第47話 期末テスト

 青葉祭で浮かれていた学園だが、6月の期末テストの範囲が発表されると落ち着きを取り戻した。

 私は週末の家庭菜園で忙しくしている。苺も時期外れになったので、トマトやナスやキュウリを温室に植える。(ジョージがね)

「大きくなれ!」生活魔法で大きくする。だって、まだ食料品店にはトマトやナスやキュウリは並んでない。つまり、高いのだ。あっ、もう街歩きはしてないよ。食料品を買うエバに聞いたんだ。メアリーを見るのが辛いのが堪えたからね。

「半分は家で食べましょう。でも、後は売るわ」

 前世の英国貴族がキュウリのサンドイッチをお茶に出していたのは、キュウリは温室が無いと栽培できないから高価だったからなんだよ。つまり、キュウリは高く売れるんだ。やったね!

 それに裏庭の豆やキャベツや芋や人参も収穫する。これは少しだけ弟達と手伝う。

メアリー的には賛成できないが、楽しいことは許容範囲みたいだ。

 これは売らないよ。保存できるし、キャベツは酢漬けも作るからね。

 収穫を終えた畑に,コンポストの肥料を混ぜる。(コンポストはジョージが作ってくれた)本当に生活魔法が使えて良かったよ。畝まで作り終えたら、ジョージに豆や芋やトマトを植えて貰う。これからの季節なら地植えのトマトもできそうだ。

 果樹にも「大きくなれ!」と魔法を掛けておく。花が付いたから実もなると期待したい。

 表庭の薔薇も手入れしておく。月に1、2度、王宮に連れて行かれ、送って貰ったりしているから、あまりに殺風景だと恥ずかしいからね。それにペイシェンスも嬉しそうだし。

「期末テストが終わったら、夏休み! ずっと弟達エンジェルと一緒なんだわ」

 数学の終了証書以外は問題ない。それもかなり勉強済みだ。なので、週末は昼は家庭菜園三昧、夜は内職三昧だ。

「夏って素敵ね! 夕方も明るいもの」

 蝋燭の節約にもなる。でも浮かれていてはいけない。また厳しい冬が来るのだ。二度と寒さと飢えは御免だ。

「ワイヤットに薪を買って貰わないと……馬は遠いわ」

 青葉祭で乗馬クラブのメンバーだけでなく、キース王子達も馬に慣れていた。このままじゃ、ナシウスは体育で落ちこぼれてしまう。男子で体育が苦手なのは肩身が狭くなりそうだ。

 食料と薪が最優先なのは仕方ないけど、もっとお金が欲しい。

「錬金術クラブで特許とか取れたら良いのだけど……」

 マーガレット王女に錬金術クラブに入りたいと言ったら難しい顔をされた。

「あんな変人クラブに入る時間があるなら、ダンスの終了証書を取る為に努力したり、新曲を作ったら?」

 私も錬金術を授業で習ってから、クラブに入ろうと決めた。錬金術師にはなれる人となれない人がいると、屋敷の本で読んで知ったからだ。

「金属加工の魔法は、火と土なのよね。水も使えるとやり易いのか。私は生活魔法だけだもの」

 でも、少しチートな生活魔法だからできるかもしれない。来年、中等科に飛び級できたら授業を受けてみよう。


 期末テストは楽勝だった。まぁ、小学校高学年から中学程度だからね。数学は私だけ別室で中等科3年のテストを受けた。多分、全問解けたと思う。計算ミスも何回か見直したから大丈夫だ。エステナ神、合格していますように!

 テスト返しが始まり、ほぼ満点だった。

 数学の終了証書も貰えたよ! 国語や歴史や古典や魔法学も終了証書が欲しくなった。前はペイシェンス頼みだったけど、今は自分でもできる。

 来年は2コースだから忙しくなる。でも、必須科目が免除だと楽になるんだよね。内職、もっと頑張って馬を買いたい。だってナシウスも9歳になるんだもん。誕生日にはバースデーケーキに挑戦だ。(エバがね)丁度、今日は王妃様に呼ばれているから、卵とか材料が貰える筈だもの。


 そんな勝手な事を考えていた罰が当たったのだろうか。

「ペイシェンス、夏の離宮に一緒に行きましょう。それならマーガレットも楽しめるわ」

 いつもと同じ様に金曜の美術が終わったら、王宮からゾフィーが迎えに来た。私も一緒に王宮に向かうのも同じだし、ハノンを弾くのも同じだった。

 美味しいお茶をいただいていたら、ビクトリア王妃から爆弾発言が出た。

「お母様、ありがとうございます。ジェーンは幼いから退屈だと思っていましたの」

 断りたい。だって夏休みは弟達と過ごすのだ。それに夏に畑で冬の食料を育てなくてはいけない。

 勇気を振り絞って断ろうと王妃様を見た。あっ、断っては駄目なんだ。王妃様の目を見た瞬間に分かった。王妃様といい、マーガレット王女といい、目で指図するんだよ。言葉ならあれこれ言い訳できるけど、視線には逆らえない。

「ありがとうございます。父と相談してお返事を致します」

 満足そうにビクトリア王妃は微笑んだ。グレンジャー子爵が断らないのを知っているからだ。

「離宮での生活で必要な物は、こちらで用意しますから、何も心配いりませんよ。侍女を連れて来たければ、同行しても良いです」

 家にはメアリーしかいないなんて王妃様は考えてもいないのだ。

「父と相談します」

 あっ、夏休みだから制服では無いんだ。えっ、もしかして夕食とか一緒に食べるの? 王様も? ジェーン王女やマーカス王子と子供部屋で食べたい。でも、全てはビクトリア王妃の考え次第だと諦めた。

 王宮の立派な馬車の中で、父親が断ってくれたらなぁと思う。でも、それは有り得なさそうだ。

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