第63話 桜咲く!

 転生して2回目の春が来た。家の裏に植えた桜が咲いたよ。去年は植えた時期が遅かったからか、花は咲かなかったんだ。

 冬の間にバーンズ商会は湯たんぽをいっぱい売ったみたいだ。銀行口座に振り込まれた額を見て驚いたよ。メアリーに記帳してきて貰った。

 詳細な報告書は後で来るみたいだけど、湯たんぽは2ロームで売られたのだ。それなのに500ロームが振り込まれていた。10ローム金貨50枚だよ! 何個売ったんだろう? あっ、糸通しもあったね。糸通しは50チームだよ。これもかなり売れたようだ。そうだ、スライム粉のクッションも好評みたい。長距離、馬車に乗る貴族には必需品になったようだ。こちらは10ロームだよ。中身の取り替え用クッションは3ローム。かなり高めの設定だけど、よく売れているみたい。これの歩合も大きいのかも。

 伯母様方と従姉妹のラシーヌにもクッションとヘアアイロンをあげたよ。サティスフォード子爵の港の絵刺繍は未だ出来上がってないんだ。だって、すっごく忙しかったんだもん。

「桜が咲いたから、お花見をしなくてはね!」

 錬金術クラブと音楽クラブでくたくただから、土日は弟達とゆっくり花見をする予定だ。

 洗濯機は何とか仕上がったし、ヘアアイロンもカエサル部長に魔法陣は手伝って貰って作った。それの応用で、アイロンと小さなアイロンも作ったよ。これらは錬金術クラブで特許を申請して、バーンズ商会で売って貰う予定だ。裁縫の先生に見本を見せたら、凄く欲しがっていたから購入希望者が増えそう。

 青葉祭の為のアイスクリームメーカーも試作機はできたよ。試食しなきゃね。

 自転車は2号機も出来たし、1号機には補助輪もつけたよ。これも青葉祭に出す予定なんだ。だから補助輪を付けたわけ。乗ってみないと便利さが分からないからね。これも特許を取るみたい。

 今は撥水加工に取り組んでいる。なかなか難しいよ。守護魔法陣のマントはもっと厄介だ。やはり刺繍糸が問題なんだよね。小さい布で試したけど、机の上でなら何とかなるけど、動かすと駄目なんだ。魔法陣が歪んじゃうもんね。それに魔石をどう付けるのかも悩む。

 薬草の内職も頑張ったよ。でも、春になったから、これはおしまいだね。学期末に幾らになるか、少し楽しみなんだ。

 カエサル部長が他の魔法使いコースの学生に薬草学の座学について聞いてくれたんだけど、本当に教科書を生徒に読ますだけだって。でも、何をするか信じられないから5月になったら1度授業を聞きに行くよ。テストはとても難しいとも聞いたから。薬学の教科書も不親切だったし、薬草学の教科書も不親切なんだろう。つまりは、授業だけではなく、自分で調べないといけないのかもしれない。マキアス先生は怠け者が嫌いだからね。

「薬学が合格できたら、下級薬師の試験が受けれる!」

 お金は少し余裕が出来たけど、ナシウスの入学準備もある。下級薬師になれば、下級回復薬、上級回復薬、毒消し薬とか売れるんだよ。

 そうだ、馬を買いたいけど……飼葉代が延々と必要なのは痛いな。馬糞は畑の肥料に良いかもしれないけど、これはよく考えてからにしないといけない。

「ナシウスは通うつもりなのかしら、寮に入るつもりなのかしら? それによって考えましょう」

 通うなら馬を買おうと思っていたのに、ナシウスは初めから寮に入るつもりだったみたい。

「お姉様も寮に入られたのだから、私も寮に入ります」

 あの時よりはマシになっているんだから、通っても良いのだけど、ナシウスは私が寮に入っているのに自分だけ通うのは贅沢だと感じているみたいだ。私はマーガレット王女の側仕えを辞めれそうにないから、寮暮らしは決定なんだよね。

「でも、そうなるとヘンリーだけになるから、ナシウスは家から通っても良いのよ。馬を買えば良い事だから」

 説得してもナシウスは首を縦には振らない。

「ヘンリーもそのくらい分かっています。それに馬を買うなら、ヘンリーが入学する時に良い馬を買ってやって下さい。ヘンリーは騎士コースを選択するでしょうから。私は文官コースを選択しますから、体育の時間は学園の馬で十分です」

