第28話 ピアス

 夏休みになった。

 柏木奈乃は暇をしていた。いや、夏休みに入ってすぐにクラスでキャンプに行った。それからまだ2日しか経ってないけど。

 キャンプの翌日、つまり昨日は久しぶりにゆっくりした。妹の那由多とゲームして一日過ごした。たまにはいいよね。


 でも、二日連続で誰にも誘ってもらえないのは寂しい。


 どうしようかと考えた末に、江島貴史くんにメッセージを送る。

 何回かメッセのやり取りはしたことあるけど、私から会いたいと言ったことはない。


 待っていたって進まないよね。がんばる。


 ー電話していい?

 ーいいぞ。


 返事が来た。

 電話しようとしたら、着信が入った。江島くんだった!


「奈乃です!」

『おう』笑いながら江島くんが返事する。

 どうしていつも笑われるの?

『どうした?』

「えっと……」あれ? 会いたい、との一言を言うだけなのに……。

『暇なのか?』

「……」暇だよ。と言おうとしてやめた。暇だから江島くんに会いたいんじゃない。


『家来るか?』

「うん!」

『そうか』また笑われた。

 何で?



 江島くんに玄関で出迎えてもらう。

 夏休みのせいかいつも以上にラフなスタイルだった。

 白の柄Tシャツにカーキ色のハーフのカーゴパンツ。ピアスはしているけど、全体的にじゃらじゃら感が少ない。


「おじゃまします」

「入れ」


 いつものように江島くんはパソコン前のイスに座り、私は床に正座した。


「ちょうどよかった。電話しようと思ってたとこなんだ」江島くんが何の悪びれもなくそう言った。


 !

 何それ?!

 何で電話してくれなかったの?!


「え? 何で怒ってんの?」

「むぅー」

「いや、悪い。怒ってる理由がわからん」

「怒ってない」

「……おう」


「こないだの曲完成した。スマホ寄越せ」

 こないだの曲とは私がボーカルした2曲目。一人で2パート歌ったの。夏休み前に音入れした。

 江島くんが転送ケーブルで音声ファイルを私のスマホに転送してくれる。


「次の曲もできたから、入れとく」

「聞きたい!」

「おう」


 新曲も良かった。

「カッコいい! この曲好き!」

「おう、そうか」

 江島くんが照れてる。可愛い。


 いつものようにご褒美タイム。

 新曲を江島くんが歌ってくれる。どうせなら江島くんのボーカル入りで音源くれないかな?


「柏木、ちゃんと聴いてるか?」

「うん」

 何故か信用無い。ちゃんと江島くんのお歌、堪能してるよ?




 江島貴史はメッセの通知音で目が覚めた。

 徹夜で作業していて、そのまま寝落ちしていた。といっても新曲の仮音源はできている。後は柏木奈乃のボーカルだけだ。

 柏木に連絡しようと思っていたところなのでちょうどよかった。


 柏木は何か言い淀んでいた。暇だから遊んでほしいのか?


「家来るか?」と言ったら、

「うん!」と食いつきが良かったので笑ってしまった。



 玄関で柏木を迎える。

 今日の柏木もイケていた。こいつは見た目がいいから、ラフな格好でも様になる。

 白と黒のチェックの膝上丈のスカートに黒のレギンス。黒のリボンがついてゴシックとかパンクに寄せたデザイン。黒の柄Tは前に大きめのイラスト。洋楽パンクのイラストだったが、これ柏木知ってるのか?

 長い髪をポニーテールにしている。出した左耳にチェーンのついたイヤーカフをしている。これ気に入ってるんだな。

 黒のローファーを履いていた。

 全身黒づくめか。ゴシックに、スカートにわずかに可愛らしさを入れている。


 曲だけじゃなく、プレゼントもあった。

「ちょうどよかった。電話しようと思ってたとこなんだ」

 そう言うと、柏木は不機嫌そうな顔をした。

 何でだ?


 楽譜が読めない柏木のために、新曲を歌って聴かせる。

 柏木は渡した歌詞を見ずに、俺ばっか見ている。

「柏木、ちゃんと聴いてるか?」

「うん」

 俺が何で歌って聴かせているかわかって無さそうだった。怒りそうになったが我慢する。こいつ、すぐに泣くからな。


「柏木、学校のときと外で声変えてるよな?」

 学校では男の声だが、今は女の声で喋っている。

「……うん」

「よく使い分けれるな?」

「……ボイストレーニングに行ってるから」

 なるほど。ちゃんとしたとこで訓練したのか。


「今も行ってるのか?」

「前は発声だけだったけど、歌の練習に、また行き出したよ」

「え? 俺がボーカル頼んだからか?」

「ん」

 え? わざわざ俺のために?

「マジか……ありがとう、柏木」

「ん」柏木は照笑いした。

 俺の曲のために本気になってくれて、ありがたい。

 プレゼントを用意しておいて良かった。


「柏木、ピアス開けるかどうか、ちゃんと考えたか?」

 前にピアスを開けて欲しいと言われたときに、手入れの大変さやデメリットも説明した。

 ピアス穴は体を傷つけるから後で後悔しないように、もう一回考えろと言ってあった。


「うん」

「で、どうする?」

「ピアスしたい。江島くんに開けて欲しい」

 自分じゃ穴のバランスとかとりにくいからな。俺は自分で開けたけど。


「ピアス開ける器具とファーストピアス用意しといた」両耳用に二つピアッサーとピアスを買った。

「ファーストピアスはプレゼントさせてくれ」黒のクリスタルガラスのシンプルなデザインのピアスだ。ファーストピアスはあんまりデザインを選べない。

「嬉しい!」

「一月はこれをつけっぱなしだけど、これでいいか?」

「うん! ありがとう!」

 柏木が嬉しそうでなによりだ。


 それから慎重にピアス穴を開けた。

 他人の耳に穴を開けるのはちょっと怖かった。痛く無いと評判のメーカーを選んだので、柏木はあまり痛そうにしていなかったので良かった。


 ちゃんと穴を貫通させて、ピアスをつけることができた。


 柏木は自分のコンパクトミラーで確認して満足そうだった。イヤーカフもジャマにならずに少しずらしてつける事ができた。


「どう?」

「カッコいい」

「そう?」柏木は嬉しそうに笑った。


「セカンドピアスは自分で選ぶか?」

「江崎くんが選んで」

「今度一緒に買いに行くか」


 セカンドピアスもプレゼントしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る