第79話 何だってするよ?
柏木奈乃は江島貴史の部屋に呼ばれた。
雪穂ちゃんの曲が完成したから、江島くんと一緒に聴いてほしいって事らしい。
「直接来たら良かったんじゃないか?」と江島くんに文句を言われた。
「むー」嫌だよ。江島くんのお家に呼ばれたんだから、可愛くしたい。
江島くんはチノパンに黒のTシャツといったラフな格好。買って貰ったお揃いのイヤーカフをつけてきたのに、江島くんはつけてくれてない。
むー。
早速、雪穂ちゃんが作った曲を聴く。
江島くんの座ってる椅子の背に手を置く。わざと江島くんに触れてみる。
嫌がられないのは嬉しいけど、ちょっとはドキドキしてくれないかな?
雪穂ちゃんの曲はよくわからなかった。こんなの踊れないよ。
江島くんの口数が減っていく。リピートしたときには無言になっていた。何か機嫌が悪そう。
下手なことを言わないように私も黙っている。
「何だよ……、ただの天才かよ……」泣きそうな声が聞こえた。
「私は江島くんの曲の方が好きだよ」そう言って両手で彼に触れる。私は江島くんの味方だよ!
もっと江島くんに触れたい。
もっと江島くんに触れられたい。
でも帰ってきた言葉は、
「お前、今日はもう帰れ」
だった。
お前、って言われた。何か気に触ること言った?
何か怒らすような事した?
「江島くん……」ごめんなさい。嫌わないで! 怒らないで!
「まだ明るいから一人で帰れるだろ」彼は私を一瞥もせず私を拒絶した。
「ごめんなさい」泣きそうになるのを我慢する。震える声でそれだけしか言えなかった。
暗くなり始めた夕方の帰り道。江島くんは送ってくれなかった。玄関にすら見送りしてくれなかった。
一人の帰り道。止まらない涙を見られないようにずっと下を向いて歩く。
何が江島くんを怒らせたのかわからない。
雪穂ちゃんの作った曲より、江島くんの作った曲の方が好きだと言ったことがいけなかったのだろうか?
慰められたと思って江島くんのプライドを傷つけたのだろうか?
慰めてなんかない。私は江島くんの曲の方が好き。
でも江島くんは、雪穂ちゃんの曲の方が江島くんの曲より良い曲だと思ってるんだろうな。
雪穂ちゃんには悪いけど、雪穂ちゃんの曲はつまんなかった。踊れないし、聴いていて楽しくない。
江島くんは私が歌うのを前提に、私が歌いやすい曲を、私が好きそうな曲を作ってくれていたんだね。
雪穂ちゃんは始めっからボーカルなしの曲を作ってきた。
私の事を好きだというくせに、私の歌は要らないんだ。MVも私は要らないんだ。
いつも私をモデルに写真を撮るのに、プライベートでは私のPV作ってるのに、サイトにアップする自分の曲のMVやコンテストに応募する写真には私は要らないんだ……。
頭がグルグルする。濁った織りのようなものが胸の中に溜まっていく。涙が止まらない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スマホに着信があったのは羽崎正人が家に帰ってすぐだった。
今日は柏木は用事があったので、珍しく委員長たちと寄り道してから遅めに帰宅した。
服を部屋着に着替えたところで着信があった。通知を見ると柏木の妹からだった。
「はい。那由多ちゃん、どうした?」まあ、柏木絡みだろうな。
『羽崎さん……』那由多は言いにくそうだった。
「お姉ちゃんがどうかしたの?」
『お姉ちゃん、帰って来てからずっと部屋に閉じこもっていて……』
「寝ているだけとか?」
『……、泣いて帰ってきて……』
那由多はどうして欲しいんだ? 来て欲しいのか?
「今から行ってもいいかな?」
『……すみません。お願いします』
すぐに着替えた。夕食は後で食べると母親に言ったが、特に何も言われずに家を出た。
「すみません、羽崎さん」那由多に出迎えられる。
「お姉ちゃんは部屋?」
「はい」
「おじゃまします」奥にいるだろうご両親に声をかける。
居間から母親が顔を出した。「ごめんなさいね。わざわざ来てくれて」なんとなく疲れているような表情。
「いえ、上がらせて貰います」
二人を置いて二階に上がる。
「柏木、入っていいか?」
少し待つ。部屋の中で物音がした。
しばらく無音だったが、やがてドアに近づく足音がしてゆっくりとドアが開いた。
「何で羽崎がいるの?」奈乃がうつむいたまま弱々しく尋ねてくる。部屋着に着替えていないのか、パンク系の服を着たままだった。
会っていたのは江島か。
「那由多に呼び出された」
「……何で余計な事するかな」
「心配なんだろ」何故俺を呼び出すのかは謎だな。
「入っていいか?」一応断りをいれる。
「ん」奈乃がドアから一歩さがる。
俺は部屋に入ってドアを閉め、そして奈乃を抱き締めた。
「ふにゅ」驚いたように奈乃が可愛い声をあげた。
可愛いな、おい。
とっさに可愛い声を出せるくらいには余裕があるのか。はじめから抱き締められることを期待していたのか。
奈乃は俺の胸に顔を埋めおとなしくしている。
そのまま何も喋らずに抱き締めていたら、奈乃から俺の腰に手を回してしがみついてきた。
弱ってるときだけ俺に甘えてくるとか、良い性格してるよな。可愛いんだけどな!