 ナシウス、なんて良い子なんだろう。抱きしめちゃったよ。

「そうですね。騎士コースには馬は必須ですわ」

 それまでには守護魔法陣のマントを完成させておきたいよ。

 ワイヤットにバーンズ商会から振り込まれた金額を伝えたら、喜んでくれた。

「これでヘンリーの馬を買ってやりたいの。でも馬って高価なのでしょ?」

 ワイヤットは難しい顔をする。

「これはお嬢様の為にお使い下さい。馬が必要なら何とか致します」

 何とかなるのか? ヘンリーが入学するのは3年後だ。あっ、もう私は学園を卒業しているんだね。ロマノ大学に進学するつもりだけど、働いた方が良いのかな?

「お嬢様、弟君の事ばかり考えられないように。ご自分の事を考えて下さい」

 ワイヤットに叱られちゃったよ。何とかなるのかな? ワイヤットの口振りには、何か目当てがありそうなんだよね。まぁ、何とかならなかった時は、このお金で馬を買って貰おう。

 折角、桜の花が咲いたのにお金の事ばかり考えているのは良くないね。

「日曜のお昼はお花見にしましょう」

 エバにサンドイッチや唐揚げを作って貰うよ。この時期の野菜は高いから温室で栽培しているんだ。勿論、苺もね。売りもするけど、家でも食べるよ。冬は新鮮な野菜不足気味だったから。

 唐揚げのレシピは簡単だけど、油をいっぱい使うから贅沢だよね。でもお花見は豪華にしたいんだ。

 私的にはピクニックみたいに桜の木の下で敷物の上に座って食べたかったけど、メアリーはダメだってさ。まぁ、机と椅子の方が食べやすいけどね。

「お姉様、綺麗ですね!」

 そうだよ、ナシウス。桜って下から見上げるの綺麗なんだよ。

「こんな木があったかな?」

 父親は、去年、植えたのも気づいていなかったんだね。ワイヤット、父親の復職を当てにしているなら難しそうだよ。

「お姉様、これは何か実がなるのですか?」

 ヘンリーは花より団子だね。

「ええ、さくらんぼがなる筈ですわ」

「食べたいな!」

 素直に喜ぶヘンリーはマジ天使だよ。

 桜の木の下での昼食は楽しかった。やはりリュートをもっと練習しなくては。音楽が欲しいもの。ハノンは持ち歩けないからね。

 花見の後は……乗馬だよ。サミュエルが来るのも恒例だね。ナシウスとヘンリーは喜んでいるから良いのだけど、サミュエルは乗馬クラブだけあって、指導が厳しいから嫌なんだよ。

 私は同じサミュエルの指導ならリュートの練習をしたい気分だ。一応は馬に乗ったよ。それに歩かせる事もできる。これで十分だよね。

 乗馬台で下ろして貰っていたら、乗馬教師に苦笑いされたよ。

「ペイシェンス様は乗馬がお好きでは無いようですね」

 その通りだよ。まぁ、乗馬教師にそんな事は言わないけどね。気分悪いじゃん。

「私は臆病だから、落ちたらどうしようと思ってしまうのです」

 乗馬教師は、アッという顔をする。

「そうか……なる程。アンジェラお嬢様が障害を飛ばないのは怖いからなのですね」

 呆れたよ。当たり前じゃん! 私なんか弟達が飛ぶのを見るのも怖いんだよ。ラシーヌが諦めない限り、アンジェラの苦行は続くのかな? 来年、入学する女の子は乗馬訓練中なんだろうね。可哀想だよ。まぁ、中には喜んでいる子もいるだろうけど。

 マーガレット王女の学友はマーガレット王女が選んだみたい。失敗しちゃったけど、ジェーン王女も同じようにさせるのかな? なら、やはり趣味があう学友を選びそうだ。だから、乗馬訓練を止めろとはラシーヌに軽々しくは言えないんだ。

 弟達はサミュエルと楽しそうに障害を飛んでいる。ショタコンとしては眼福だよ。

 さて、寮に行く時間だ。サミュエルにもキスしてやろう。嫌がる少年にキス! 前世だったら警察に捕まるね。でも、ここは異世界だし従兄弟にキスは大丈夫なんだよ。チッ、サミュエルは馬から降りない作戦だ。先週、キスしたから警戒しているみたい。今日は仕方ないね。

「お姉様、行ってらっしゃい!」

 弟達エンジェルにキスして馬車に乗る。

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