第40話 初めての夜

 高瀬雪穂は柏木奈乃をエスコートしてホテルのレストランに入った。

 ドレスコードに合った服を持ってきていた。

 奈乃ちゃんはフォーマルの白のセパレートのドレス。大きめのコサージュが胸元を飾る。


 予約していた。給仕に窓際の席に案内される。

 奈乃ちゃんは給仕がイスを引くのをおどおどした様子で座る。

 しまった。ちゃんと前もって教えてあげるんだった。


 フランス料理のフルコース。奈乃ちゃんにテーブルマナーを教えながら食事を進める。

「このお肉すっごく柔らかいのね」地元の高級和牛。


 この後の事を考えると緊張する。

 今度こそ奈乃ちゃんを泣かせない。

 ここまで来て拒絶されたりしないよね……。


「地元のお肉なのにあんまり食べたこと無いよ」

 今日の奈乃ちゃんはよくしゃべる。

 奈乃ちゃんは緊張している私をちゃんとわかってくれてる。


 今夜は二人の大切な日になる。




 部屋に戻る。

 ツインの部屋。余裕のある広さ。

 先に奈乃ちゃんにお風呂に入ってもらう。

 ソファーに体を預けてシャワーの音を聞いている。


 水を使う音が途切れてかなりの時間が経ってから奈乃ちゃんはバスルームから出てきた。

 アメニティの浴衣を着ている。

 しっとりとしたお風呂上がりの奈乃ちゃんはとても色気がある。お風呂上がりなのにナチュラルに見せかけたメイクや全く濡れてない髪の毛は気にしない。


 奈乃ちゃんは緊張しているのか黙ったまま私を見ている。


「お風呂入ってくるね」奈乃ちゃんに声をかけてバスルームに入る。

 バスタブに浸かって心を落ち着かせる。

 私は緊張している。仕方ないわよね。

 念入りに体を洗う。奈乃ちゃんに失礼にならないように。


 充分に髪の毛をドライヤーで乾かしてから浴衣を着る。

 鏡を見る。


 緊張した化粧をしていない女が映っている。


 みんなが言うほど美少女じゃ無いよね……。

 奈乃ちゃんの可愛さに比べたらぜんぜん可愛くはない。


 深呼吸して両手で頬を叩いて気合いをいれる。

 思ったより大きな音がして驚いた。


 部屋から出ると、奈乃ちゃんはひとり掛けのソファーに座って窓の外を見ていた。


 私は荷物をカバンに詰めて、変わりに避妊ゴムをこっそり手に持った。


 カーテンを開けた窓の外は暗かった。

 外は海しかない。明かりは月明かりぐらいだ。窓に近づいてみると遠くの海に船の明かりが見えた。

 カーテンを閉めて振り返る。

 奈乃ちゃんは緊張した面持ちで無言で私を見ていた。


「奈乃ちゃん、寝ようか?」私は優しく微笑みかける。

 うまく笑えただろうか?