ずっと抱き締めていても良いのだが、キリがないので頭をナデナデしてみる。
奈乃は小さく「にゅぅ」とか変な声を漏らす。気持ちいいのをアピールしてるんだろうな。
十分に甘やかせてから、「何かあったのか?」と優しく尋ねた。
奈乃の体がビクッとしてから体が固くなる。
頭を撫でるのをやめて、暫くそのまま待つ。返事を返さない。
「江島と何かあったのか?」
「無いよ」今度はあっさりと返事をした。「何も無いよ」今度ははっきりと不快そうに返す。
「何も無いから怒ってるのか?」
無言で、おそらく肯定した。
「江島はやめとけよ」
「……何でそんなこと言うの?」俺の胸に顔をうずめたままで表情が見えない。「私がこんなのだから?」
「あいつは頭が固いからな」
奈乃は暫く黙ったままだったが、自分でも言いたくないのか、言いにくそうに「私が気持ち悪いから」
「気持ち悪くない!」反射的に怒鳴った。
奈乃がビクッとしてから怯えた目で俺を見上げる。
怖がらせるつもりはなかった。もちろん奈乃に怒ってなんかいない。
「柏木は気持ち悪くなんかない」奈乃の目を見てできるかぎり優しく言い聞かせる。
しかし奈乃の目から不安の色は消えない。
「羽崎も、クラスのみんなも優しくしてくれるけど、気をつかってくれてるだけだよね」
確かに初めて奈乃が女の子としてみんなの前に現れたとき、奈乃を泣かせてしまった罪悪感はクラスのみんなにはあるかもしれない。
「俺は柏木に気をつかってなんかない」
そう言って聞かせても奈乃は不安そうな表情のままだった。
どうしたらわかって貰える?
言葉で言っても口だけだと思われるかもしれない。
抱き締めていた右手を奈乃の後頭部に回して掴む。
顔をゆっくりと近づけると、奈乃は目を閉じた。
唇を重ねる。
流石にこのやり方はモラル的にもどうかと思ったし、怒るかもしれないと思ったが、奈乃は抵抗しなかった。
これも期待していたのか。
まだ奈乃は目を閉じている。
もう一回キスをする。今度は唇をこじ開けて舌を入れる。嫌がるどころか舌を絡め返してくる。
腰に回していて左手を、体を這わして尻に持っていく。それほど膨らんでいない臀部を掴む。
スカートがシワになるな、と、どうでもいいことを思った。
奈乃を強く抱き寄せる。
奈乃の固くなった性器が太腿に当たる。俺の固くなっている性器を奈乃の腹部に押し当てた。
長い間、お互いに唇をむさぼりあう。
いい加減呼吸が辛くなって唇を離した。
上気した顔で荒く呼吸する奈乃がとてもエロく感じた。
少し呼吸を整えて奈乃が上目づかいに俺を見上げてくる。潤んだ瞳がとても扇情的だった。
「羽崎、私に興奮するんだ?」少し息を切らせながら尋ねてくる。
「するよ」固くなった性器を奈乃の腹部に擦り付けてみる。
「ん……、ありがと」照れたように微笑む奈乃はとても可愛い。
「柏木も興奮してるよな」奈乃の尻を掴んで、固くなった奈乃の性器を俺の太腿に擦り付けさせる。
「むー、言わないで。恥ずかしいよ」拗ねたように目をそらす。顔を真っ赤にする奈乃はやはり可愛い。
両手を奈乃の尻の下に持っていって体を持ち上げる。
「え?」
驚いている奈乃を抱き抱えてベッドまで運び、仰向けにおろした。四つん這いになって奈乃の上に覆い被さる。至近距離から仰向けの奈乃の顔を覗き込む。
緊張した表情の奈乃が俺を見上げる。
「俺は柏木に興奮するし、抱きたいとも思っている」
「ん……。いいよ」奈乃は目を閉じる。
いいのかよ!
急いて奈乃の服に手を掛ける。黒のTシャツを捲り上げようとしたときに、
「でも……」と奈乃が遮った。
「でも……、諦められない……」
服を脱がそうとしていた手を止めた。
「私は江島くんが好き。諦めたくない」声が震えている。
そうか……。
上半身を奈乃から離し、奈乃を跨ぐように膝立ちになった。
「あ……」奈乃は慌てたように手を伸ばしてくる。不安そうに俺を見る。
「いいよ。気にするな」俺は精一杯優しく見える笑顔を作る。
「違うの! 羽崎のことも好き。羽崎は大切な友達だから」必死な奈乃も可愛いよな……。
「だから羽崎がしたいなら何したっていいよ! 羽崎がして欲しいなら何だってするよ!」
俺に好かれようとする奈乃はとても可愛くて、誰かに受け入れて貰おうと必死な奈乃は痛々しすぎた。
「ムリすんな」もう一度顔を近付けて、奈乃の頭を撫でる。
奈乃はまだ不安そうな顔をしている。
「言っただろ。いつだって守ってやる。いつまでだって待ってやる」そんな顔されたらこう言うしかないだろ。
「だから気のすむまで好きにやれ」
――――――――――――――
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