第30話 雪穂の来訪

 高瀬雪穂は柏木奈乃につれられて歩いていた。

 奈乃ちゃんの家におじゃますることになった。


 私の家でMVを見せた後クライアントに、ピアス男子の事ね、素材に奈乃ちゃんの写真を使うことを提案したらクライアントも乗り気だった。

 私は直接話してないけど。


 そんなわけで、奈乃ちゃんに持っている服を見せてもらうために奈乃ちゃんの家に向かっている。

 奈乃ちゃんの家におじゃまするなんてとてもドキドキするわ。

 途中、ケーキ屋さんでケーキを買う。四人家族らしいので、私の分も含めて五つケーキを買う。

 残念ながらご両親には挨拶できないけど、妹さんが家にいるらしい。

 奈乃ちゃんの妹さんに会うのもとても楽しみ。きっと奈乃ちゃんに似て可愛いわよね?


「ただいまー」奈乃ちゃんが玄関を開ける。

「おじゃまします」私も控えめに断りを入れた。奈乃ちゃんの家、少し緊張するわね。

 二階でドアを開ける音がして、パタパタとスリッパの音がする。

 二階に続く階段の踊り場から女の子が顔を覗かせた。

 妹さんね。奈乃ちゃんに似て可愛いわね!


「お帰りなさい……」妹さんは驚いた顔をしている。

「おじゃまします」私はにこやかに妹さんに挨拶した。

「……いらっしゃい」彼女は驚いて、そして戸惑っている。

「こんにちは。私はお姉さんのお友だちで、高瀬雪穂と言います。よろしくね」

「……こんにちは。柏木那由多です……」

「お土産にケーキを買ってきたの。一緒に食べませんか?」


 居間に通されて、ソファーに奈乃ちゃんと並んで座っている。

 那由多ちゃんが、お茶の用意をしている。

「コーヒーと紅茶、どちらにしますか?」

「紅茶で」奈乃ちゃんが答える。

「私も紅茶でお願いします」面倒がないように奈乃ちゃんと同じにする。


 那由多ちゃんがお茶と食器を出してくれる。

「お姉ちゃんには訊いてないんだけど……」那由多ちゃんが小声で奈乃ちゃんに抗議する。

 んー、奈乃ちゃんは妹さん任せで何もせずに座ってただけだったからね。


「何にしますか?」那由多ちゃんが私にケーキを尋ねる。バラバラで五種類のケーキを買ってきたからね。

「イチゴのたくさん乗ってるの」奈乃ちゃんが山ほどイチゴが乗っているケーキを選んだ。

 那由多ちゃんが奈乃ちゃんをにらむ。私より先に選んだことを咎めてるのね。

「那由多ちゃんはどれが食べたい?」

「いえ、先に選んでください」

「手土産だからお先に選んで」


 那由多ちゃんはイチゴのケーキを奈乃ちゃんにとってから、チョコレートケーキを選んだ。

「私はモンブランにするわ」


「高瀬さんは、お姉ちゃんと同じ学校なんですか?」

「そうよ。クラスは隣だけど」

 那由多ちゃんは探り探り私に質問してくる。

 私も那由多ちゃんに興味があるので色々と尋ねる。

 奈乃ちゃんの事はお姉さん扱いでいいのよね?

「奈乃ちゃんと一緒にお買い物とか行くの?」

「たまには……」

「どんなお店に行くの?」

 那由多ちゃんは女の子が行くようなお店の名前を上げた。

 話から、普段からお姉さんとして接しているらしい事がわかった。


 その間、奈乃ちゃんはケーキを幸せそうに食べていた。

 奈乃ちゃんより、那由多ちゃんの方がしっかりしてるわね。



「ちょと待っててね」そう言って奈乃ちゃんは席を外す。先に部屋を片付けに行ったのかしら?

