第27話 日帰りキャンプ
羽崎正人は柏木奈乃を家まで迎えに行った。
「お早うございます。羽崎さん」いつものように奈乃の妹の那由多が出迎えてくれた。
「おはよう、那由多ちゃん」
「かさばりますが大丈夫ですか?」那由多は箱を2箱渡してくる。
「大丈夫」今日も荷物が多くなることを見越して大きなリュックサックを背負ってきた。
昨日も奈乃と那由多と3人でお菓子作りをした。今回はカップケーキにした。クッキーよりかさばる。つぶれないように袋じゃなくて箱に入れたのでよりかさばる。
相変わらず那由多のお菓子作りの腕はよかった。彼女がいなければまともに作れなかった。
さすがに二回目なので俺のお菓子作りのスキルは上がった。奈乃は……、まあそれなりに。
「羽崎ー、お待たせー」奈乃が玄関まで出てきた。
今日の奈乃も可愛かった。
イラストの付いた大きめの白のTシャツ。下にピンクのタンクトップを着ている。ボトムはサイドに白のラインが入ったピンクの膝上ジャージ。左裾に大きめのメーカーロゴが入っている。白のレギンスにピンクのスニーカー。野球帽もピンクで、ショートの髪は後ろで短い房を作ってピンクのシュシュで止められていた。黒の小さめのリュックを腰のところで背負っている。
前回のクラス会のときの服装だが、上が夏バージョンか。
ボーイッシュで可愛い。……ボーイッシュ?
ウィッグ取ったらショタでも行けるんじゃないか?……、いや、ウィッグなんてつけてなかった……、うん。
水着用のビニールバッグ、これもピンクの可愛いの、を持っていたので手を差し出す。
奈乃は差し出した俺の手を取った。
「いや、カバン」
「あっ」奈乃は手を引っ込めてカバンを差し出す。
俺は右手でカバンを受け取り、改めて左手を差し出した。
奈乃は恥ずかしそうに俺の手を取った。
「那由多、行ってくるね」
「那由多ちゃん、行ってきます」
「はい、羽崎さん。お姉ちゃんをお願いします」そう言って頭を下げた。
歩いてバス停につく。
「おはよー、奈乃ちゃん」クラスメイトたちが奈乃に気付いて声をかける。
奈乃は俺を見てから、つないでいた手を離して皆のところに行った。
今回は集団行動だ。キャンプ場までの路線バスの本数が少ないので、全員同じバスに乗る。
委員長は担任の車で荷物搬送だそうだ。
路線バスだから全員座れないかと思ったが、意外と空いていて座れた。
奈乃は一番後ろのロングシートの真ん中に座った。みんな後ろの方に座る。奈乃の近くに座れなかった何人かが、席は空いているのにわざわざ後ろの方に立っていた。
俺は少し離れた席に座る。
山の麓のバス停で降りる。キャンプ場まで山道を40分位かけて登る。
みんなと一緒のときは俺は遠慮して、少し離れて奈乃の後ろを歩く。奈乃に何かあればすぐに奈乃のところに行ける距離だ。
奈乃はクラスメイトと楽しそうに話をしている。
両手ともクラスメイトと手をつないで歩いていた。
両脇のクラスメイトに挟まれて手をつないでいる。奈乃は背が女子の平均程度しかないので、男子生徒と手をつないでいると、両親に手をつないでもらっている子供みたいに見えた。
時間制限は厳守されていて、次々と奈乃と手を繋ぐクラスメイトは交代している。
俺の隣を、たまにゲームセンターに一緒に行く格ゲーマーが、歩いていた。その隣に格ゲーマーといつも一緒にいる男子生徒もいる。
やっぱり彼氏かな?
「柏木と話しなくていいのか?」と訊くと、
「奈乃ちゃん、アイドルの握手会みたいになってるね」といって笑った。
格ゲーマーは、チラッ、と彼の友達を見る。
ああ、そういう事ね。
奈乃のちょっと一般的でない性別は、誰からもアイドル扱いされる。けど、同じような性別の人から見たら、恋愛対象だったり嫉妬の対象だったりすることもあるのか。
もう格ゲーマーの友達の事は、格ゲーマーの彼氏って認識でいいよな。
もうすぐキャンプ場に着くというときになって、奈乃は後ろを振り返った。
格ゲーマーとその彼氏を見てる。
「手、つないでくれないの?」不安そうに言った。
格ゲーマーは困ったように俺を見てから、彼氏を見る。
彼氏はちょっとムッとしているようだ。
「行こう」格ゲーマーが手を差し伸べる。
彼氏は分かりやすく、ふんっ、て顔をして奈乃のところに行った。そして奈乃に手を差し出す。
奈乃は微笑んでその手を取った。
彼氏は不機嫌そうにそっぽを向いたが、本当に不機嫌なようには見えなかった。
ツンデレかよ!
格ゲーマーは優しい目で微笑んで、奈乃の反対側の手を取った。
格ゲーマーは奈乃と楽しそうに話をしている。彼氏はあまりしゃべらなかったが、やはり優しい目で二人を見ていた。
親子かよ……。
キャンプ場に到着した。
担任と委員長が出迎える。
早速、川遊びをする。
バンガローを3棟借りていた。
1棟が男子の更衣室、1棟が女子の更衣室。もう1棟が奈乃の更衣室だ。
奈乃に奈乃のカバンを渡す。
みんなが何かを期待していた。いや、今日は女の子の奈乃として来ているんだから、どっちの水着を選んだのかわかるだろ。
奈乃はパーカーを羽織ってバンガローから出てきた。
俺はバンガローの入り口で奈乃を待っていた。
注目されたらバンガローから出てきにくいだろうということで、委員長から奈乃のバンガローに近づくことを禁止する通達が出ている。
エスコートの役は俺が拝命した。
「どうかな?」奈乃が恥ずかしそうに訊く。
いや、既に試着したときに見てるから。
「とても可愛いな」
奈乃は嬉しそうに俺の手を取った。そして奈乃が持っているバッグを預かる。
奈乃は明るい緑に黒の幾何学模様の襟が首まであるトレーナータイプのパーカーを着ている。オーバーサイズでおしりまで隠れる丈。パーカーから生足が出ている。水色のサンダルを履いている。
川辺に行く。川原の石は白くて綺麗だった。川の水も澄んでいる。夏だけど冷たそうだった。
「入ろうか?」俺はパーカーを脱いで海水パンツだけになる。
「うん」奈乃は恥ずかしそうにパーカーを脱いだ。俺はパーカーを預かる。
その間、訓練されたクラスメイトたちは全く奈乃の方を見ずに、全く自然に水遊びをしていたり友達と話をしたりしていた。
奈乃の水着はヒラヒラした飾りが付いた水色に白の水玉模様のセパレートタイプ。ボトムはビキニの上にひらひらしたキュロットスカートを穿いている。
胸パットがついているので、少し胸が膨らんでいるように見えた。
「日焼け止め、背中に塗って」
日焼け止めは塗ってあったみたいだが、背中は塗りにくいからな。
奈乃に預かったバッグから日焼け止めを出して背中に塗ってやる。
クラスメイトと水遊びをする奈乃は楽しそうだった。
俺のとこにもやって来て水をかけてくる。俺も水をかけ返す。
何か普通に仲の良いクラスみたいだった。
実際にそうなんだろうけど。
バーベキューも普通に楽しかった。バーベキューで火傷をするといけないから、奈乃にパーカーを着せた。
バーベキューが終わってから片付けをする。火傷するといけないからと言って、奈乃は大した仕事をさせてもらってなかった。女子に。
みんな、奈乃を甘やかしすぎだろ。
片付けが終わってから、昨日焼いたカップケーキを奈乃に渡す。
奈乃は一人一人カップケーキを配った。お礼を言われて、奈乃はとても嬉しそうだった。
「はい、羽崎ぃ」奈乃に笑顔でカップケーキを渡された。
「ありがとう」
カップケーキは昨日大量に食べた失敗作よりは美味しかった。
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