第3話 悲しい昼食
腹の足しになるのか不安な朝食を終え、寝室より暖かい食堂にいたいと思ったけど、どうも無理みたい。食事が終わったら、さっさと父親は書斎に籠るし、弟達も子供部屋に連れて行かれた。
その上、下男のジョージがまだ燃えていない薪を火から掻き出した。火の気のない暖炉を眺めていても暖かくはならない。
ペイシェンスの記憶では、午前中はお勉強の時間だ。もちろん、家庭教師なんて洒落た者はいない。ううんと幼い頃に少しの間だけ居たような記憶がある。きっと父親が失業する前は、グレンジャー家も普通の貴族の生活をしていたのだろう。
その後は、母親が文字や数字を教えてくれ、後は……そうか! 今は私が弟達に教えなきゃいけないんだ!
わたわたと子供部屋に急ぐ。弟達にお勉強を教える! 楽しそう。
子供部屋は広かった。うん、こんなに広くなくても良いね。暖炉には小さな火が申し訳程度についていた。こんなんじゃ寒いよ。
「ナシウスは勉強の続きをしててね。ヘンリーは、文字は全部書けるかな?」
子ども部屋には、暖炉の前に机と椅子が三脚あった。ナシウスはかなり優秀だと、ペイシェンスの記憶が言っている。ヘンリーは、勉強を始めたところだ。
「もう覚えたよ」
石板にまだ幼い指で石筆を持って真面目に書いている。可愛い。
ところで、私ことペイシェンスはどうなのだろう。かなり勉強は好きみたいだ。本を読んでいる記憶がいっぱいある。
グレンジャー家はどうやら学問好きな家のようだ。貧しい生活なのに、図書室は立派だし、父親も本の虫というか、新聞と本を読むことしかしていない。
『学校とか無いのかな?』ペイシェンスの記憶をググってみる。どうやら、このローレンス王国にも学校はあるようだ。特に、貴族は10歳から16歳は、王都ロマノにある王立学園に通うのが義務みたい。
『ええっ、10歳ってことは、私も通うの?』
勉強はしても良いけど、お貴族様との付き合いは面倒だし、第一無理じゃ無いかと不安になる。マナーとかはペイシェンスの記憶頼りだけど、服とか、ちょっと浮いちゃいそう。
約束通り、文字の練習と簡単な計算を終えたヘンリーと遊ぶ。と言っても、本を読んであげるだけだけどね。こんなに寒くて小雪混じりの風が吹いているのに外に出るなんてごめんだよ。
お昼は……なんか悲しくなった。朝のスープ、薄く切ったパン、そしてあちらが透けそうなハムが一枚。これだけ薄く切るのってなかなかできないよね。エバの腕前は凄く良いんじゃないかと、現実逃避しちゃう。
ペイシェンスはこのハムを弟達にあげていたんだよね。うん、無理! このままじゃ、死んじゃうよ。
「私は病明けだから、ナシウスとヘンリーで食べて」
でもさぁ、6歳と8歳の弟は育ち盛りなんだよ。食べさせてあげたいじゃん。
『よっしゃぁ、グレンジャー家の生活を改善するぞ!』と意気込んだけど、食後は父親に書斎に呼ばれちゃったんだよね。なんの用かな? ペイシェンスの記憶でも、書斎に呼ばれるって滅多にないんだよね。
『もしかして、私が憑依しているのバレた?』
ペイシェンスの記憶はあるし、常識や習慣に行動が左右されているけど、何となくペイシェンス亡くなっているような感じがする。それを父親が感じ取ったのではないか。
『ここを追い出されたら、どうしよう』
不安になりながら、父親の書斎のドアを行儀良くノックする。
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