第46話 青葉祭 ダンス会場

 キース王子に強引にダンス会場に連れて行かれた。

「マーガレット姉上がおられる」

 広い会場は花で飾られていて、生演奏で十数人が軽やかなダンスを披露している。

 会場の端には椅子が置いてあり、マーガレット王女も学友達と座っていた。何か怒っているみたいで、近づきたくない雰囲気だ。なのに、そんなの気づかないのか、キース王子は真っ直ぐに向かう。

「姉上、ペイシェンスと学生会の手伝いを終えました」

 キース王子達と別れたら、マーガレット王女に寮に帰って良いとの許可を貰おう。

「まぁ、キース、お疲れ様でしたね。さぁ、踊っていらっしゃい」

 キース王子がその場を離れるのを少し待っていたが、やはり3番目の新曲発表会はコーラスクラブと揉めたようだ。

「本当に音楽への愛があれば、時間が少し延びたぐらい待てば良いのです」

 マーガレット王女の音楽愛は深い。でも、時間は決まっているんだよ。

「本当にコーラスクラブなんて廃部にすれば良いのですわ」

 キャサリンは強気の発言だ。決まりを守らなかった音楽クラブが廃部になっても知らないよ。

「昔からの歌をコーラスするだけだなんて、クラブの意味があるのかしら?」

 いつもは寡黙なリリーナも怒っている。珍しいね。

「ソロも下手くそでしたわ」

 ハリエットは甘い雰囲気なのに、やはり一番きついな。

 クソ味噌な悪口大会で、口を挟む間がない。あっ、4人にダンスを誘いたい様子の男子達も近づきにくそうだ。キース王子ぐらいだよ。この暗雲に気づかないで近づくのは。

 だが、騎士クラブの目当ての男子に気づいて、ハリエットが口を閉じて微笑む。

「皆様、パーシバル様ですわ」

「まぁ、いつも素敵ですわね」

 リリーナは頷いている。視線の先のパーシバルを見てみる。確かにハンサムだ。だけど優勝はエリック部長だった筈だよね。

 3人がお淑やかに微笑みだしたので、暗雲は去った。

「マーガレット王女、一曲、お付き合い願えますか?」

 パーシバルと席を立ったマーガレット王女を3人は少し残念そうに見送る。でも次々と誘う男子が来て、フロアで踊り始めた。

『よし、マーガレット王女が席に帰った瞬間に、部屋に下がる許可を得よう!』

 タイミングを見計らっていたのに、逃してしまった。

「踊ろう」

 キース王子が壁の花の私に同情して誘いにきたのだ。

「私はダンス苦手ですから」

 遠慮したと思われたようだ。

「そのくらい知っている。だが、姉上の側仕えはダンスぐらいできないと困るぞ。パーティにも同行しなくてはいけないのだ」

 そんな時まで側仕えが決定なのかとうんざりする。

 キース王子はダンスが上手だ。きっと王宮にはダンス教師がいるのだろう。

「もう少し練習すれば、上手くなるだろう。次はラルフ、踊ってやれ」

 えっ、私は部屋で内職したいのですが……でも、上手い相手とのダンスは楽しいね。ステップは覚えたし、リードが上手ければ楽勝だ。

 キース王子やラルフやヒューゴ達と何回か踊って、やっとマーガレット王女が休憩しているのをつかまえた。

「そろそろ部屋に帰ろうかと思っているのよ」

 あれっ、もう夕食の時間だ。そんなに踊っていたんだと驚く。

「私もそうしようと考えていました」

 マーガレット王女と寮に帰る。ダンス会場は、まだまだ賑やかだけど、疲れたよ。

「ペイシェンス、ダンスが苦手だと言っていたけど、上手に踊れていたわ」

 褒めて貰って嬉しいが、そのままでは済まない。

「ダンスももう少し頑張れば終了証書取れそうね。時間が余れば新曲をもっと作れるでしょうから」

 どこまでも音楽愛のマーガレット王女だ。しかし、リード次第のダンスでは終了証書は貰えそうにないのは確かだ。

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