第48話 土曜の勉強会
昼食後は応接室でキース王子が来られるのを待つ。うん、気詰まりだよね。サミュエルも退屈そうだ。
「あの伯母様、ハノンで今日使う曲の練習をしても宜しいでしょうか?」
リリアナ伯母様の眉が上がる。
「まぁ、ペイシェンス、練習していないのですか? そんな準備不足だなんて、いけませんわ。貴女は上で練習をしなさい」
サミュエルも一緒に来たがったが、伯母様に止められた。キース王子が来られた時に出迎えなくてはいけないそうだ。2階に居ても同じだと思うけど、そんな事は言わないよ。ごめん、サミュエル!
子供部屋はなんか煌びやかになっていた。椅子とか机とかゴージャス度アップしているんだよね。伯母様、頑張ったんだ。
ハノンでデーン語の歌曲を弾く。うん、このくらいなら大丈夫そうだ。前世ではカラオケ好きだったし、少し歌ってみる。
「やはりデーン語は古典に似ているわ」
歌っているとよく分かる。会話は未だ初心者だからね。何個か分かりにくい歌詞は家から持ってきたデーン語の辞書で調べておく。これってかなりアツアツなラブソングだよ。他のも弾いたり、歌詞を調べておく。
「キース王子様がお着きです」
召使いに呼びに来られて、慌てて下に降りる。
「キース王子、ようこそ我家にお越し下さいました」
ノースコート伯爵や伯母様が挨拶している。あれっ、ラルフやヒューゴも一緒なんだね。挨拶しあっているね。良家の子息の訪問は歓迎されるんだな。
「今回は私の我儘でノースコート伯爵には迷惑をかける。では、ペイシェンス、早速勉強会を始めよう」
キース王子は簡単に挨拶を切り上げて勉強会へと子供部屋に向かう。ラルフは古典が出来るから、助手に任命しよう。ヒューゴはどうかは分からないな。まぁ、助手2だね。
「キース王子とサミュエルにはデーン語の歌を歌って貰います」
2人で見るようにと歌集を渡したら、ハノンを弾きながら歌う。
「ほら、サミュエルもキース王子も歌って下さい」
後ろから覗き込んでいるラルフとヒューゴも歌う。何回か歌ったら別の歌にする。
「内容は何となく分かるのでは?」
キース王子とサミュエルも頷く。
「だが、これで古典ができるようになるとは思えないのだが……」
キース王子は懐疑的だ。でも、サミュエルは何か掴んだようだ。古典の教科書を読んでみる。
「なるほど、デーン語は古典に近いな。ペイシェンス、もっと歌を教えてくれ」
何個か難しい単語を教えながら、歌を歌わせる。キース王子も苦手意識が強かった古典がさほど苦痛で無くなったようだ。
「歌も良いが、デーン語を習いたい」
それは少し難しいよ。私が習い始めたばかりだもの。
「簡単な挨拶ぐらいなら教科書を持って来ています」
それからは5人で初期のデーン語講座になった。
『私はキース王子だ』
『私はサミュエルです』
ラルフとヒューゴも混ざって楽しくやっているけど、そろそろお茶の時間だ。エバはパンケーキ焼いてくれているかな?
「一度、休憩しましょう」と私から言い出す。サミュエルったら初めは嫌がっていたのに今は楽しそうにキース王子達とデーン語の練習をしている。
「おお、もうそんな時間なのか?」
キース王子達と下の応接室へ向かう。
「あっ、あれはパンケーキだな!」
準備万端でお茶をもてなされる。
「ラルフ、ヒューゴ、食べてみろ。これは美味しいのだ!」
2人もいつもは砂糖ザリザリのケーキには手を出さないが、キース王子に勧められて食べる。
「本当に美味しいです」
サミュエルは元々甘い物が好きだから、パンケーキをペロッと食べた。それにホイップクリームと苺もあっという間に消えたよ。でも、学園に入学して乗馬クラブに入ってから、かなり絞られて痩せているとは言わないが太ってはいないから良いんだよ。私は子どもに甘いショタだもん。
挨拶に顔を出したリリアナ伯母様にキース王子がお礼を言う。
「屋敷に押しかけた上にこんなに美味しいパンケーキまでご馳走になり、ありがとうございます」
良かった! これでリリアナ伯母様も安堵されるだろう。キチンともてなすのは
「キース王子、サミュエル、どうしますか? 大体の遣り方は分かったと思います。後は各自で勉強をしたら良いだけですわ」
キース王子は少し考えて答える。
「前程は古典に対する嫌悪感は無くなったが、これで飛び級できるかは分からない。ペイシェンス、古典が飛び級できたら3年になれるのだ。もう少し教えてくれないか?」
それはラルフにでもできるのでは? と視線をラルフに向けるが、拒否された。これまでも何回となく教えてきたんだね。
「私ももう少し教えて欲しい。それと数学もあと少し教えて欲しいよ」
サミュエルにも頼まれてしまったよ。私の弟達との時間は減るばかりだ。
「ペイシェンス様は教師に向いているのでは?」
ラルフにお世辞言われたけど、誉め殺しは御免だよ。
「ノースコート伯爵夫人、来週の土曜もお邪魔しても構わないだろうか?」
あっ、キース王子、それは卑怯だよ。伯母様が断る訳ないじゃん。
「勿論でございます。いつでも我家にお越し下さい」
やれやれ、来週も土曜は潰れるんだね。悲しいよ。こうなったらビシビシしごくよ。
「では、あと1時間、頑張って文法を学びましょう!」
「なんだかペイシェンス怖いぞ」
当たり前だ! 地獄へようこそ!
古典の教科書をキース王子に音読させる。初めは嫌々やっていたが、そのうちにハッと閃いたようだ。
「なんだ、古典はローレンス語の古い文語体ではないか。少し今とは違うし、デーン語の方が近いけど、元は同じなんだな」
その通りだよ。ペイシェンスもナシウスも子どもなのにサラサラ読んでいたぐらいだもの。嫌い! って拒否していたから分からなかったんだ。
「だから教科書に載っている今のローレンス語と違う文法を覚えるだけで良いのです。後は、どんどん古典を読めば読解力がつきますよ」
サミュエルは音感が天才的に優れているから、古典の教科書を音読すると理解できるのに驚いている。
「まだ分からない部分もあるけど、大体の本の内容が分かるよ。これなら古典で不合格になる事は無さそうだ」
良かったよ。これで自習になるかな? なんて甘かった。
「ペイシェンス、数学も教えてよ」とサミュエルは言い出すし、キース王子は欲張って終了証書が貰いたいなんて事を言い始める。
「それは自分で頑張って下さい」と突き放そうとする。
「ノースコート伯爵夫人はいつでもお越し下さいと言われていたぞ」
伯母様のせいで逃げられなかったよ。ぐっすん!
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