第47話 土曜の勉強会の準備
土曜は朝から温室に行き、生活魔法で葉っぱの芽にだけ魔力を注ぐ。これに気づく前は凄く時間が掛かっていたのだ。
「もう、マキアス先生は何故生活魔法を使ってはいけないなんて言われたのかしら?」
口に出すとペイシェンスマナー変換される。心の中では『偏屈な意地悪婆!』と罵っていたのだけど、この時は変換に感謝したよ。
「お前さんは魔法の暴走をする程、魔力制御がなってないからさ。本当に魔法使いコースで勉強しないといけないよ」
ゲッ、気配しなかったけどマキアス先生が温室に入って来ていた。
「私は攻撃魔法は嫌いなので、魔法使いコースは取りません」
マキアス先生はケケケと笑う。
「そんな甘ちゃんな事を言っているのは、ここ十数年戦が無いからさ。でも、戦が無いからと備えを疎かにするのは馬鹿者だよ。自分の命、家族の命が脅かされても攻撃魔法は嫌いだなんて言っていられるかね?」
ドキンとした。ローレンス王国が平和だからと油断していたのだ。異世界では戦争は本当に些細な事で起こる。世界史で学んでいたのに、自分の事として考えていなかった。
「それに毒消し草にお前さんの大雑把な生活魔法を掛けたら、茎がニョキニョキ伸びて使い物にならなかったよ。この調子で育てていたら効能が高い毒消し草になるね」
頑張りな! と温室を出るマキアス先生は、やはり見た目よりも素早い。絶対に年齢詐称だよ。
魔法使いコースまで取る余裕は無いけど、考えてみよう。だってペイシェンスは足も遅いし、何かに襲われたら1番先に死にそうだもん。それに弟達を護りたい。
メアリーが迎えに来るまで、履修要項を取り出して眺める。魔法使いコースはやはり無理だ。でも、何科目かは取っても良いのかも? 魔法制御とか防衛魔法とか……治療魔法が使えたら良いんだけど、光の魔法なんだろうな、残念!
「遅くなりました。朝からノースコート伯爵夫人から手紙が届きましたのでお渡ししますね」
ここで渡さなくても家で良いんだけどね。内容はほぼ分かっている。
「この湯たんぽを持って帰らなければいけないの。私も手伝うわ」
メアリーは湯たんぽに変な顔をしたが、布に5個ずつ包んで、着替えの鞄と一緒に持つ。私は勉強会の本を数冊持っただけだ。湯たんぽ5個の包みを持つと言ってもメアリーは拒否するんだもん。
馬車に乗ってリリアナ伯母様からの手紙を読む。やはり午後からの勉強会についての手紙だった。キース王子の好きなお菓子とか尋ねている。うん、あの砂糖じゃりじゃりのケーキは好きじゃ無いよ。
「ねぇ、メアリー。エバをノースコート伯爵家に派遣してお菓子を焼く手伝いをさせるのはマナー違反かしら?」
メアリーはリリアナ伯母様の事をさほど好きでは無かった。あの近い所に住んでいるのに援助無しだったからね。だけど、従兄弟のサミュエルが弟達と遊ぶのは好意的に見ている。今回はそのサミュエルとキース王子の勉強会なのだ。
「ノースコート伯爵夫人がお望みならマナー違反ではありませんわ」
うん、あの砂糖じゃりじゃりのお菓子にキース王子は手をつけないだろうからね。
その上、私は昼食もノースコート伯爵家で食べなくてはいけないようだ。午後に来られるキース王子を出迎えないといけないとリリアナ伯母様はかなりテンパっている。弟達との時間が更に短くなるよ。溜息しか出ない。
家に着いたら、先ずは活力を充填する。弟達を抱きしめたら、元気がでるよ。
「お姉様、サミュエルの家に行くの?」
「ヘンリー、一緒に連れて行ってあげたいけど、古典の勉強会だから我慢してね」
ナシウスは不思議そうな顔だ。うん、古典も好きだから理解できないんだね。
「お姉様、一度の勉強会で古典嫌いが治るのですか?」
乗馬訓練で仲良くなったサミュエルから古典が嫌いだと聞いているんだね。
「頑張ってみますわ」
一度で済ませたいからね! 貴重な土曜をそんな何回も潰したく無いもの。
それからメアリーに湯たんぽの使い方を説明する。
「まぁ、夜寒く無い上に、朝の洗面にお湯が使えるのですか? 何て便利な道具なのでしょう」
そう、貧乏暮らしには画期的な道具だよ。
「全員分あるから、使ってね!」
これで湯たんぽの事は任せておいて大丈夫だ。後はリリアナ伯母様に手紙でエバの事を書いて持って行って貰う。どうせ昼には行くけど、先に言っておいた方が良いからね。パンケーキの材料とかも書いておいたよ。
あっ、ワイヤットにバーンズ商会に湯たんぽを作って貰う件を話さなきゃいけないんだけど、実際に使ってみた後の方が良いかもね。日曜に話そう!