 しばらく那由多ちゃんとお話をする。奈乃ちゃんの妹さんだから印象を良くしたいわよね。


 それほど待たずに、奈乃ちゃんの部屋に通される。

 可愛い部屋だった。壁は普通の白系の壁紙だったけど、カーテンやベッドの寝具はピンクの花柄だった。普段の印象通りの可愛い部屋だった。

 飾りは特になく、猫の写真のカレンダー位だった。

 小物は可愛いものが多く、ぬいぐるみがベッドに並んでいた。私がゲームセンターでとってあげたぬいぐるみもいた。

 気に入ってくれてるのね。


 ちゃんと化粧やアクセサリーを整理する可愛い箱もある。


 ……、奈乃ちゃんのベッドで寝たいのだけどダメかしら?



 色々としたいことや見たいものもあるのだけど我慢する。


 早速、持っている服を見せてもらう。

 一番多いのはガーリー系の服。基本、奈乃ちゃんは可愛いのが好きみたい。私も奈乃ちゃんには可愛い服が似合うと思う。

 ストリート系の服は結構あった。ボーイッシュなのが多い。

 意外だったのが、ゴシックやパンク系。

「最近、ロックな服も興味有って」奈乃ちゃんは嬉しそうに言った。


 ピアス男子の趣味に合わせてるのね……。


「曲のイメージに寄せると、ロック系かしら?」

「うん。私もそう思う」奈乃ちゃんは楽しそうに服を選んでいた。

 奈乃ちゃんの写真を使うって言ったときは乗り気じゃなさそうだったのに、今はMVに出る気が満々ね。


 私は撮影プランを頭の中で組み立てる。

「明日、撮影しましょう。私の家に来て」

 当日撮影に使う服とアクセサリーを指示する。撮影機材を買いに行かなくっちゃ。

 あと、アクセサリーも買いたい。




 柏木奈乃は部屋の片付けをしていた。

 高瀬雪穂ちゃんがお家にやって来た。今は妹の那由多と居間でお茶をして待ってもらっている。

 雪穂ちゃんを部屋にお招きする前にお部屋を片付けたい。

 そんなに散らかってるわけでも汚れているわけでもない。

 でも、見られたくないものが沢山あるから。


 雪穂ちゃんの目的は私の服だ。撮影に使える服を確認しに来た。だから当然クローゼットは見るよね。


 男物の服が入っている。

 女物よりは少ない。それでも学生服とか数少ない男性用の私服がある。

 全部物置に移した。

 ウィッグはどうしよう?

 多分ウィッグも撮影のために見たいのじゃないかと思う。でも、隠すことにした。


 匂いは?

 お布団とか大丈夫?

 消臭スプレーをかける。

 雪穂ちゃんなら、布団の匂いまで嗅ぎそうな気がする。

 また、ベッドに押し倒してきたりするかもしれない。


 うん、大丈夫なはず!



 雪穂ちゃんをお部屋にお招きする。


 雪穂ちゃんは部屋の隅々までなめるように見てくる。

 何の罠もないわよ?

 ベッドを見てしばらく考え込んでいる。

 ……こわい……。



 雪穂ちゃんは夕方になる前に帰った。

 私と那由多が外の門まで見送る。

「またね、奈乃ちゃん。那由多ちゃんもまたね」そう言って手を振った。

「また遊びに来てね」私も手を振り返す。

 那由多は黙って頭を下げた。


 雪穂ちゃんが見えなくなるまで見送る。

 那由多も何故か見送っていた。


「お姉ちゃん」雪穂ちゃんが見えなくなると那由多が口を開いた。

 何か、言われそう。たまに那由多は怖くなる。

「女の子の友達もいるんだ?」

「私だって女の子のお友だちが欲しい」

「雪穂さんが好きなの?」

「友達としてね」

「恋愛的には?」

「……無いよ……」

「……ふーん」

 那由多は何か納得がいっていないようだった。


「あの人、何か怖い」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る