第80話 冬休みの終わり
やっとノースコート伯爵家から帰った。弟達と楽しく冬休みを過ごそうと思っていたのに、あと3日しか残ってない。サミュエルも可愛いけど、やはり
一瞬たりとも離れたく無いと思っているのに、王宮から呼び出された。シクシク
王妃様ってノースコート伯爵家から帰ったの分かったのかな? 王宮から回された立派な馬車であれこれ呼び出された理由を考える。ノースコート伯爵家からの謝礼で馬が飼えないかな? なんて事を考えていたの見透かされたのかも。
同乗しているシャーロット女官に質問したいけど、王妃様に会えば分かる事だ。
王宮に着いた。何故、呼び出されたのか疑問を持ちながら、王妃様に挨拶する。
「ペイシェンス、ここに座りなさい。貴女は中等科に飛び級したのね。マーガレットから聞いてはいましたが、優秀ですね」
お褒め言葉は嬉しいけど、それで呼ばれたのでは無いよね。緊張するよ。王妃様は履修要項を差し出された。中等科になれば単位制だからね。私も何を取ろうか考えているよ。でも、時間割表が無いと決定できないし、マーガレット王女と同じ科目を選択しなきゃいけないから決めれないので放置していた。
「あのう、何か問題でも?」
この履修要項はマーガレット王女のだよね。家政コースのあちこちに丸がつけてある。音楽、ダンスにはバツが付いている。終了証書貰って免除だからだね。
「あの子ときたら、必須の料理、裁縫以外は全部実技は外すつもりなのです」
丸がついているのマナー、外国語、育児学、栄養学、家庭の医学、美容。
「マナーと美容は実技なのでは?」
王妃様が笑う。怖いよ。
「マナーなど今更習う必要はありません。それに美容は簡単な体操や顔の手入れや髪の結い上げ方などの簡単な内容です」
まぁ、マーガレット王女は幼い頃からマナーは教えられているから無用かもね。
「でも、それは誰でも同じでは無いでしょうか。私にとって数学はとても簡単ですが、誰も不公平だとは言いませんわ」
王妃様は少し考える。
「それは確かにそうですわ。でも、私はあの子の楽をしようとする姿勢が気になったのです。リチャードやキースやマーカスと違い、いつかは私の手から旅立つのですから」
確かに王子と違い王女は嫁に行く。嫁入り先で苦労するのを案じておられるのだ。
「私は染色や織物も楽しそうだと思いますが、マーガレット王女様は興味が無いのでしょう。それに、マーガレット王女様がどこに嫁がれたとしても、織物や染色をされる必要があるとは思えませんわ」
そんな心配より、朝起きる心配をした方が良いなんて言わないよ。きっとお付きの侍女が苦労するだけだもの。学園を卒業したら、普通の貴族の令嬢や貴婦人は朝早くから起きたりしない。ノースコート伯爵夫人も朝はベッドで食べていたからね。
「そうね。私は心配しすぎなのかもしれません。学園の事は本人に任せましょう」
そうですよ。だって必須の裁縫と料理だけでも大変そうだもの。
「ペイシェンスはすぐに飛び級できるでしょうが、マーガレットを宜しくお願いしておきます」
あっ、必須の裁縫と料理の面倒を見なくてはいけないんだね。ヤレヤレ
マーガレット王女には秘密だったのか会わなかった。ハノンを弾いた訳でも無いのにバスケットにはたっぷりと卵やバターや砂糖、そして上等な小麦粉も入っていた。
「シャーロット様は家政コースを取られたのですよね。必須科目の裁縫と料理はどの程度を求められているのでしょう」
帰りも同乗したシャーロット女官に質問する。
「裁縫はワンピースやドレスを縫いましたわ。私も料理は苦手ですが、欠席しなければ単位は頂ける筈です」
そっか、料理は欠席しなければ良いのか。なら頑張って出席してもらおう。マーガレット王女は不器用ではない。ドレスを縫う根気が有れば良いのだ。
「何か気をつける科目はありませんか」
シャーロット女官は少し考えて口を開く。
「家政コースは基本的に花嫁修行なので、さほど難しくはありません。私の頃は外国語が習得し難い科目でしたわ。でも、最初の1週間はオリエンテーションなので、そこで難しいと思えば履修届けを出さなければ良いのです。それか、途中で辞めても良かった筈です。他の単位を取れば良いだけですから」
大学のシステムに似ているね。なら、錬金術も授業を受けてみて、できそうに無かったら取らなければ良いだけだ。
「参考になりました。ありがとうございます」
私の場合、必須科目はダンスだけ残っている。でも、家政コースと文官コースの必須も取らなきゃいけないんだね。そこは外せない。時間割表を見なければ取れる科目は分からない。必須を押さえてから、マーガレット王女の選択科目。そして文官コースの選択科目。その後で錬金術かな?
中等科の時間割がどんな風になるのか、頭が痛いよ。この時、私はシャーロット女官が4年前に卒業したのを忘れていた。父親の影響で能力別クラス編成を受け入れたりしていたし、花嫁修行コースと呼ばれる家政コースも微妙な変化をしていたとは知らなかった。
そして、私は異世界の常識に疎い。何故、王妃様が不安を感じて私を呼び出されたのかピンと来ていなかった。マーガレット王女は14歳になられる。王女様は政略結婚されると知っていたのに、その意味が未だよく分かっていなかった。マーガレット王女様には彼方此方から縁談が舞い込んでいたのだ。
冬休みが終わり、私は寮に行かなくてはいけない。私は弟達との別れが悲しくて、親戚との関係改善できたのは良かったが、もっともっと一緒に勉強したり遊んだりしたかったと悲嘆に暮れていた。
「お姉様、乗馬教師が火曜、木曜だけでなく日曜も来てくれることになりました。お姉様も乗馬訓練が続けられますね」
そんなショックな事を嬉しそうにナシウスが伝えてくれる。意外だけどナシウスは乗馬訓練が好きみたいだ。それに剣術訓練もヘンリーには負けるが、サリエス卿の指導でメキメキと腕をあげている。どうやら王立学園の体育で落ちこぼれることは無さそうだ。
「それは知りませんでしたわ」本当に!
「これでお姉様も馬に乗れるようになりますね」
ヘンリーの笑顔が眩しすぎるよ。私が乗馬が嫌いだとは少しも思ってないのだ。
「ええ、そうですね。私だけでなくお父様にも馬に乗って貰えば運動になると思いますわ」
父親を巻き添いにしよう。書斎に篭ってばかりでは健康的では無いからね。免職の理由は立派だったけど、やはり働いて欲しい。その為には体力を強化しておきたい。
「そうですね! 今度、馬術教師が来たらお誘いします」
ナシウスは意味が分かったみたい。父親がずっと書斎に篭っているのは不健康だものね。
「やったぁ! 父上と馬に乗るんだ」
ヘンリー、いつまでも純真な心でいてね。
2人にキスをして馬車に乗る。ああ、後1週間も会えないのだ。悲しいよ。
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