第58話 ネイルは男子受けが悪いよね
高瀬雪穂がベッドの中で意識を取り戻したとき、隣で柏木奈乃は両手を顔の前にかざしてじっと爪を見ていた。
奈乃ちゃんは仰向けで胸まで布団をかぶっている。布団から両手をだしていて、裸の肩や鎖骨が見えていた。
日曜日の昼下がり。奈乃ちゃんと二人っきりの私の家。まだ明るいうちから奈乃ちゃんと愛し合った。
休日のお家デートは撮影会が定番になってる。その後、奈乃ちゃんを抱くまでがワンセット。とても幸せな休日。
「奈乃ちゃん、ネイル気に入ってるのね?」
「あ、雪穂ちゃん、起きた?」
奈乃ちゃんと愛し合うと、しばらくなにも覚えてない。幸せすぎるからかしら。
奈乃ちゃんは、私の意識が戻るまでずっと待っていてくれる。
奈乃ちゃんは土曜日にクラスのお友達とネイルサロンに行ったらしい。
水色をベースにおとなしめにデコっている。
私はマニキュアはしてもデコったりしない。
奈乃ちゃんはジャラジャラさせるの好きよね。
「雪穂ちゃんのイメージに合わない?」撮影のときに奈乃ちゃんはネイルを気にしていた。
「かわまないわよ? 奈乃ちゃんはいつでも可愛いもの」そう答えた。
奈乃ちゃんは中性的な可愛さが魅力なんだからあんまり盛らない方が良いかな……。
彼女のファッションに口出しする彼氏って、何かカッコ悪いから黙ってるけどね。
「奈乃ちゃんは水色好きなの?」
「え? ……ん、そうかな」
私は上半身を起こす。被っていた布団がずり落ちて裸の上半身が露出した。
奈乃ちゃんが目をそらす。
「ごめんね」私は慌てて脱いだシャツを着る。胸を押しつぶして平らにする矯正シャツ。
奈乃ちゃんは膨らんだ胸を怖がる。
「もういいわよ」
「ん……」奈乃ちゃんが視線をこっちに戻す。申し訳なさそうな顔。
大丈夫よ、奈乃ちゃん。気にしないで。
私は奈乃ちゃんの額に口づけをして、そして微笑みかける。
奈乃ちゃんも恥ずかしそうにぎこちない微笑みを返してきた。
やっぱり奈乃ちゃんは可愛いわ!
私は我慢できなくて唇を合わせる。舌を入れてむさぼる。
「んん……」奈乃ちゃんが苦しそうに呻いた。
布団をずらして奈乃ちゃんの裸の上半身を露にする。
女の子に比べたら……、女の子にしては脂肪の少ない体に指を這わす。
「ん……、雪穂ちゃん、恥ずかしいよ……」奈乃ちゃんが顔を赤くして目をギュッとつむる。両手で胸を隠すように交差させる。
恥ずかしがる奈乃ちゃんも可愛いわ。
「手をどけて、見せて」私は奈乃ちゃんの右手をつかんで体から離す。
奈乃ちゃんはおずおずと左手を自分で顔の横にずらした。
奈乃ちゃんはちゃんと私のお願いを聞いてくれるのね。嬉しいわ。
私は左手で奈乃ちゃんの頭を抱きよせて、右手を彼女の下半身にはわせた。
「んんっっ!」奈乃ちゃんが激しく首を振って、イヤイヤをする。「ん……ダメ……」
奈乃ちゃんの唇をキスで蓋し、更に激しく愛撫する。
奈乃ちゃんがしがみついて痙攣する。
私は愛撫する手を止めた。手のひらが熱いもので満たされた。
「っふぅーっ……、っふぅぅーっ」奈乃ちゃんの小動物のような息づかいが聞こえる。
奈乃ちゃんはこんなときも、子猫みたいで可愛いわね。
唇を離して奈乃ちゃんの頭を抱き締める。
私は満足だ。奈乃ちゃんは心も体も私に任せてくれる。
自尊心が満たされる。
私にしがみついてくる奈乃ちゃんは、とても愛おしい。
柏木奈乃は高瀬雪穂に抱かれていた。
果ててしまった雪穂ちゃんは私の上に乗ったまま意識がどっかに行ってしまっていた。
重たいから早く退いて欲しいのに……。
雪穂ちゃんを体の上からずらせて布団の上に寝かせた。避妊ゴムが外れないように抜く。枕元に用意してあったティッシュでくるみながら外した。
そして下半身を新しいティッシュで拭く。
