、今回のアイスクリームメーカーは大型だ。2リットルぐらい作れるタイプだ。バーンズ商会で売り出すのは、もっと小さなタイプもあるよ。あっ、小さなタイプで作って、そのレシピを倍掛けすれば良かったのかも。でも、今の錬金術クラブにあるのは大きなタイプなんだもん。

 土曜と日曜と2回に分けて試作だよ。半分の量でも良いしね。

 何を置いても弟達との時間は優先するよ。ナシウスは初等科はほぼ学習済みだ。魔法実技が合格だったら学年飛び級だ。実技も美術と音楽は合格だと思う。ダンスと体育は先生次第だね。

 ヘンリーもほぼ王立学園に入学前の学習は終えている。賢いよねぇ。私は前世の教育を受けているから当たり前なんだけど、ヘンリーは本当に7歳なのに凄いよ。

「2人共、よく勉強していますわ」

 マジ、グレンジャー家って賢い家系だね。ナシウスも剣術指南と乗馬訓練で少し逞しくなったみたいだ。ヘンリーは元気いっぱいだよ。マシューの手伝いもよくしているみたい。体力があまっているんだね。

 お昼には春キャベツが出たよ。まだ市場とかには並んで無いけど、少し魔法で後押ししたから家のは早いんだ。半分はエバに売ってもらう。高いうちは売ることにした。それに柔らかくて美味しいからね。

「これは美味しいな」

 柔らかな春キャベツでロールキャベツを作って貰ったんだ。これも肉は少しで沢山食べられるから節約レシピだよ。キャベツ多めは、前世から私が好きなロールキャベツなんだ。

「お姉様、春キャベツは甘いですね」

 ナシウスはデリケートな味の違いもよく気づくね。ヘンリーは一気に食べちゃったよ。

「これからいっぱい採れるから、よく食べなさいね」

 裏の畑には春キャベツだけでなく、エンドウマメやレタスやジャガイモなども植えてある。この冬は飢える事もなく乗り切れた。今年も頑張るよ。

 弟達も順調に成長しているし、ペイシェンスも少しは背が高くなったよ。だから、靴を買わなきゃいけないんだ。もう、この靴は限界だからね。

 昼からはエバとアイスクリームのレシピ作りだ。

「青葉祭は5月だけど卵は生でも大丈夫かしら?」

 4月でもまだ朝晩は肌寒いロマノだけど、5月になると日中は暑い日も多くなる。私の生活魔法で「綺麗になれ!」と掛ければ卵も浄化されるから大丈夫だろうけど、青葉祭で食中毒は駄目だ。

「アイスクリームが冷菓だとはメアリーから聞いています。主に夏に食べるスイーツなら、生卵で無い方が安全です」

 このレシピはバーンズ商会でアイスクリームメーカーを売り出す時にも付けるつもりだ。安全性を重視したい。

「先ずは砂糖と牛乳を混ぜて火にかけます。そして鍋の淵にポツポツと泡が出たら火から下ろす。卵黄を混ぜた中に砂糖が溶けた牛乳を入れて混ぜ、5分ぐらい火を通します。生クリームは泡立てておき、冷めた牛乳汁と混ぜて、アイスクリームメーカーに入れる」

 エバは1リットルで作る事にしたみたい。

 砂糖の量や卵黄の数はエバ任せにする。私より料理に慣れているし、これまで前世のスイーツのレシピを何回も作っているから、砂糖ザリザリにしないからね。

 私は余る卵白の使い道を考えるよ。スポンジ系も良いけど、やっぱりメレンゲだよね。これなら日持ちするし、売っても良い。

 卵黄と砂糖の入った熱い牛乳を冷ますのは生活魔法でしたよ。生クリームも泡立てた。それを混ぜるのはエバだけどね。

「お嬢様、これをこの中に入れたら良いのですか?」

 私が生活魔法で作っても良いけど、アイスクリームメーカーでしてみよう。

「ええ、これでできる筈よ」

 錬金術クラブでの試作とは違って卵に火を通すやり方だから、味が変わるかもしれない。試さなきゃね。

「エバ、残った卵白で新しいスイーツを作ろうと思うの。卵白と砂糖だけで作るのよ。砂糖はもっと細かく無いと駄目ね。卵白と混ぜ、泡立てて、鉄板の上に小さな丸にして焼くだけよ」

