第52話 自転車チリン! チリン!

 錬金術クラブではカエサル部長とベンジャミンが洗濯槽をどうにか完成させようとしていた。でも脱水槽はまだ手付かずみたい。

「おお、ペイシェンス! やっと来たな。青葉祭の件で待っていたのだ」

 あっ、忘れていたよ。そんな事もあったな。

「昨年の錬金術クラブの展示には見学者があまり居なかった様に思えたので、展示だけではなく模擬店をしてはどうかと思ったのです」

 模擬店と聞いてベンジャミンががっかりした。

「錬金術クラブの作品を買う学生など居ないぞ。手芸クラブとか美術クラブとかは模擬店を開いて好評みたいだがな」

 そうか、去年の青葉祭は午前中は講堂に詰めていたし、午後からは学生会のお手伝いだったからね。あまり見学はできてないんだ。

「あのう、どのくらいの予算を使っても良いのでしょうか?」

 私が考えている物を作るには材料費が掛かるんだよ。カエサル部長がパッと目を輝かす。

「ペイシェンス、何か考えているのだな! 予算は幾らでも使って良いぞ」

 それは駄目でしょう!

「私は青葉祭にアイスクリームを売れば良いと思うのです」

 2人はアイスクリームを知らないようだ。ペイシェンスも知らないみたいだけど、グレンジャー家は貧乏だからかなと思っていたよ。

「それはどんな物なのだ?」

 私はアイスクリームメーカーの図を描きながら、卵、牛乳、砂糖を攪拌しながら冷やして固めたデザートだと説明する。

「ふむ、アイスクリームを一度食べてみないと話にならないな。そうだ、父がペイシェンスに会いたいと言っていた。家なら材料はあるから、アイスクリームは作れないか?」

 生活魔法を使えばアイスクリームを作る事はできそうだ。

「それはできますが、青葉祭の間、ずっと錬金術クラブにつきっきりはできませんよ。錬金術クラブなのだからアイスクリームメーカーを作って下さい」

 それはカエサル部長とベンジャミンも同意した。

「当たり前だ。そのアイスクリームとやらを食べてから考える。それでペイシェンスの予定は如何なのだ?」

 ああ、土曜が勉強会で潰れるのが痛い。

「日曜なら空いています」

 これで土日が塞がっちゃうよ。でも、湯たんぽを売り出して貰うのは嬉しいな。

「では父に予定を聞いてから返事をするが、多分、大丈夫だろう。日曜の昼から迎えに行こう」

 あっ、カエサル部長はグレンジャー家に子守がいない事から貧乏だと察したのかな? それか、一応、令嬢を連れ出すのだから父親に許可を得るのかも。いちいち面倒臭いね。どちらにせよ、馬のレンタル代が助かるよ。

「私もアイスクリームを食べてみたい」

 ベンジャミンも来る事になった。では、これで青葉祭の話は終わりだ。カエサル部長とベンジャミンは洗濯機を作るのに集中している。

 私は自転車の構造をあれこれ思い出しながら描く。

「全体図はこれで良いと思う。フレームと車輪とチェーンとペダルとサドルとハンドル。ブレーキは車輪をハンドルを握ってギュッとゴムで止めるのよね。あっ、それに自転車にはチリンチリンが必要よ」

 ぶつぶつ独り言を呟きながら自転車の図を書いていたが、ベンジャミンに図を取り上げられた。

「今度は何を作ろうとしているのだ?」

 カエサル部長も図を見て首を捻っている。

「この横に突き出した板を回して車輪を回すのだな。もしかしてゴーレムなのか?」

 ゴーレムって異世界のロボットみたいな物だよね。

「いえ、これはここに乗って、このペダルを足で踏んで回して、歩くよりも早く進む自転車という道具ですわ。上手く作れたら馬よりも便利かもしれません」

 2人から変な目で見られる。

「ペイシェンス、こんな物を何処から考え出したのだ?」

 カエサル部長に呆れられたよ。やはり駄目なのかな?

「いや、素晴らしい! 相変わらずペイシェンスの発明品は魔石を使わない物が多いな」

 それはグレンジャー家が貧乏だからです。そこからは2人も協力してくれたので、自転車の構造をあれこれ考える。

「細かい部品を色々と作らなくてはいけないが、これも出来上がれば父が売りたがる商品になるぞ!」

 ベンジャミンは図に描いたベルに首を捻る。

「これは必要なのか? 自転車を乗りながら召使いを呼ぶ事など無いだろう」

 ベルは召使いを呼ぶ為だけじゃ無いよ。

「これで前を歩く人に警告するのです。自転車が後ろから追い抜くよって」

 ベンジャミンとカエサル部長に呆れられたよ。

「まだ出来ても無い自転車に乗って人を追い越す事まで考えているのか? ペイシェンスは想像力豊かだな」

「そんな心配は、自転車ができてからすれば良いのでは?」

 自転車と言えばチリンチリンなんだよ。私の中ではね。3時間目いっぱい自転車の部品を考えて終わった。まだまだ部品を考えないといけないよ。確かにベルは後回しで良さそうだ。

 それにしてもカエサル部長とベンジャミンは私より部品を考えるのが早い。何故だ! うん、頭が理系なんだよね。自転車の仕組みを理解したら、どう部品が組み合わされるかも分かったようだ。

「ベンジャミン様、薬草学の時間ですよ」

 髪の毛を掻きむしりながら、自転車の設計図に夢中になっているベンジャミンに声を掛ける。

「ああ、温室に行かなくては……カエサル部長、勝手に私の設計図に手を加えないで下さいよ」

 いやいや、それは私の自転車なんですけど……まぁ、良いか。男の子って機械弄り好きだね。


 温室では、下級薬草の種を取ったし、毒消し草も収穫したよ。種が欲しいから2株は残しておく。マキアス先生からいっぱい種を預かっているけど、それはあの温室で育てる分だからね。こっちのは自分用だよ。冬休みに育てて売る予定なんだ! 春から秋は安くなりそうだから作らないよ。

「ペイシェンス、その毒消し草は高く買うよ」

 勿論、売るよ! 学期末、幾ら貰えるかな? 楽しみだ。

「さて、これで授業はお終いだわ。温室に行かなくては!」

 相変わらず元気の無い下級薬草に手を焼いているベンジャミンは、温室から出て行く私を羨ましそうに見ている。ベンジャミンも水やりを真面目にしないと、2回目の下級薬草も枯れてしまいそうだ。

「今日は毒消し草を植えよう!」

 また泥団子をいっぱい作るよ。それに細くて小さい毒消し草の種を1つづつ入れていく。前みたいに畝1列だけじゃ無いから大変だ。全て植え終わったら、上級薬草と共に浄水をやっておく。これから毎日温室通いだ。空き時間がある日は良いけど、火曜は無いんだよね。

 裁縫は水玉のドレスが出来上がったら終了証書が貰えそうだけど、できたらマーガレット王女の側にいた方が良さそうだ。それに6枚ドレスを作らなくてはいけないのかもしれない。

「火曜は音楽クラブがあるから放課後も潰れるし、朝しか無いな!」

 早起きに問題は無い。だって異世界に来てから寝る時間がとっても早いのだ。グレンジャー家は蝋燭代をケチる意味もあったけど、寮だって消灯時間は早い。時計ないから正確には分からないけど9時か10時には寝ていると思う。前世では12時が普通で、休み前は2時とかもザラだったよ。

 まぁ、成長期には11時前に寝ていた方が良いって説もあったもんね。でも、前世の私は宵っ張りだったけど、背は高かったんだよね。遺伝とかもあるかもね。

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