第7話 教会で能力チェック

 毛布のお陰で、ペイシェンス式の寝方でも、夜中に目が覚めることなく眠れた。というか、この寝方をやめられないのかしら。どうも、思考もお上品になってきている。ペイシェンスに侵食されているのかしら。

「でも、何とかしなくてはね」

 まだ、グレンジャー家の生活改善をしようという熱意は残っててホッとする。これは、異世界転生? 憑依にしても、かなり変なんじゃないかな?

 いつもの如く、薄いスープとパンを食べて、部屋でメアリーを待つ。だってメアリーにとっては大事なメイドとしての仕事みたいだもん。下女の仕事ばかりじゃ、嫌になるよね。

「お嬢様、お待たせいたしました」

 青いドレスを持ってメアリーがやってきた。サイズをなおしたんだね。

「お似合いですわ」と褒めてくれるが、ドレスに着られている感がする。肩とか詰めてくれたけど、全体に大きい。

「髪も、このドレスの共布で飾りましょう」

 いそいそと青い布で作ったリボンを鏡台に置くと、丁寧に髪をとかす。子どもなので髪は結わない。昨晩の私がしたハーフアップに近いけど、上げる髪の一部を編み上げたり、なかなかメアリーの腕は良い。

「ユリアンヌ様にもお見せしたかったですわ……」

 青いリボンを髪に飾り、メアリーは満足そうに涙ぐむ。どうやら、メアリーは母親が嫁ぐ前からメイドとして仕えていたようだ。でも、そんなに褒める程でもない。ペイシェンスの素材は悪くないのだけど、ガリガリ過ぎなの。

「さぁ、子爵様をお待たせしてはいけませんわ」

 ぱつんぱつんのコートを着る。メアリー的には折角のドレスが台無しで腹立たしいようだけど、やっと暖かくなってホッとする。

『そう言えば、玄関から出た事なかったなぁ』

 ペイシェンスになって初外出だ。貧乏とは思えない立派な玄関扉をワイヤットが開けてくれる。数段降りると、そこには馬車が! こんなに貧乏なのに馬車があるの?

 父親が王宮に勤めていた頃は、毎日、馬車で出かけていた記憶が蘇る。馬車にはグレンジャー家の家紋・ペンと本が付いていた。グレンジャー家らしい家紋だよね。

「さぁ、ペイシェンス乗りなさい」

 父親にエスコートされて、初馬車だ。本当に父親って礼儀正しくて、そこは高評価だけど、これで生活力があればねぇと溜息を押し殺す。侍女としてメアリーも一緒に馬車に乗る。令嬢は侍女を伴うものらしい。

 使用人が少ないグレンジャー家では、馬車を操る馬丁などいない。下男のジョージがいつもと違い、馬丁の制服を着て馬車を走らせる。

 王都ロマノに住んでいるのはペイシェンスの記憶で知っていた。街並みは、どうやら貴族街みたいで大きなお屋敷が並んでいる。

 グレンジャー家の屋敷を売って、もっと庶民的な街に小さな家を買えば、もう少しマシな暮らしができるのでは無いか? と思うけど、屋敷を売るとか娘が口出せる事では無さそうだ。私のできる事で生活改善しなくてはいけない。この辺、もうペイシェンスの『駄目!』攻撃がなくても分かってきた。

 教会は荘厳な灰色の建物で、外は細かい彫刻がびっしり付いていた。昨日『エステナ教について』は斜め読みしただけだけど、きっと正面に立って居る二人は有名な聖人だ。メアリーにコートを脱がせてもらう。ぱつんぱつんだから、脱ぎにくい。メアリーはシワになったドレスを手でなおす。その間に父親もコートを脱いで、メアリーに持たせる。メアリーは入口付近で待っているみたいだ。

「さぁ、入ろう」父親にエスコートされて教会に入る。

「まぁ、綺麗!」

 朝の日がステンドグラスから入り、外側の荘厳さとは違い、青や緑や黄色の光に満ちていた。

「お前に光の能力があれば、修道女になれるのだけど」

 修道女? あまりピンとこないし、なりたいと思わないけど、もしかして持参金が払えないのを心配しているの? これから、弟達に教育もつけなくてはいけないのだ。お金は必要だ。私は学園に行かなくても良いのだけど、なんて考えているうちに教会の中を進んでいく。

「グレンジャー子爵、ようこそお越し下さいました」

 事前に執事が連絡していたらしく、祭壇の前に修道士らしき人が待っていた。

「ヨハン司祭、こちらが私の長女ペイシェンスだ。能力判定をお願いする」

 白い長服の襟や袖には錦糸の刺繍がある。はっきり言って、家より豊かそうだ。

 横から、刺繍などない長服を着た修道士がゴロゴロと台を押してきた。その台の上には黒の天鵞絨が敷いてあり、一枚の円盤が大事そうに置いてあった。

「さぁ、手を円盤に置いて下さい」

 ヨハン司祭に言われ、父親にも「ペイシェンス、落ち着いてすれば良いんだ」と励まされ、私は円盤に手を置いた。

 チリチリって少し弱い感電したような感覚が、手から全身に走った。

 よく見ると円板には何個か宝石? それとも魔石が付いていた。光っているのは一つだけ。

「ペイシェンス様は生活魔法を賜っておられます」

 賜ってるって程の能力では無いけど、エステナ教では、魔法は神様からの授かり物って事になっているからね。チートは無かったのかと、少しがっかりした。

「ありがとうございます」

 なんと、父親はお礼を言うだけではなく、金貨! 初めて見た金貨を修道士に寄付している。このくらいなら、教会に来なくても良かったのでは? とは思うが、生活魔法が使えると正式に認めて貰ったのは嬉しかった。これでトイレが使える!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る