 前に作っておいた口金を使おう! 今年のナシウスの誕生日ケーキの為に絞り袋の口金を作っていたんだ。泡立て器も作ったよ。まだ、魔道具では無いけどね。フォークで混ぜるよりは楽だとエバは喜んでいる。今回は私が泡立てる。それをエバが絞り袋に入れて小さな丸に置いていく。

「あまり高い温度で焼かないでね。低温でじっくりと焼くのよ」

 自分でできないのがもどかしいけど、エバの方が上手いのも確かなのだ。

「お嬢様」メアリーとしては台所に長時間いさせてくれた方だ。アイスクリームのお陰だね。でも、アイスクリームメーカーに材料は入れたし、オーブンにメレンゲも入った。後はエバ任せだよ。

 お茶の時間まで、メアリーと髪飾りを作る。紺色の生地でリボンを作って、白い小さな水玉に見えるように丸くカットした布を貼り付けた。

「お嬢様、ドレスもこの生地なのですか?」

 メアリーは夏には暗い生地だと心配そうだ。

「これに白の襟と水玉になるように白い模様を縫ったのよ。今年から裁縫の授業は難しくなったわ。今は冬のドレスを縫っているところよ。裏地もあるから難しいわ」

 収穫祭で着る濃い緑色のドレスも本当は出来上がっている。今は2着目、綺麗な青色だよ。3年間、同じドレスでは可哀想だと先生が生地を3着分くれたんだ。3着目は赤色だ。青系ばかりだと先生に押し付けられてしまった。赤って前世で着たことないから、少し困っている。今着たら凄く子供っぽくなりそうなので、6年生用にするつもり。その頃にはグラマーになっていたら良いな。前世でもスレンダーだったから、ボンキュッボンになると期待したい。

 夏物の生地は良いのが残って無かったけど、秋学期までには購入してくれるってさ。つまり、6着縫わないといけない事になったのだ。私は成長期だから4着分は仮縫いまでで良いそうだ。やれやれ

「それと新しい靴が必要なの。もう、キツくて履けないわ」

 初めは少しブカブカしていたのが、丁度良くなり、今はキツい。

「まぁ、気がつかなくて申し訳ありません」

 できたら一緒に買い物に行きたいなと、期待したけど、メアリーが買ってくるみたいだ。残念!


 お茶の時間にアイスクリームを出したよ。まだ、グレンジャー家にお茶の時間は定着していない。もう少しだね。

「これは初めて食べる」

 父親も食べた事が無いと驚いているけど、ナシウスとヘンリーは夢中になっている。

「お姉様、これはアイスクリームというのですか?」

 ナシウスは食べ終わって悲しそうだよ。

「ええ、明日は苺味のアイスクリームを作るつもりなのよ」

 ぱっとナシウスの顔が笑顔になった。可愛いよ。少ししか出さなかったからね。夜のデザートにもするから。

「お姉様、美味しすぎるよ」

 ヘンリー、悲しそうな目をしないで、お腹が冷えたら駄目なんだよ。まだ4月だからね。

「アイスクリームメーカーを作ったから夏には食べられますよ」

 卵が無い時はシャーベットでも良いしね。相変わらず卵は王妃様が下さる分だけだ。未だグレンジャー家には高価すぎるんだもの。砂糖も南からの輸入品だからね。楓糖とか取れないのかな? 今度、調べてみよう。

 エバのレシピで問題は無さそうだ。明日はそれに苺を入れるのだけど、生苺にするか、ジャムを混ぜるか悩むところだ。青葉祭で出すならジャムかな? 普通のアイスクリームに苺のゆるいジャムをマーブルに混ぜ込むタイプにしよう。私がずっと錬金術クラブにいれるわけじゃ無いからね。

「料理クラブに協力して貰えたら良いんだけど……カエサル部長に言うだけ、言ってみようかな?」

 料理クラブのメンバーを1人も知らないから、無理かもしれない。それに女学生に錬金術クラブは評判が良いとは言えないもんね。それを言うなら全学生から変人扱いされているよ。魔法クラブは普通なのに何故なんだろうね。きっと、あの汚い白衣の印象が悪かったんだと思う。今はいつも真っ白だよ。

 冷凍庫ができたら、早くから作っても大丈夫かな? 何人分ぐらいを考えているか要相談だ!

 日曜、午後からサミュエルが来たので一緒にストロベリーアイスクリームの試食をしたよ。

「アイスクリームというのか、美味しいな!」

 サミュエルは格好付けていたけど、ペロッと食べて私のをジッと見つめているけど、あげないよ。まぁ、好評みたいなので良いかな。

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