そうだ! 一応は父親にも報告しなきゃね。それと勉強会についても話さなきゃ。
父親はサミュエルに古典を教えるのは笑って聞いていたが、キース王子に教える件は驚いていた。うん、本当は王宮の教師に教えて貰った方が良いよね。
「ペイシェンス、楽しんで教えてあげなさい」
もう! やはり父親はズレているよ。私が楽しんで教えるのは
ノースコート伯爵夫人からは迎えの馬車を寄越すと返事があった。エバは昼食を出してから来るみたい。近いもんね。
少しの時間だけど弟達と温室で苺を採る。これをノースコート伯爵家へのお土産にするつもりだ。
迎えの馬車にメアリーと乗る。伯母様の家なのに侍女は必要ないんじゃないかな? メアリーは手提げの中に湯たんぽのカバー用の布を詰めている。控えの部屋で縫うつもりだ。まぁ、家より暖かいから良いかもね。まだグレンジャー家は寒く無い程度なんだよ。エコだと思っておこう。
ああ、リリアナ伯母様の出迎えだ。これはかなり舞い上がっているな。
「ペイシェンス、キース王子は本当にケーキがお嫌いなの?」
挨拶をすっ飛ばしてキース王子の好みチェックだよ。
「ええ、
リリアナ伯母様が「そうなのね」と少し落ち着いたので、メアリーが苺の入った籠を執事に渡す。
「おっ、苺だ! グレンジャー家の苺は美味しいのだ」
サミュエル、家の温室の苺を食べているんだね。売り物なんだよ!
「まぁ、サミュエル、お行儀が悪いわ。でも、とても綺麗だからキース王子にもお出ししましょう」
それは良いけど、勉強会だって事を忘れて無いかな?
「伯母様、今日の勉強会ではハノンを使うのです。子供部屋で良いかしら?」
それから大騒動だった。召使い総動員で子供部屋を掃除し直したり、椅子や机を豪華なのに変えたりドタバタしている。
私は応接室でサミュエルとノースコート伯爵とお茶を飲んでいたよ。伯母様は監督に忙しそうだ。
「ペイシェンスのお陰で、サミュエルは音楽クラブにも入れたし、良き友人にも恵まれた。感謝する」
あっ、ダニエルやバルディシュやクラウスもAクラスだから良家の子息だよね。
「その上、キース王子の勉強会にサミュエルが参加させて貰えるなんて、光栄な話だ」
いやいや、元々はサミュエルに古典を教えようと思いついたのに、キース王子が強引に参加したんだよ。なんて言わないよ。
2階の子供部屋の片付けも終わったのか、リリアナ伯母様も降りて来た。
「そろそろ昼食にしましょう。キース王子様が来られる前には終えていないといけませんからね」
午後からと言ったから、昼食中に来られる筈は無いよ。でも、従う。
「伯母様、キース王子は勉強会の為に来られるのですから」
食事が終わった時に一応言っておく。
「まぁ、分かっていますわ。それにサミュエルにも言われましたから。でも、休憩のお茶は必要でしょう? それは子供部屋では失礼だと思うのよ」
了解です。
「では、お茶の時間には下の応接室に参りますわ。勉強を始めて2時間程経った頃でしょうか」
サミュエルが、ゲッて顔をしている。両親の前だから文句言うのを我慢したんだね。
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