第50話 魔石を使う魔道具と使わない道具

 寮に来てから、魔石を使う魔道具と使わない道具をあれこれ考える。魔石を使わない道具はミシンや自転車なんかあると凄く便利そうだ。でも、理系では無かったのが痛い。仕組みとか微かにしか覚えてない。それにスマホ検索が出来ないのも痛いよ。前世では本当にスマホ検索で何でも調べられていたな。異世界ものでワールドレコードにアクセスできる能力とか貰えるの読んだ事あるけど、羨ましいよ。

「あっ、温室に行かなきゃ!」

 コートを着て温室に向かう。パパっと魔力を毒消し草の葉の芽だけに注ぐ。これが出来ると気づくまで大変だったんだよ。

「お前さん、これで薬草学3も合格だね。後は春学期の期末テストで薬草学1、2、3の合格を取れば良いだけさ」

 マキアス先生って足音しないね。それに簡単そうに言うけど、何かあるんじゃないかな? 凄くテストが難しいとか?

「座学はいつからなのでしょう?」

 教科書を読むだけで良いなんて前に言っていたけど、信じられないよ。

「座学は5月からだよ。受けたければ、受けても良いが、それより上級薬草と毒消し草を作らないかい? 彼方の温室の管理をして、育ててくれれば適正価格で買い取るよ」

 内職の斡旋をされたよ。

「マキアス先生が栽培されないのですか?」

「年寄りをこき使う気かい? 薬学で使う薬草も冬場は高くてね。なのに失敗ばかりする学生が多くて困っているのさ。適性が無いなら薬学を取るのを諦めてくれれば良いのだが」

 薬学と薬草学を取れば下級薬師の試験を受けられるからね。すぐには諦める気にならない学生も多いのだろう。分かるよ!

 家の温室で薬草を植えて売ろうと思ったけど、私が留守の間の管理が難しそうだから悩んでいたのだ。浄水を作り置きとかできるか分からないしね。

「やらせて下さい」

 儲かる事は歓迎だ! でも、座学は受けよう。マキアス先生は怠け者は嫌いだと何度も言っていたもんね。お金の事は騙さないと信じるしか無い。

「この温室だよ」

 案内された温室は、私達が使っている温室の倍の広さだった。

「あのう、広くないですか?」

 ケケケと笑って「やり甲斐があるだろ」なんて言う。

「種は渡しておくよ。好きな遣り方で育てな。春になって冒険者が薬草を採って来るまでは高値で買ってやるよ」

 腰から下げていた巾着袋を投げて渡す。

「収穫はこっちでするから、育てられるだけやりな」

 言うだけ言うと、マキアス先生はスタコラ歩いていく。うん、ペイシェンスより歩くの早いね。あっという間に見えなくなった。

「先ずは肥料を漉き込まなきゃね。あっ、毒消し草は要らないのか」

 毒消し草は育てるの手間が掛かるから、やめようかな? いや、きっと私のやり方で育てた毒消し草は高く買ってくれると信じるよ。温室を半分に分けて、外から肥料をバケツで何回も運び込んで漉き込む。

「今日は上級薬草だけにしておこう」

 浄水につけた種を植えて、浄水を撒き、生活魔法で「大きくなれ!」と唱えておく。

「今日はここまでね!」

 マーガレット王女が寮に来られているかもしれない。自分にもサッと生活魔法を掛けて寮に急ぐ。

 こんな時に限ってキース王子に会う。

「ペイシェンス、急いでいるな」

 そう、私としては精一杯の早足なんです。

「ええ、マーガレット王女が来られたかもしれませんから」

 キース王子は笑って「まだ姉上は来られていない」と教えてくれた。やれやれ、間に合ったようだ。

「それでペイシェンスは何処に行っていたのだ?」

 それってキース王子に一々言わなくちゃいけないのかな?

「温室ですわ」

 簡単に答えておく。学園で内職しているのは秘密にしておこう。同情はいらないよ、グレンジャー家は貧乏だけど誇り高いのだ。

「まだ、毒消し草とかの栽培に手こずっているのか?」

 えっ、よく覚えているね。私の失敗が面白いのかな?

