第6話 ショックな夕食
まだまだ生活改善するところはいっぱいだけど、お腹が夕食の時間だと告げる。で、食堂に行こうとしたんだけど、ペイシェンスのチェックが入る。
『夕食は着替えて行かなきゃ駄目!』
そう言えば、英国貴族のドラマでは毎回夕食は着替えて食べていたな。あっちは豪華な晩餐だったけど、着替える価値のある食事は期待できそうにない。
黄昏た部屋で箪笥に掛かっているもう一枚のドレスを出してみる。
「寒そうだけど……」
長袖だけど、レース。こんな寒いのにレースはないだろう。泣きたくなる。
「中に服を着たままじゃ駄目かしら?」
激しくペイシェンスに『駄目!』と拒否されて、火の気の無い部屋で震えながらレースの袖のドレスに着替えた。
「うう……寒い。早く食堂に……」
ペイシェンスが髪をとかして、綺麗にセットしろと騒いでいる。
『もう、本当にペイシェンスは死んだの? なんだか凄く文句が多い気がするよ』
とはいえ、日本でOLしていたのは伊達じゃない。寝過ごしても十分で着替えて化粧してアパートを出ていたのだ。古ぼけた化粧台で、曇っていてよく映らない鏡を見ながら、ブラシで髪の毛をとき、一部を上げて、ハーフアップにする。引出しの中にあった唯一の髪飾りで止めた。
金髪、青い目、なかなか可愛いとも言えるけど、生憎と痩せすぎだ。目もぎょろっとして見える。
「もっと太らなきゃ」なんて思う日がくるなんて! 人生初だわ。なんて感慨に耽る暇もない。
「お嬢様……申し訳ありません。お支度は……」
メアリーが急いでやってきた。あっ、ペイシェンスの記憶では、メアリーが晩御飯の前には着替えさせてくれていたみたい。
「良いのよ」そう、メアリーには何もかもやって貰っているんだから。
でも、メアリーは本当に残念そうだ。
「明日は、教会に行く前は私が髪の毛を整えます」
そっか、メイドっぽい仕事もしたいよね。下女の仕事もしているメアリーだけど、本来はメイドだもの。
明日は任せると言って、食堂に急ぐ。格好つけて薄いハムを弟達に譲ったけど、お腹はぐうぐう鳴っている。それに、まだ早いとしても、食堂には暖炉がある。
食堂には父親が座って居た。やはりドレスコードがあるのか、黒い上着と白いタイを結んでる。その黒い上着も肘やあちこち擦れててテカッている。
「おお、ペイシェンス、では、夕食を始めよう」
朝と昼は、父親は座ったままだったのに、ドレスアップした私が食堂に入った途端に立って挨拶した。こんな礼儀を守るより、何か収入になることして欲しい。
「でも、ナシウスとヘンリーがまだですけど……」
朝と同じ薄いスープが執事にサービスされる。それも朝と昼と違う。いつもはメアリーだった。そんな事より、食卓には二人分のカラトリーしか並んでない。
「ペイシェンス様? お子様は晩餐の席には着きません」
私の動揺に、執事のワイヤットが小さな声で返事をしてくれた。急いでペイシェンスの記憶をググる。10歳までの子どもは子供部屋で夕食は食べるようだ。豊かな貴族の家では、子守りが朝も昼も夜も食べさせる。つまり、貧乏なグレンジャー家だから、朝、昼は
薄いスープ、そして薄いハム、固いパン。ここまでは、昼と一緒だけど、なんとデザートが出た。
「林檎でございます」
林檎を薄く切って、それにチーズが添えてある。それと、父親にはワイン。私には紅茶。うっすい! エバの料理は何もかも薄い。要改善だ!
「明日、教会では心を落ち着けて能力テストを受けたら良いから」
あまり父親とは話は弾まない。本当は何故こんなに貧乏なのか聞きたいけど、ペイシェンスに禁じられている。娘がそんな失礼な事を父親に質問するのは駄目だそうだ。
朝や昼と違い、暖炉の火もすぐには消されなかったが、私は弟達が心配で、早々に食堂を後にした。だって、子守りもいないし、夕食を食べさせて貰ったのか心配なんだもん。
子供部屋で、弟達はベッドに入っていた。
「お姉様、来てくれたの?」
まだ、ベッドサイドには蝋燭が灯してある。まだベッドに入ったばかりみたいだ。
「ええ、ナシウスとヘンリーにおやすみを言わなくてはね。ちゃんと夕食は食べた?」
「うん、林檎が美味しかったよ」
「チーズ、大好き」
どうやらちゃんと食べさせて貰っているようだ。ホッとする。まぁ、こんな貧乏なグレンジャー家に残ってくれている使用人は信頼できるのかもね。まだ会っていないエバとは薄い料理について話し合わなきゃいけないけど。
弟達の布団の下には灰色の毛布がある。二人で寝るなら暖かいだろう。私は、布団をきちんと掛けてやり、
「蝋燭を消さないで」下のヘンリーは強請るけど、「これから冬になるんだよ。昼でも暗い時も多くなるから、節約しなきゃ」ナシウスの賢い言葉にお姉ちゃん泣きそうになるよ。
「また消しに来るわ。それまでに寝てなさい」
本当に『どげんかせんといかん!』だわ。あら、何となく普段の思考もペイシェンス化してきたのかしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます