第26話 |上級食堂《サロン》にて

『カラ〜ン、カラ〜ン』

 国語の授業が終わった。これはペイシェンスには楽勝だけど、私だけだとまだ勉強が必要みたいだ。来年、3年生になる頃迄にはペイシェンスに頼らなくても飛び級できるようになろう! なんて現実逃避しても無駄だよね。

 重い足取りで上級食堂サロンへ向かう。この階段上がるの初めてだとか、色々考えたりするけど、視線が痛いよ。

「ペイシェンス、遅かったわね」

 マーガレット王女に手招きされるけど、そこって王族の席では? 私はマーガレット王女とその学友の上級貴族の令嬢方と食べるのだと思っていた。上級食堂サロンに来るの初めてだから、知らなかったんだよぉ!

「遅くなって申し訳ありません」

「さぁ、座りなさい」

 ここの食卓にはテーブルクロスがあるんだね。下の食堂や寮の食堂には無かったよ。家も夕食の時はテーブルクロス敷くんだよ。リチャード王子とキース王子と同席の緊張を紛らわせようと、現実逃避していたら、給仕がメニューを差し出した。メニュー、あるんだ。

「私はステーキにしよう」

 リチャード王子、即決だね。キース王子も早い。

「ステーキ」お兄ちゃんの真似かな?

 マーガレット王女はゆっくりと読んでいる。メニューと言っても、選べるのはメインだけのようだ。何だって、魚があるよ! 転生して初魚。これに決めたけど、マーガレット王女が決めるのを待つよ。側仕えが先に選ぶのは駄目だよね。

「ほろほろ鳥のポアレにしますわ。ペイシェンスは何にするの?」

「魚のポアレにします」

 メニューを給仕に渡していたら、キース王子が変な顔をしてる。

「魚なんて食べる奴がいるなんて信じられない」

 えっ、魚って美味しくないのかな? ロマノは内陸だから魚はなかなか食べられないのは知っていたけど、不味いとは知らなかった。今日はメニュー選び失敗したかなとがっかりする。

「ペイシェンス、法要か何かなの?」

 マーガレット王女も変な顔をしている。

「いえ、このところ魚を食べたことが無かったので、食べてみたいと思っただけです」

 ちょっと恥ずかしいよ。でも、ペイシェンスの記憶をググっても、微かに母親に食べ方を教えて貰っているシーンしかない。

 前菜は野菜のゼリー寄せだった。おしゃれだよね。でも、キース王子は野菜も嫌いらしい。残そうとしたのをリチャード王子に咎められていた。

「野菜も食べなさい。お前が好き嫌いするのを案じて、母上が一緒に食べる様に言われるのだ」

 あっ、なるほどね。キース王子の取り巻きが注意するとは思えないもの。リチャード王子やマーガレット王女に任されているんだ。

 スープはコンソメだった。家と違って前菜とかメインディシュとかあるから、具が無くても良いんだ。ペイシェンス仕込みの上品な仕草でスープを飲む。

「キース、ペイシェンスを見習いなさい」

 リチャード王子に叱られて、不貞腐れてスプーンの音を立てたキース王子に、マーガレット王女の注意が飛ぶ。私を巻き込まないよう、お願いします。フンって感じだよ。そんな態度だとリチャード王子に威圧されるよ。ひやひやしながらの昼食だ。

 リチャード王子、キース王子にステーキ、マーガレット王女にほろほろ鳥のポアレ、そして私の前には魚のポアレ!

 あっ、魚って食べるマナー面倒くさい。ペイシェンス頼みで、一口。

「美味しい!」涙が出そうだよ。異世界に来て1ヶ月半、初めての魚。 

「本当に美味しいの?」

 マーガレット王女に「ええ」と応えて、2口目。やはり美味しいよぉ! バターの塩気とレモンがばっちり。

「変な奴!」キース王子の悪口なんか聞こえないよ。

「明日は魚にしてみようかしら」

 マーガレット王女に呆れられた。

「そうだな、そんなに美味しそうに食べられたら興味がでるな」

 リチャード王子、そんなに美味しそうに食べてましたか? 一応、ペイシェンスのマナー通りに食べていたつもりなんですが。

「兄上、姉上、騙されてはいけません。きっとペイシェンスは何を食べても美味しく感じるのでしょう」

 貧乏貴族だからと暗に言われた。でも、事実だから平気だよ。キース王子が想像もつかないほど貧しいからね。でも、このままではリチャード王子の威圧が出るよ。

「ええ、その通りですわ。前に食べた魚の何倍も美味しかったです」

 皿を下げに来た給仕に「シェフに魚がとても美味しかったと伝えて下さい」と笑顔で言う。

「そんなに美味しかったのか。では、明日は私も魚を頼むとしよう」

 やれやれ、リチャード王子の気が逸れて良かったよ。異世界に来て、これも初のスイーツなのに、横で威圧とかやめて欲しいもの。

 家の夕食でもデザートは出るよ。でも、まだ甘味までは手が届かない。春になったら苺とか温室で育てたいな。あれっ、温室なら育てられるかも?

 期待で浮き浮きしながら、大人しく口を閉じて待つ。側仕えは出しゃばっては駄目だもの。

 他のテーブルより先にデザートが出た。目の前には四角い固まりが、ドンと鎮座している。

 メニューにはケーキと書いてあった。前菜やスープ、それに魚のポアレはあれほど美味しかったのに……異世界のスイーツは要改善だ!

『甘い!』私は転生してからスイーツに飢えていた。なのに、この砂糖の固まりみたいなケーキは無いよ。でも、頑張って紅茶を飲みながら完食しました。ペイシェンスはガリガリだから、少し太る必要があるもん。

「こんな甘い物よく食べるなぁ」

 あっ、やはり異世界でもこのケーキは甘すぎるんだね。スイーツ屋とかしたら金儲けできるかな? でも、砂糖や卵を買うお金も無いし、お店を開く資金など何処にも無いよ。

 キース王子だけじゃなくリチャード王子も手もつけてない。そりゃ甘すぎるけど、勿体ないな。

「お前、欲しいのか?」

 正直、弟達に持って帰ってやりたいよ。これだけ甘ければ、土曜までもつよね。思わず「欲しい」と言いかけたけど、ぐっと我慢した。グレンジャー家は貧乏だけど、誇り高いの。お土産なら自分のを残してもって帰るよ。

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