「いえ、毒消し草は合格を頂きましたわ。他の件で温室に行っていたのです」

 キース王子も人の事より、自分の古典と歴史を勉強した方が良いよ。飛び級はギリギリだと思うから。ラルフとヒューゴがやって来て、やっと解放されたかと思ったのに、何故か食堂で座って話している。

「ペイシェンス様、土曜の勉強会は楽しかったです」

 ラルフは前から古典出来ていたと思うよ。それにいつから様付いていたかな? 1年生の頃は呼び捨てだった筈だよね? ううんと、ラルフはどうだったか覚えてないや。少なくともヒューゴは呼び捨てだったよ。マーガレット王女の側仕えだから、様付けなの?

「いえ、ラルフ様とヒューゴ様には必要無いのでは?」

 2人は慌てて「デーン語の勉強にもなります」と言う。そんなにキース王子と離れたくないものなのかな? 大変だね。

「ペイシェンス、古典と一緒に歴史も教えて欲しい」

 キース王子、それは王宮の家庭教師に教えて貰った方が良いよ。なんて思っているのに、ヒューゴまで言い出す。

「私も歴史は飛び級できそうにないのです。ペイシェンス様、教えて頂きたい」

 うん? 何か変じゃない?

「ペイシェンス、何をしているの?」

 マーガレット王女が寮に来られた。

「姉上、ペイシェンスに古典を教えて貰って、少し分かりかけた所なのです。なので、もう少し教えて欲しいと頼んでいたのです」

 キース王子の言葉だと今週の土曜の勉強会だけの話で無さそうに感じる。困るよ。

「あら、キースが古典を勉強する気になったなんて、素晴らしいわ。ペイシェンスは教えるの得意だったものね。そうだわ、私の家政数学も教えて貰いたいわ」

 私はマーガレット王女と共に特別室に上がって、あれこれしているうちに(家政数学の宿題チェックとか)何か引っかかっていたのも忘れてしまった。

 だってマーガレット王女の家計簿は酷かったんだもん。

「ええっと、こちらの欄には収入、こちらの欄には支出ですよね。何故、ごっちゃ混ぜにされているのですか?」

 これでは家政数学は合格できそうにない。新しいページに一から書き直させる。

 異世界の支出項目は違うかもしれないから、ザッと教科書に目を通す。うん、殆ど一緒だ。魔石とかは水道光熱費になるんだね。馬の費用も結構大きいな。当分、レンタルだね。うん、例題にしても交際費って高すぎない? これが普通なの? ゲゲッ美容費って何よ! 私の知っている家計簿と違うのは人件費があるところだけど、それよりこの美容費とか社交費で良いのか例題! 突っ込み所満載だよ。

「なるほど、美容費にはドレス代も含まれるのですね」

 被服費じゃ無いの? やはり違う所も多いのかな? 

「後は、その欄を合計したら宿題は終わりです」

 やっと収入と支出を書き終えたマーガレット王女は大きな溜息をつく。

「前の家政数学の家計簿は初めから書いてあるのを計算するだけだったそうよ。足し算ができれば良かったの」

 それは流石に簡単過ぎるよ。この家計簿も教科書をちゃんと読めば間違えないと思う。数字に対して、マーガレット王女は拒否感を持っているから間違えるのだ。

 マーガレット王女に紅茶を淹れて2人で飲んだ。

「ペイシェンスに言われると、凄く簡単に思えるけど、先生はわざと難しく説明されているのかしら?」

「まさか、マーガレット様が落ち着いて聞かれれば分かると思いますよ。授業の前に教科書を読んでみても良いかもしれません」

 マーガレット王女には聞き覚えの無い◯◯費とかだけで、難しいと勘違いしているのかもしれない。教科書を読めば難しくないと分かる筈だ。

「ええっ、予習しろと言うの? やっと宿題が終わったのに……良いわ。読むだけ、読んでみるわ」

 マーガレット王女が予習している間に、私は魔石を使わない道具を考えていた。自転車、良いよね。馬より自転車の方が安全だと思う。大体の構造は分かるよ。明日の3時間目は自転車を作りたいな。

 

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