第45話 青葉祭 錬金術クラブ

「失礼します」と学生会室を去ろうとしたのにキース王子に呼び止められる。

「ペイシェンス、1人で青葉祭も寂しいだろう。一緒に回ろう」

 いつもマーガレット王女と一緒なのに、1人だと可哀想だと思われたのだろうが、余計なお世話だ。

「いえ、大丈夫です」

「遠慮は無用だ。さて、何処から回ろうか?」

 遠慮ではなく、本心から断っているのだが、キース王子は聞く耳を持たない。

「そう言えば、マーガレット姉上が音楽クラブの新曲発表会が素晴らしいと言っておられたな。講堂に行こう」

 多分、キース王子なりに気を使ったのだろうが、3番目は何となくコーラスクラブと揉めそうな予感がするので近づきたくない。

「キース王子は音楽クラブの発表会にどうぞお向かい下さい。私は何回も練習で聞いておりますから、他を回ります」

 頭の中でペイシェンスが『失礼だ!』と騒いでいるが、揉め事からは距離を置きたい。

 火中の栗なんかを拾いたくないんだよ。でも、焼き栗は美味しそうだな。なんて現実逃避しているのは「なら、一緒に回ろう」とキース王子が騎士道精神を発揮してついてきているからだ。

「何処の発表を見るのだ?」

 ぞろぞろとお供付きのキース王子と一緒だと目立つから嫌なんだけど、こうなったら目的だけは達成したい。

「錬金術クラブの発表です」

 キース王子が変な顔をする。多分、美術クラブとか手芸クラブあたりを想像していたのだろう。

「やはりお前は変わっているな。それに来年は中等科に飛び級して、家政コースと文官コースを取るのだろ? まさか魔法使いコースも取るのか?」

 ラルフとヒューゴは中等科飛び級や2コース選択も知らなかったようで驚いている。マジ、キース王子余計な事は言わないでよ。

「まさか、錬金術は興味があるだけです」

 キース王子は「やはり変な女だ」なんて失礼な事を言っている。

「ペイシェンス、2コース選択だなんて、そんなのできるのか?」

 ヒューゴは心配そうだ。

「何を言う。兄上は騎士コースと文官コースを取っておられる。私も見習うつもりだ」

 ラルフとヒューゴは「本気ですか?」とキース王子を問いただしている。学友の2人も2コース選択しなくてはいけなくなるかもしれないのだ。私の事なんかにかまっていられない。

「あっ、ここが錬金術クラブですわ」

 誰も見学客は居ないので、少し入りにくい。

「さっさと見て、ダンス会場に行くぞ」

 ダンス会場? 私はパスする予定なんですが……

「あっ、見学ですね?」

 錬金術クラブメンバーに見つかった。いや、見学したかったから良い筈なんだけど、何となく逃げ出したい気分だ。王立学園の制服の上に白衣を羽織っているが、凄く汚い。生活魔法で綺麗にしたいレベル。

 おっ、ラルフとヒューゴがキース王子の前に立って警護体制になっているよ。

「ええ、見学です」

 腰の引いている男子3人から『マジで見学するのか?』という視線が送られたけど無視。だって、説明するメンバーはマッド・サイエンティストぽいけど、展示品には興味があるんだ。

「これはもしかして扇風機ですか?」

 箱の中で3枚の扇が回って、風が少し来ている。

「そうだよ。よく分かったな。もしかして錬金術クラブに入りたいのか」

 ガバッと両手を掴まれた。ヒューゴが「放せ!」と助けてくれた。

「私は音楽クラブに入っていますし、まだ錬金術を習っていませんから無理です」

「錬金術に興味があるなら、教えてやろう。授業より実践が大事だぞ」

 部屋の隅で座っていたクラブメンバーもやってきて勧誘する。

「そうだ! 錬金術ほど社会に貢献できるクラブはない。それに、新たな魔道具を開発できたら、特許も取れるぞ」

 特許! お金が稼げる。

「本当に素人でも錬金術ができますか?」

 私はかなりグラッときた。

「おい、本気か? 姉上に相談して決めた方が良いぞ。ここは変人の集まりだ」

 キース王子に注意されて、少し頭が冷めた。お金に弱いのは欠点だね。特許なんてそうそう取れないよ。

「入る気になったら、放課後は月曜から金曜までずっと錬金術クラブにいるから来てくれ。私はカエサル・バーンズだ。部長をしている」

 展示品は扇風機のバージョン違いばかりだったので、見学を終えて廊下に出た。

「お前、あんなクラブに入ったら嫁の貰い手無くなるぞ」

 キース王子に呆れられた。

「嫁に行く気はありませんから結構です」

 3人に呆れられた。あっ、可愛いな。10歳はショタコンの私にはジャストタイプだ。いや、手は出しませんよ!

「嫁に行かない? もしかして修道女になるのか? 生活魔法で修道女になれるのか」

 キース王子に心配されたようだ。

「修道女になる気はありません。働くつもりです」

 キース王子は「姉上の側仕えだものな」と納得しているが、それは遠慮しておきたい。

「一生、マーガレット王女に仕えるのか? だがご結婚されたら、どうするのだ?」

 ラルフにも心配された。王子は王様が退位されても王弟になるだけだが、王女は嫁入り先で変わる。

「外国に嫁がれる可能性もあるのだぞ」

 ヒューゴも心配そうだ。そんなに一生奉公の心配をしてくれなくても、する気無いですから。

「いえ、側仕えではなく、働くつもりです」

 3人にまたしても呆れられた。

「やはり、お前は変だ。だが、錬金術クラブになんかに入ったら余計に変になるからやめておけ。さぁ、ダンス会場に行こう」

 さっさと歩き出す3人の後ろから声を掛ける。

「私はダンスはやめておきます」

 夕食まで寮でハンカチの内職をしておこうと思ったのに、連れていかれた。

「パートナーが居なくても大丈夫だ」

 あれっ、皆んなパートナーがいるの? 勉強とマーガレット王女の側仕えで忙しくて、そんなの知らなかったよ。本気で行きたくないよ。

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