第44話 青葉祭 馬が逃げたよ

 キース王子は、凄く張り切って乗馬クラブに向かう。簡単な仕事だと思っているのだろう。そうだと良いな。

「うちのクラブの馬ではない。それはハモンドにも言った筈だ。乗馬クラブが馬を逃す筈がないだろう」

「では、第二グラウンドにいる馬は何処から来たのだ?」

 乗馬クラブメンバーにキース王子は鼻であしらわれる。ラルフやヒューゴはキース王子の後ろで黙っている。

「そんなの知りませんよ。今日は来客も多いから、その馬ではないでしょうか?」

 でも、そんなの変だ。大男のジェフリー部長は脳筋では無い。乗馬クラブの馬だと言ったのには根拠がある筈だ。

「では、一応、乗馬クラブの馬では無いことを確認して下さい。そうすればこれ以上煩わせませんわ」

 うちの馬では無いと文句を言いながも、ジェフリー部長に怒鳴り込まれるのには辟易としていたので第二グラウンドにまで来てくれた。

「なんて事だ。この馬はうちのだ。どうしてこんな事に!」

 パニックになって馬を追いかける。馬は追いかけられると逃げる動物だ。普段は馬の扱いに慣れているのだろうが、今は捕まえられそうにない。キース王子やラルフ、ヒューゴにまで追いかけられ、大暴れしている。

「大人しくしなさい!」

 生活魔法を唱えてみる。異世界では馬も生活に必需品だからか、効いた。

「逃がさないで下さいよ」

「当然だ」

 大人しく私の前に来た馬は大きくてどうしようかと困っていたら、流石は乗馬クラブだ。鞍も無いのに、ヒョイと飛び乗った。

「此奴は乗馬試合に出ない控えの馬だ。1頭だけ逃げたわけでは無いだろ。手分けして探さないと!」

 乗馬クラブメンバーは馬に乗って、探さなければと去っていった。

「やはり、乗馬クラブの馬だっただろ」

 ジェフリーは満足そうに頷いて「さぁ、試合開始だ!」と吠える。地声が大きいのはグラウンドでは良いのかもしれないが、隣にはいたくないね。

「お前、さっき何をしたんだ?」

 学生会室に帰りながら、キース王子に尋ねられた。

「ただの生活魔法です」

 ヒューゴが「そんなこと無いだろ」と文句を言っている。この子も相変わらず突っ込む癖があるね。

「ヒューゴ、他人の魔法の技を尋ねるのはマナー違反だよ」

 ラルフ、ありがとう。そう、私の生活魔法は少し変なんだよ。

「そうか、ペイシェンスは魔法実技の終了証書を貰っていたのだな」

 キース王子が変な納得をしているので、ヒューゴも黙った。


「兄上、ジェフリー部長の言う通り、乗馬クラブの馬でした。メンバーが第二グランドの馬は連れて行きましたが、控えの馬が他にも逃げたかもしれません」

 キース王子の報告に、リチャード王子は溜息をついた。

「どうやら、乗馬クラブの控えの馬が何頭か逃げ出したようだ。他のクラブからも苦情が来ている。控えの馬を来客用の馬場に入れていた乗馬クラブのミスだが、捕まえるのを手伝ってやれ」

 午後は馬を探しては「大人しくしなさい!」と唱え、キース王子やラルフやヒューゴに捕まえて貰って過ごした。私は、手綱も付いてない馬なんか捕まえられないよ。

「ありがとうございます。これで最後の馬です。こんな手違いは二度とさせません。後で学生会長には始末書を提出します」

 乗馬クラブのダニエル部長に感謝されて、やっと馬探しから解放された。


 学生会室に帰ると、前ほど人がいなかった。

「兄上、逃げた馬は全頭捕まえました。ダニエル部長が後で始末書を提出するそうです」

 キース王子ってちゃんと報告できるね。なんて少し見直す。

「キース、ラルフ、ヒューゴ、ペイシェンスよく手伝ってくれたな。後は学生会のメンバーだけで大丈夫だ。残り少ないが、青葉祭を楽しんでくれ」

 やっとリチャード王子から学生会の手伝い終了許可が出て、ホッとする。ペイシェンスは縄跳びとかで体力強化をしているけど、男子について歩くのに疲れていたからだ。

 劇が観れなかったのは残念だけど、まだ錬金術の発表は見れそうだ。

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