第51話 外交官って格好良いけど、何をするの?

 月曜は外交学と世界史がある。パーシバルが外交官になると言ってから、凄く興味が湧いている。でも、異世界の外交官って何をするのだろう? 前世では一般人も海外旅行もよく行っていたから自国民の保護とか、貿易赤字の問題とか……そっか、領土の問題もあったね。

 ローレンス王国って日本と違って島国じゃない。つまり隣国と陸続きで、歴史でも習ったけど、よく戦争をしていたんだ。外交官って戦争の時って大変そうだよね。

 今日も何故かフィリップスが外交学の教室まで付き添ってくれる。もう教室は流石に覚えているよ。まぁ、一緒の教室だからかな?

「フィリップス様はロマノ大学に行かれるのですか?」

 文官コースを選択している学生の多くはロマノ大学に進学すると聞いたからね。

「ええ、私は外交官になりたいのです」

 あっ、パーシバルと同じだと思っていたら、ラッセルがチャチャを入れる。

「フィリップスは外国の遺跡を見て回りたいだけだろう。考古学者になりたいくせに、親に反対された根性なしさ」

 うん、それも有りそうな話だね。外交官って公務員だから、暇な時は遺跡を見学しても良いんじゃ無いの?

「ラッセルこそ外交官なんか向いて無いぞ。いい加減な事ばかりではローレンス王国が不利益を被りそうだ」

 2人共、外交官志望なの? やはり外交官って人気あるんだ。

「そんな訳無いだろう。それよりペイシェンスは外交官試験を目指すのか?」

 王立学園をでて官僚になりたいと前は思っていた。でも、今はロマノ大学に行くまでは決まっているが、その先は迷路になっている。

「まだ分からないのです。それに女性で外交官になれるかどうかも分かりませんし」

 なんて話していたら、外交学のフォッチナー先生が教室にやってきた。

「女性外交官! 素晴らしいではないですか。外交官の仕事には自国の文化を広げる事もあるのです。やはり、こういった分野では我国はソニア王国、コルドバ王国、そしてエステナ聖皇国の後塵を拝しています。ペイシェンス、頑張りなさい」

 えっ、まだ外交官になるとは決めてませんよ。それにしてもローレンス王国って文化的に遅れているって評価なの? 外国語のモース先生もローレンス語は堅苦しくて芸術的でないとの評があると言われていたね。

「フォッチナー先生、それは聞き捨てなりません。ローレンス王国の文化は他の国とは比べ物にならない程優れています」

 フィリップスが反論しているよ。

「それは分かっていますが、それを他国に伝えきれていないのが実情なのです。ソニア王国程、恋愛文化が花咲いていないし、コルドバ王国程、他国の文化を取り入れていません。それにエステナ聖皇国は宗教一辺倒ですからね。ローレンス王国は中庸と言えば聞こえは良いが、これといった文化的な特徴が無いのです」

 わぁ、なんか議論が爆発しそうだ。フォッチナー先生、煽りが上手いね。

「ローレンス王国の文化面が優れているのは、他の国でも認めざるを得ないだろう。魔道具の殆どはローレンス王国で作られているし、名曲の殆どは我国の作曲家のものだ。ソニア王国のは恋愛小説しかないが、我国のは精神世界の深淵さをも著している」

 ラッセルの反論にフォッチナー先生は肩を竦める。

「だが、それらを他国は認めていない。作曲家は確かに我国の出身ではあるが、活躍したのはエステナ聖皇国でだ。その上、魔道具の発明は確かに我国なのだが、多く使われているのはソニア王国だ。そして、コルドバ王国には南方貿易を牛耳られている。何が問題なのか分かるか?」

 教室中で議論が噴き出した。私は錬金術クラブだから魔道具が我国で作られたのに、他国の方が多く使われているのは何故なのだろうと思った。

「ローレンス王国の魔石が高いからかしら?」

 貧乏なグレンジャー家では魔石が買えないから、折角あるトイレが使えなかったのだ。

 そんなに大きな声で言った訳でも無いのに、フォッチナー先生は私を指さした。

「そう、ペイシェンスは良い所に気づいたね。我国の魔石は他国より高い。それは何故だろう?」

 他国には魔物が多いのか? 討伐する数が多いのか? それとも安い魔石を輸入しているのか? 議論は激しくなった。

「では、次回までに調べて来るように! 魔石の事だけでなく、何故音楽家はエステナ聖皇国で活躍するのか? 何故、我国の文化が他国から評価されないのか? どれでも良いからレポートに纏めて提出だ」

 世界史も同じ教室なので、休憩時間もそのまま話し合う。

「ペイシェンス嬢は何を調べますか? 1番先に魔石の価格について発言されたから、それにされますか?」

 フィリップスの相変わらずの「嬢」呼びはくすぐったいけど、やめて欲しいと言う程は嫌じゃ無い。様がミスなら嬢はマドモアゼルって感覚なんだよ。

 何故、音楽家がエステナ聖皇国で活躍するのかは、何となく前世の音楽家の生涯で分かった。

「魔石については多くの方がレポートを書かれそうです。私は宗教音楽は教会の庇護があるから、生活面で不安が無いからだと思ったのです。でも、これでレポートを書けるかは分かりませんわ」

 ラッセルが「図書館で『音楽家ベリエール』を借りて読めば良い」とアドバイスをくれた。

「あれにはかなり金銭面の事が詳しく書かれていた筈だ。ベリエールの曲が好きで借りたのだが、かなりゲンナリしたから覚えている。まぁ、生きる為には金が必要だけど、死んだ後に日記が公開されるとは考えて無かったのだろう」

 あっ、それはあるよね。偉大な人の日記とか金銭面が細かく書かれていたら、少し驚くよ。でも、その当時の生活とか分かるから面白いと私は思うけどね。やはり、貴族とは感じ方が違うみたい。

 世界史はカザリア帝国が大陸の西半分を配下に収めたよ。これから東への遠征が始まる所で終わった。まるで前世のアレクサンダー大王の遠征みたいだよ。これが長くてややこしいんだ。あちこちに行くからね。

 フィリップスはこの遠征をしたハドリアヌス帝が大好きみたいだ。

「次の授業が待ち遠しいです!」と興奮していたよ。

 ラッセルが呆れているのも見慣れたね。

 昼からは忙しい。3時間目は錬金術クラブへ行って、自転車の構造を考えなきゃね。糸通しは金曜に作る予定。やはり実際に作るのは時間に余裕のある金曜になるね。4時間目は薬草学だ。薬草学は合格を貰っているけど、毒消し草の収穫までは気を抜かないよ。それに私は別の温室で毒消し草を植えなきゃいけないしね。

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