第45話 ライブハウス

 江島貴史は柏木奈乃を連れてイベントに来ていた。


 テクノ系のアーティストが何人も参加している。会場が遠いのとチケットが結構高いのでどうしようかと思っていたが、たまにはいいだろう。

 柏木にも色んな音楽を聴かせたい。


 今日の柏木は気合いが入っていた。

 黒のハーフブーツに光沢のある黒のハーフパンツ。黒地に銀の英字のタンクトップ。ロングの黒髪に一房赤が入っていた。

 飾りもジャラジャラさせている。

 銀のチェーンをパンツにつけている。シルバーのペンダントに右耳にお気に入りのチェーンのイヤーカフ。

 そして新しく買ったセカンドピアス。



 約束通りセカンドピアスを買ってやった。

「好きなの買ってやるよ」俺の曲のために頑張ってくれているからな。柏木の気に入るのをプレゼントしたい。

「江島くんが選んで」

「柏木の欲しいのを買ってやるって」

「江島くんが選んだのが欲しい」

 俺がプレゼントするからって、俺に遠慮する事もないのにな?


 もうすぐ夏休みも終わる。学校が始まるからおとなし目のを選んだ。俺はともかく柏木まで悪目立ちすることもない。


 ヘッドが小さめのホワイトゴールドのスクエア。結構高かったが感謝の気持ちだ。いつも俺の音楽を愛してくれるからな。


 もう一つの約束。タトゥーペイントもしてやった。お揃いにしたいと言っていたので同じ三日月の幾何学模様。

 これも新学期が始まっても消えないから、目立たないように肩にペイントした。左肩だけ半袖Tシャツで隠れる程度の範囲。

 待ち合わせの駅までは半袖パーカーを着ていたが、それは駅のコインロッカーに預けた。

 今は隠す必要ないのでタンクトップだけになっている。


 イケイケなファッション。実際イケている。柏木は見た目が良いからなにやっても似合うな。


 ちょっと可愛い感じで威圧感は無いが……。本人がやりたいんだから、まあいいだろう。


 ワンドリンクはジンジャーエール。初めてライブに来たときにも飲んだ。柏木はライブといえばジンジャーエールということにしたらしい。

 柏木は一口飲んで少し苦そうな顔をした。

「何で笑ってるの?」

「いや」

 大人っぽいことしようとすると、よけいに可愛いよな。


 今日の柏木もノリノリで踊っていた。ライブ向きな性格だ。



 途中休憩で知り合いのアーティストに挨拶する。今日の出演者の一人。前半で出番は終わっていたので声をかけても構わないだろう。


「よお、貴史。動画観たぞ」

「はい。ありがとうございます」

 既に俺達のミュージックビデオは動画サイトに投稿していた。音楽自体も音楽配信サイトに投稿している。短い間隔で4本投稿することにしていた。すでに3本投稿済みだ。


「彼女か?」彼は柏木を見て訪ねた。

「うちのボーカルです」

「柏木奈乃です。ライブカッコ良かったです!」

「そう? ありがと」

 柏木にはライブが始まる前から彼が知り合いだと教えておいた。


「あれ?……男の子?」

「そうです」俺は答えた。

 今日の柏木は薄着だからわかるよな。

「……」柏木は黙っている。

「あ、ごめん」彼は柏木に謝った。

 何を謝ったんだ?


「お前なー」彼は俺に非難する目を向けた。

 何でだ?


「君のボーカル、とてもクールだね」

「え? ……あ、ありがとうございます」

 柏木は誉められて戸惑っているようだった。



 柏木奈乃は江島貴史とイベントに来ていた。


 江島くんは黒の革ズボンにイベントTシャツ。白の半袖シャツをボタンを止めずに着ていた。

 ピアスにチェーンネックレス。シルバーの指輪とジャラジャラさせていた。

 そしてお揃いのタトゥーペイント。

 今日の江島くんもカッコいい!


 私も江島くんとお揃いのタトゥーペイントでテンション上がってる。

 江島くんに買ってもらった新しいセカンドピアスも嬉しくってウキウキしてる!


 今日はイベントが始まる前からヤル気だ。


 行きの電車の中からさりげなくピアスに触って嬉しさをアピールする。


 江島くんに買ってもらったピアス。

 学校にもつけて行けるようにって小さめだけど、結構なお値段した。


 値段で決めるわけじゃないけど、それだけ私の事を大切に思ってくれてるって事だよね?


 買ってもらってから鏡を見るたびににやける。意味もなくピアスに触って幸せな気分になる。


 あんまり浮かれていたのか、家では家族に心配そうな顔をされた。


 江島くんといっしょに観るライブも楽しかった。

 江島くんはそんなに踊るわけじゃないけど、私はノリノリで踊って楽しいのをアピールする。



 休憩時間に江島くんの知り合いの出演者さんと挨拶した。

「彼女か?」

「うちのボーカルです」

 ……、うん。そうだね……。私は江島くんの彼女じゃない……。

 ムリに笑顔を作って話をする。江島くんの知り合いだから彼のためにも愛想良くする。


「あれ?……男の子?」出演者さんが驚いたように言った。

 今日は薄着だからわかるよね。……夏は嫌いだ。

「そうです」江島くんは普通に答えた。

 江島くんにとって私が男の子なのは当たり前なんだ……。いつもそうだよね……。


「あ、ごめん」出演者さんはすまなさそうに謝ってくれた。悪気無くつい口にしてしまったのだろう。

「お前なー」出演者さんは江島くんをにらむ。

 江島くんは何故非難されているかわからなさそうだった。

 いつもの事だから気にしないよ……。



 しばらく江島くんは知り合いの出演者さんと話をする。

 私は隣でニコニコと聞いていた。


 出演者さんはやたらと私のボーカルを誉めてくれる。

 特に嬉しくもないけどお礼を言っておく。

 知らない人より江島くんに誉めて欲しい。彼はあんまり誉めてくれない。

 クラスのみんなは誉めてくれたのに……。


「貴史、今度俺達の主宰イベントやるけど、お前らも出ないか?」

 またイベントあるの? 江島くん、連れてってくれないかな?


 江島くんが私を見る。

 ?


「柏木、今度俺達でイベントでないか?」

 え? 知らない人の前で歌うの?

 緊張しそうで嫌だな……。


「江島くん、出たいの?」

「ああ、出たいな」

「出る! 出たい! 出たい!」

「お、そうか」江島くんは嬉しそう。

「出ます」彼は出演者さんに返事した。


「よろしくお願いします!」私も笑顔を作って出演者さんにお辞儀をした。



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