 奈乃ちゃんは緊張した表情のままイスから立ち上がった。


 ベッドメイクされた掛け布団をはがして、奈乃ちゃんを誘う。

 ツインの部屋だけど、ベッドは一つしか使う予定はない。


 奈乃ちゃんはベッドに上がって座ると、「電気消して」と小さな声で言った。


 室内灯を消してサイドライトを点ける。

 本当は奈乃ちゃんの全てを見たいから消したくない。


 奈乃ちゃんの隣に座る。

 奈乃ちゃんが体を固くして息を飲むのがわかる。たぶん私も同じだ。


 奈乃ちゃんの体を引き寄せ優しく抱き締める。拒絶されないことを確認してから額に唇をつけた。

 奈乃ちゃんの顔を私に向ける。


 奈乃ちゃんが目を閉じる。


 唇を重ねた。


 いつの間にか押し倒し、口をこじ開けて舌をむさぼる。


 息が続かなくなって唇を離す。

 私の目の下で奈乃ちゃんが目をギュッと閉じていた。呼吸が荒い。

 たぶん私も。


 奈乃ちゃんは胸の前で両手を握りしめていた。身を守るかのように。拒絶するかのように。


「奈乃ちゃん、手をどけて?」優しく声をかける。ムリに手をどけさせる事はしなかった。


 奈乃ちゃんが嫌がることをしない。もう泣かせたくない。


 奈乃ちゃんはゆっくりと手を開いて顔の横に持っていく。目はギュッと閉じたまま。


 もう一度唇を重ねる。浴衣のあわせから手を滑り込ませる。

 奈乃ちゃんは浴衣の下に何も着ていなかった。素肌の上で指をはわせて平らな胸の小さな突起を探り当てる。

 乳首を指で転がす。


 奈乃ちゃんがビクッとして体を悶えさせる。呼吸が荒くなる。息苦しいのか絡めた舌から逃れようと顔を背ける。


 私は唇を離して、奈乃ちゃんを見下ろす。

 奈乃ちゃんは呼吸を荒くして、目をギュッと閉じたままだ。


 顔の両横に置いた手はいつの間にか枕をつかんでいた。


 快楽に耐えるためだろうか?

 ……、私を拒絶するのを押し止めようとしているのだろうか……。


 そうだとしても奈乃ちゃんは私を受け入れようとしている。頑張らないと私を受け入れられないのだろうか?

 それでも頑張って私を受け入れようとしている奈乃ちゃんが愛おしい。


 奈乃ちゃんを怖がらせないように、優しく唇を重ねた。

 ジャマな帯をほどき浴衣をはだける。奈乃ちゃんの華奢な体が暗いサイドライトに照らされる。

 女の子と違って脂肪がついてない。かといって筋肉も目立たず男の子ぽくもなかった。


 キャミソールを穿いていた。可愛いデザイン。体の形が目立たないゆったりとしたシルエット。こういう選択にしたんだ。


「可愛いわ、奈乃ちゃん」

 奈乃ちゃんは返事をせずに、目を閉じたまま恥ずかしそうに顔を背けた。

 時間を掛けて奈乃ちゃんの体を愛撫する。舌で乳首を転がしてみる。

 くすぐったそうな反応が可愛い。


 キャミソールを脱がそうとしたが、おしりとベットに挟まって脱がせにくい。

 奈乃ちゃんに腰を浮かせてもらおうかと思ったが、やめた。

 一旦体を離して両手でキャミソールを抜き取った。


 奈乃ちゃんは膝を少し立てて股をギュッと閉じる。恥ずかしそうに身悶えたがそのまま耐えていた。


 わかっていたことだけど、奈乃ちゃんは女の子ではなかった。


 緊張しているのがわかる。手で触って固くしようとする。なかなか起たない。


 緊張してるのよね?


 私を受け入れたくないのだろうか?


 口で咥えて舌で転がしてみる。奥まで咥えすぎてえずきそうになるのをガマンする。


 奈乃ちゃんに愛されたい。


 必死さが通じたのか固くなる。

 すかさず隠し持っていたゴムをつける。

 そして奈乃ちゃんの上にまたがって、手を添えて挿入する。


 全部初めての事だった。

 痛いのも初めての事だった。ただ夢中で腰を振っていた。


 私は奈乃ちゃんに愛されたい。


 男の子に愛されて、男の子を愛する。


 私は普通の人なんだ!


「愛してる、愛してる、愛してる!」いつの間にか叫んでいた。


「雪穂ちゃん」奈乃ちゃんが私の名を呼んで腰をつかんできた。

 私は動くのをやめた。


 奈乃ちゃんはさらに顔をしかめて少し震えた。そして私の腰から手を離してだらんとした。


 私も力が抜ける。奈乃ちゃんの上に倒れ込んだ。

 奈乃ちゃんの荒い呼吸が聞こえる。私の呼吸も荒い。

 いつの間にか私の浴衣もはだけていた。重ね会った肌と肌が汗で濡れていた。


 私たちは繋がったまま、お互いの荒い呼吸を聞いていた。


「奈乃ちゃん。……愛してる……、愛してる……、愛してる……」

 私は幸せだ。


「……ん……」奈乃ちゃんが小さく答える。


 今日は二人の大切な日になった。



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