気持ち悪い……。
雪穂ちゃんは意識がどっかに行っちゃってるので暇だ。
仰向けになって顔の前に手をかざす。
水色のネイル。
昨日、クラスのお友達とネイルサロンに行った。
学校でもファッションの話題を解禁したら、早速誘ってもらえた。
男子用の制服を着ているときにファッションやコスメの話題を出すのはどうかなと思っていたけど、みんな気にせずに私と話をしてくれる。
クラスのみんな優しいから、大好き。
日が暮れる前に雪穂ちゃんのお家をお暇した。
玄関まで雪穂ちゃんがお見送りしてくれる。
Tシャツに柄シャツをボタンを止めずに羽織っている。七分丈のチノパンを穿いた雪穂ちゃんは、休日の男の子だった。さらしみたいなインナーのおかげで胸がまっ平らで、ライブの時から髪の毛を短くしている。
服さえ脱がなければ男の子に見える。格好いい。
喋らなければね。
「またね、奈乃ちゃん」
声だけはどうしても女の子なのよね。
「うん、またね」
ドアを開ける前にキスをされた。
一人で歩く帰り道。
指先を見る。
昨日はクラスのお友達に可愛いって誉めてもらえたネイル。
雪穂ちゃんはあんまり誉めてくれなかった。
ネイルは男の子に受けが悪いって本当なのね。
江島くんの顔が浮かんだ。
たぶん江島くんにも受けが悪いんだろうな。ただ彼は他人の趣味を否定しないだけで……。
私は立ち止まって電話をかけた。
羽崎正人のスマホに着信が入った。部屋でスマホをいじっているときだったので直ぐに出た。
「柏木か?」今はどっちだろうか?
『奈乃です』奈乃の方か。
「どうした?」
『羽崎ぃ、出てこれる?』
「いいよ。今どこ?」
『駅前歩いてる』
駅前のファーストフード店で待ち合わせした。
店に入ったときすでに奈乃は窓際のカウンター席で一人ドリンクを飲んでいた。
俺はコーヒーを買って奈乃の席の右隣りに座る。
奈乃は白のブラウスに青のニット地のベストを着ていた。ボトムは灰色のチェック柄の膝丈のスカートの下に黒のレギンス。茶色のローファーを履いていた。
今日は高瀬と会っていたのか?
「お待たせ、柏木」
「羽崎ぃー、おそいよ」笑いながら怒ってみせる。
あざといな。可愛いんだけどな。
「悪い」そう言いながら左手を差し出す。
奈乃も俺に右手を差し出す。
俺は奈乃の手を取る。
「水色か……」
「ん」
「コテコテしたの好きだな」
「可愛いでしょ?」
薄い水色に幾何学模様のデコパーツ。奈乃はジャラジャラさせるのが好きらしい。
右手の水色のシュシュ型のブレスレットにもチャームが着いている。両耳にはホワイトゴールドのスクエアのピアス。右耳にはチェーンで二つ繋がったイヤーカフも着けている。
「可愛いよ」
「ん」奈乃は嬉しそうに笑った。
「水色好きだな」
「羽崎も好きでしょ?」
「そうだな」
俺はつないだ手をテーブルの上にのせて、空いている右手でコーヒーを飲む。
奈乃も空いている左手でジュースを飲む。
たぶん、奈乃が俺を呼び出した理由はネイルを褒めて欲しかったからだろう。
奈乃は褒められて満足そうだった。
奈乃に電話で呼び出された時点で理由はわかっていた。ネイルサロンに行ったのも知っている。
金曜日に友達にネイルサロンに誘われているのが聞こえていたから。
クラスで盛っている女の子達に誘われていた。盛っていると言ってもそんなに大したことはない。進学校だからな。
「俺が行ってもいいの?」遠慮がちに尋ねた柏木は嬉しそうだった。
「男の子にネイル受け悪いのってホントなんだね」奈乃がつまんなそうに言った。
「俺も男だけどな」
奈乃は笑った。
ずっと手をつないでいた。
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