第27話 終了証書を取るには
あれこれ気を使う昼食を終えて、ホッとする。午後からは歴史の時間だ。
クラスに帰って、2年の歴史の教科書をざっと読む。国語と同じくペイシェンスなら楽勝だ。私でも少し勉強すれば合格できそう。
でも、飛び級は1年に1度だけなんだよ。それに飛び級は上の学年の授業を受ける許可でしかない。魔法実技みたいに終了証書を取らないと、グレンジャー家の生活改善の為の時間が取れないのだ。
マーガレット王女の側仕えに思ったより時間を取られるのが痛い。本当にルイーズが寮に入って側仕えを代わってくれると良いのに。
歴史は飛び級した1年生はいなかった。キース王子とルイーズがいないと、何となくホッとする。
真面目に授業を受けて、終わったら図書館へ向かう。魔法実技がパスできるのは嬉しい。この時間を使って、中等科3年の勉強の範囲を調べたい。
「人がいないのね。そうか、授業中なのだわ」
空いているのは好都合だ。特に数学の中等科の範囲を調べているのは生意気だとか思われると厄介だもん。
「教科書は図書館には無いわよね。参考書とか有れば、大体の内容がわかるのだけど……」
学習に役立つ本とか無いか、背表紙を読んで探すが、そう上手くは見つからない。こんな時は司書さんに聞こう。
「すみません。中等科3年の数学の参考書は無いでしょうか?」
デスク越しに司書は不思議そうな顔をして私を見る。ペイシェンスは栄養が足りなくて1年生としても小柄だ。そんな子どもが中等科の参考書を探すなんて変だと思ったのだろう。でも、ちゃんと教えてくれた。
「中等科3年の数学の参考書なら、ここら辺に置いてあります」
その棚全体に参考書が置いてあった。数学は高校以来だ。つまり、かなり忘れている。1冊、手に取ってパラパラとめくってみる。うん、数Iぐらいだね。きっと、大学になったら難しくなるんだろう。少し復習すれば終了証書が取れそうだけど、それってどうやって取るのかな? ケプナー先生に訊きに行こう。
本当なら勉強してから尋ねれば良いのだけど、私は無駄な努力はしたくない。飛び級でがっかりしたのが、かなりショックだったのだ。
中等科に飛び級できるかも聞いておこう。参考書を1冊借りると、職員室に向かう。
『なんで職員室って入り難いのかな?』
前世の頃から職員室が苦手だった。別に悪い事したわけでもないのにね。
「失礼します」と声をかけて、職員室に入る。ケプナー先生は、宿題の添削をしていたが、私に気づいて手招きする。
「ペイシェンス、そうか魔法実技は終了証書を貰っていたんだな。それで、何か質問があるのか?」
やはりケプナー先生は話しやすい。
「あのう、終了証書はどうすれば取れるのでしょうか?」
少し驚いた様に目を見張る。ナシウスなら可愛いけど、私はおじ様趣味は無い。
「ペイシェンスは優秀だからな。何の科目を取りたいのかな? でも、中等科3年までの範囲になるから、かなり難しいぞ」
「数学の終了証書を取りたいと思っているのですが、どうすれば取れるのか分からなくて」
ケプナー先生は、ハッと何か思いついた様に手で机を叩いた。何? 驚かさないでよ。
「そうか、君はウィリアム・グレンジャー子爵の娘さんなんだな。それなら簡単な数学は退屈だろう」
えっ、何? 家の父親ってそんなに有名な学者だったの? 免職になって、書斎で新聞と本を読んでいる姿しか知らないんだけど。
「終了証書は、期末テストの時に優秀な成績を取れば良いのだ。中等科3年の期末テストを受けなくてはならないから、初等科の君が受けるのは目立つだろう。数学の先生と相談しておくよ」
「ありがとうございます。1年勉強しておきます」
1年後かぁ、それまでは魔法実技しか免除されないんだなと溜息を押し殺す。
「いや、1番早いのは春学期の期末テストだよ」
「えっ、でも春学期では中等科最後まで勉強していないのでは無いですか?」
試験範囲が春学期までで終了証書を出して良いのだろうか疑問だ。
「なに、最後の大問は、中等科の範囲を理解できないと解けない問題を作っているのさ。それは他の科目でも同じだよ」
なるほどね!
「それに習得済みの授業を受けるより、他の勉強をした方が良いからね」
うっ、嫌な予感がする。飛び級しても、無駄だったトラウマが蘇る。
「あのう、終了証明を貰ったら、授業はないのですね」これ大事。
「ああ、初等科はスケジュールが決まっているからね。中等科なら興味のある授業を取る事もできるのだけど」
なんでそんなに残念そうなんだろう。中等科ながれで質問しておこう。
「来年、3年生になった時、中等科に学年飛び級できるのでしょうか?」
「理屈上では可能だよ。初等科の内容を習得済みの学生を中等科に飛び級させないなんて時間の無駄だからね。でも、難しいぞ。そうだ、初等科3年の教科書をあげよう。それと、中等科の数学の教科書もね」
ケプナー先生、めっちゃ良い人! でも、凄く重たいんですけど。
ケプナー先生の古典の教科書は手元にあるけど、他の科目のは知り合いの先生に頼んでくれた。
そう、数学は前の担任のヘイガン先生だったよ。
「終了証書に挑戦するのか、頑張れ!」と檄を飛ばされちゃった。
「ケプナー先生、ヘイガン先生、ありがとうございます」
二人はフッと笑った。
「いや、グレンジャー子爵には教育界は恩を感じているから。それに勉学に励む学生を応援するのは教師の役目だよ」
「ペイシェンス、数学で分からない所があれば、質問に来なさい」
家の父親って何をしたんだろう。調べてみたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます