第24話 水着
羽崎正人は柏木奈乃の家に来ていた。
放課後。奈乃の妹の那由多に言われた通り、学校が終わってからすぐに奈乃の家に来た。
奈乃は着替え中だ。
那由多にコーヒーを出してもらって、ソファーに座って奈乃待ちだ。
那由多は既に私服に着替えている。
「那由多ちゃん、可愛いね」
那由多のお出かけ用の私服はとても可愛かった。奈乃の妹だけあって美人だ。
「私に気を遣って貰わなくていいですから」
いや、本心だけど。
「お姉ちゃんに言ってあげてください」
「お待たせー。羽崎ぃー」
奈乃が着替えて2階から降りてきた。
白のキュロットに黒のレギンス。白のノースリーブシャツはフリルがついて可愛いデザイン。中に薄いピンク色ののタンクトップを着ている。
三つ編みを左肩から前に垂らして白のリボンで結んでいた。
那由多が俺を見る。
奈乃を誉めろって事か。
「柏木、天使か?」
「え?」
「すごく可愛い」
「……ふぇ?」
奈乃は真っ赤になってアワアワしだす。
うん、可愛いな。
那由多は覚めた目で奈乃を見ていた。
いや、那由多が誉めろって言ったんだよね?
三人で家からでた。
奈乃はモノトーンのレザーバッグを肩からかけている。買い物で荷物が多くなる予定か。茶色のリボンの飾りがついたローファーを履いた。
那由多が見てくるので、俺は奈乃に左手を差し出す。
奈乃は嬉しそうに俺の手を取った。
奈乃は楽しそうに、どうと言うことのない話題を振ってくる。俺は奈乃の話をジャマしないように話をあわせて聞いていた。
那由多は黙って少し後ろをついてくる。
まだ明るい。暑い日だった。
バスで郊外型の大きなショッピングセンターに移動した。
大きな水着売り場だった。
女性用の水着売り場はちょっと恥ずかしい。
美少女? 二人を連れているのもかなり恥ずかしい。何なの俺? 場違いじゃない?
「羽崎さん、どんなのが良いですか? 好きな色とかありますか?」那由多に訊かれる。
「あんまり派手なのは……」奈乃が口を開きかける。
「お姉ちゃんには訊いてないから」那由多が奈乃を黙らす。
奈乃がしょんぼりする。
最近の那由多は奈乃に厳しい。
「どんな水着が良いかわからないよ」正直わからない。そもそも奈乃に女性用の水着が着れるのか?
「そうですね。形は制限されますが……。色や柄でよさそうのはありますか?」
「そうだねー。お姉ちゃんはピンクとか好きそうだね」
「あざといですよね。羽崎さんは?」
何か毒吐かなかった?
「水色とか、落ち着いた色かな?」
「柄は?」
「あんまり派手じゃない方がいいかな?」
「そうですね。あんまり派手だとオネエっぽくなりますからね」
やっぱり毒吐いてるね。
「那由多ちゃん。身内だってのはわかってるけど……、俺だって怒るよ?」いや、既に怒ってる。
那由多が俺を見てビクッとする。顔が青ざめる。
「……ごめんなさい」那由多はうつ向いた。
「羽崎ぃー」奈乃が俺の手を引っ張る。「こわいよ」涙目になっていた。
「ごめん、柏木。そんなに怖かったか? 怒ってないから」俺は慌てて笑い顔を作った。
「那由多ちゃん、ごめんね。あんまりお姉ちゃんをいじめないであげてね」
「……はい」
「体型を隠したい人用の露出の少ない水着は結構あるんです」そう言ってヒラヒラの多い水着を物色する。
「スポーツジムとかで着る水着は露出がほとんどないですけど、体型は隠せないですね」
「詳しいね」
「昨日ネットで色々調べました」
水色に近い色の水着を何着か選ぶ。
「どれが良いですか?」
どれも体型を隠せそうなデザインだった。
水色に白の水玉模様の水着を選ぶ。セパレートタイプ。ヒラヒラした飾りがついて全体的に体型を隠している。バストサイズも小さめでポケットタイプの胸パッドが付いている。ボトムはビキニの上にひらひらしたキュロットスカートを穿くタイプで、色々と体型をごまかせる。
「子供っぽくない?」奈乃が言った。
体型的に小さいサイズから選んでるからそうなる。
「羽崎さんの好みですか?」
「お姉ちゃんに、似合うと思うけど?」
「じゃあ、これにしましょう」
那由多は俺の意見しか聞く気はないようだ。
「サイズは大丈夫?」
「昨日の夜に採寸済みです。試着ができないのが不安ですが」
諸事情で試着はしないことにしていた。
「お姉ちゃんは絶対に試着しないんですよね」
まあ、仕方ないか。
「後は、水着用のインナーを買わないと」那由多は俺を見て、
「羽崎さん、すみません。ソファーで待っていてもらえませんか?」と言った。
会計の間は休憩用のソファーで待つことにした。
二人は男性用の水着のコーナーに寄ってから会計をしていた。
柏木家に帰る。
買い物の荷物を右手に持っていた。水着以外にもサンダルや川遊びキャンプに必要そうなものを那由多が選んで買っていた。
左手は奈乃がつないでいる。
「試着しましょう」家に着くと、さっそく那由多が提案した。
「え? 今?」
那由多の提案に奈乃が戸惑う。
「試着してないから、現地で問題があっても困るよね?」
「今じゃなくても……」奈乃が俺を見る。
「あ、俺、もう帰るよ」
「羽崎さんはいてください。お姉ちゃん、一番最初に見せるのが羽崎さんじゃなくてもいいの?」
別にいいんじゃないかな?
いや、那由多の希望か。奈乃の二股疑惑で那由多はお冠のようだ。
いや、付き合ってないから、浮気にはならないんだけどね。
那由多の中では、奈乃の彼氏は俺一択らしい。高評価の理由がわからない……。
奈乃は着替えに一旦退室した。
那由多がコーヒーを淹れてくれる。
「着替えだけでも大変じゃないの?」
「昨日の内に、お風呂で準備していたから大丈夫ですよ」
やっぱり、いきなりは着れないか。
「……着たよ」奈乃が引戸を少しだけ開けて顔を覗かす。
何か恥ずかしそうにしている。
那由多が立ち上がり、引戸を全開にして奈乃を引っ張って来る。
容赦ないな……。
俺の目の前に立たせた。ヒラヒラの水玉水着の奈乃がいた。生足は初めてか?
奈乃は真っ赤な顔でオドオドしている。
えーっと……。
「どうですか?」那由多が訊いてくる。
「……、可愛いと思います……」何で敬語使ったの、俺?
那由多は満足そうな顔をした。
「私は2階に引き上げます。一時間は絶対に降りてこないので、後はよろしくお願いします」
何をよろしくするの?
「え? 着替える」奈乃が慌てて、那由多と一緒に部屋を出ようとする。
「だめ。着替えは羽崎さんが帰ってから」そう言って、水着の奈乃を残して那由多は部屋から出ていった。
「どうしよう?」
いや、別に那由多の言いなりにならなくても良いのじゃないか?
あえて言わないけどね。
「とりあえず座れば?」
奈乃が隣に座る。
「横に座られると柏木の水着が見にくいな」
「見なくていいから!」奈乃が俺の頭を抱え込んで、腕で目隠ししてくる。
そのまま奈乃の膝の上に押し倒された。奈乃に抱き込まれたまま。
生足の膝枕。
一時間このままでも、特に悪くないかな。
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