第23話 クラスは一人のために

「羽崎、柏木。帰りゲーセン行かない?」


 羽崎正人は帰り支度をしているときに、クラスメイトから声をかけられた。


 前に俺と柏木奈乃と一緒にゲームセンターに行った格ゲークラスの男子だった。


 俺は柏木を見る。柏木は俺を見てくる。俺の返事次第ということらしい。


「いいよ。柏木もいいよな?」

「ああ。行くか」


「ゲームセンター? 私も行く」隣の席の女の子も声をかけてきた。

「じゃあ、みんなで行くか」格ゲークラスの男子が言った。


 いつの間にか人数が増えて10人程の大人数になった。


「これ、収拾つくの?」俺は格ゲー男子に話しかける。

「なんとかなるだろ」


 ゲームセンターへの道中、柏木は女の子たちに囲まれていたので、俺は格ゲー男子と話をしながら歩いていた。

 この前も一緒にゲームセンターに行った格ゲー男子の友達が彼の隣を黙って歩いている。

 何か話すべきかと思って話を振ろうとしたら、にらまれた。


 あー、はいはい。俺が格ゲー男子と話してるのが気に入らないんだな?


 俺も柏木が他の奴らと話してるときは遠慮してるんだ。お前も、格ゲー男子が他のやつと話してるときは我慢しろよ。

 ちなみに、格ゲー男子の友達は男子生徒だ。

 こいつら付き合ってんの? どっちが彼氏?



 ゲームセンターについてから、格闘ゲームで柏木は無双をやらかした。

 いや、やらかしだろ。


 俺を含めて、柏木に挑戦した男子生徒の全てが敗北した。格ゲーしたことある女子もいたが、やはり柏木に敗北する。


「羽崎、勝ったよ」柏木がいい笑顔で俺に報告してくる。

「柏木、違うゲームでも遊ばないか?」

「……、ごめん……」柏木はシュンとした。

 いや、怒ってないから。


 そのあと柏木は4人でできるレースゲームをしたり、いわゆるプリクラをしたりした。

 柏木はメンバーを変えて、何回もプリクラの筐体に入っていた。



 委員長から2年B組のグループSNSに連絡が入ってきた。

 部活しているクラスメイトも合流するらしい。

 カラオケ屋さんが指定されていた。


「羽崎、行くの?」

「ああ、行こう」

「そうだな」

 柏木は素直にカラオケに同意した。



 今朝の事件はクラス全員で共有されている。

 C組の有名人の高瀬雪穂とその友人が、朝のホームルーム前に俺たちのクラスで騒ぎを起こしたこと。

 皆、クラスメイトの柏木奈乃が侮辱されたことに怒っている。それ以上に、柏木奈乃が傷つけられたことを悲しんでいる。

 皆が、柏木奈乃を元気づけたいと思っている。


 ほとんどのクラスメイトがカラオケ屋に集まった。何故か担任まで。


 カラオケに途中合流した委員長が俺の隣にやって来た。


「次のクラス会だが」

 もう夏休みになるけど、やってる暇あるのか?

 と言うか、これ、既にクラス会みたいなものじゃないか?


「夏休みに、日帰りキャンプをやりたい」

 なるほど。

「川でバンガローを借りてバーベキューだ」

 いいんじゃないかな。


「目玉は、水着で川遊びだ」

「……はい?!」

 まてまて、水着だと? どっちの?


「柏木奈乃係りの羽崎にはクラスオーダーがある」

 いや、柏木奈乃係りって何? 生き物係りみたいなもの?


「柏木奈乃の参加。そして奈乃ちゃんの水着の購入だ」

 奈乃の水着だと?

 いいのかそれ?

「奈乃ちゃんの水着姿を見てみたい。クラスの皆も同じ願いだろう」

 いや、まあ、俺も見たいな。


「奈乃ちゃんに参加して欲しいとは思うけど、柏木でもかまわない。誰も文句いうやつはいないだろ」そう言って委員長は笑った。


「柏木が本気で嫌がることをさせるつもりはないぞ」

「知ってる」




 羽崎正人は柏木奈乃の家を訪れた。

 クラスでカラオケに行った次の日だ。さっそくクラスオーダーに取りかかる。


 奈乃に水着を着せる。これは俺の手には負えない。

 いや、ムリだろ。

 奈乃の妹の那由多に相談をしたい。


「ただいま」

「おじゃまします」

 すぐにスリッパをパタパタさせて那由多が出迎えに来た。

「いらっしゃい。羽崎さん」

「こんにちは、那由多ちゃん」

 那由多は嬉しそうに手を出してくる。

 え? 何? あ、カバンか。

 那由多にカバンを渡す。

 那由多は当たり前のようにカバンを受け取ると、俺を居間に案内した。


 那由多の接待レベルが上がっている。


「那由多。俺の扱いひどくないか?」柏木が文句を言ったが、那由多は無視した。


 柏木は着替えるために席を外す。


 洗面所で手を洗ったあと、ソファーで那由多にいれてもらったコーヒーを飲む。


「今度クラスで、川でバーベキューをするんだ」

「はい」

「川遊びもするから、水着がいるんだけど……」

「……、どっちの?」

「……お姉ちゃんの……」

「……羽崎さん、お姉ちゃんの水着が見たいのですか?」

「水着じゃなくて、水着を着ているお姉ちゃんをね」

「わかってますから」

「あ、はい」

 那由多は真剣に熟考しだした。

「ムリかな?」

「いえ、羽崎さんの希望でしたら、何とかします」


 那由多の接待が凄い。



「お待たせー。羽崎ぃー」奈乃が着替えて戻ってきた。

 ブカブカの白のTシャツ。下に黒のタンクトップを着ている。髪は後ろで黒のヘアバンドで留めていた。

 まあ、ラフな部屋着だった。


 膝上まであるシャツが気になる。


「ん? はいてるよ?」

 奈乃がシャツの裾をめくった。

 下に白の短パンをはいていた。


「柏木!」

「お姉ちゃん!」

 俺と那由多が同時に怒鳴った。


 奈乃が慌てて裾を戻す。

「ごめんなさい」シュンとした。



「お姉ちゃん、明日は早く帰ってきて。羽崎さんと一緒に」

「何で?」

「水着買いに行くから。お姉ちゃんの」

「……、水着はちょっと……」

「羽崎さんが見たいって言ってるから」

 奈乃が俺を見る。そして那由多に視線を戻す。


「あ、はい」



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